ちょうど4年前の今頃、2013年7月5-6日の2日間、青森県弘前市の山中に出かけ、アカシジミの大発生の様子を3D撮影する機会があった。初日は到着が午後遅くになったこともあり、現地の下調べを行い、翌日に備えた。2日目の夕方、大発生を目撃するのをあきらめかけた時、次のような群飛に出会うことができた。

夕方、木立の上に舞い上がり、飛翔するアカシジミの群れ(2013.7.6, 18:33 撮影動画からのキャプチャー画像)

同上、部分拡大(2013.7.6, 18:33 撮影動画からのキャプチャー画像)
この撮影旅行のきっかけは、2011年ごろ、NHKのニュースがこの地方で蝶のアカシジミが異常大発生していると伝えているのを見たことであった。
アカシジミは、日本に25種類いる「ゼフィルス」と呼ばれるシジミチョウの仲間で、北海道、本州、四国、九州に分布している。前翅長は16-22mmの小型の蝶で、幼虫の食樹は、コナラ、ミズナラ、ナラガシワ、カシワ、クヌギ、アベマキ、アラカシ、ウラジロガシなどのブナ科植物。平地では5-6月ごろ、寒冷地では7月に年一回出現する。日中は不活発で、夕刻になると活発に活動するとされている。
現在私が住んでいる長野県の東信地方でも比較的普通にみられる種ではあるが、まだ東京に住んでいた当時その種が大発生していると聞き、興味を持った。

アカシジミ(2013.7.6 撮影)
ニュースからおよそ2年後、妻とその話をしていて、今年も大発生が継続しているようなら現地に行ってみようかということになった。丁度JR東日本の「大人の休日クラブ」から、毎年7月上旬に3日間東北方面のJRと関連の各線をを自由に乗ることのできる「フリー切符」が発売されていて、これがアカシジミの発生時期とぴったり一致していることが判ったという事情もあった。
仕事仲間のM社を訪問した時にそんな話をしていたら、T社長が社員のTさんに、出張旅費を出してあげるから、一緒に行って3D撮影をして来なさいと言って下さった。これで我々夫婦も決心して、7月5日から7日までの3日間の東北行きが決定した。Tさんは仕事の都合もあり、7月5日と6日の2日間の参加であった。
せっかくの「フリー切符」である。アカシジミだけではもったいないなということで、我々二人は早朝東京を新幹線で出発し秋田まで行き、そこから五能線を「リゾートしらかみ号」に乗り、列車旅を楽しんだ。途中、「せんじょうじき」駅では下車し千畳敷海岸の散策ができるようダイヤが組まれていた。またその後、車内では民謡の車内放送と津軽三味線の生演奏があった。

千畳敷海岸隆起生誕200年記念碑(2013.7.5 撮影動画からのキャプチャー画像)

千畳敷海岸(2013.7.5 撮影動画からのキャプチャー画像)

「せんじょうじき」駅に停車中のリゾートしらかみ号(2013.7.5 撮影動画からのキャプチャー画像)
弘前には午後4時少し前に到着した。今回の撮影に同行することになったTさんは、前日の夜行バスで早々と弘前に到着していて、我々を弘前駅で迎えてくれた。我々とは親子ほど年の差がある若いTさんは、さすがに行動力があり、事前に私が予約してあったレンタカーを借りて、アカシジミが発生しているという山あいの現地の下見もすでにしてきたという。
我々もレンタカーに乗り込み、さっそくその現地に向かった。この日はあいにくの雨模様であったが、Tさんが見つけてあった場所に行ってみると、雨の中でもチラチラとアカシジミの飛ぶ姿が見える。その中の一頭が飛んできて妻の指先に止まり、我々を歓迎してくれた。また、道路わきの茂みには多数のアカシジミがすでに命が尽きて横たわっているのが見られた。今回蝶採集が目的ではなかったが、標本用にと思い10頭ほどのアカシジミを拾い上げた。後日、展翅してみるとかなり小さい個体も混じっていた。

梢の上を飛び回るアカシジミ(2013.7.5, 16:32 撮影動画からのキャプチャー画像)

妻の指先に止まり歓迎してくれたアカシジミ(2013.7.5, 16:40 撮影動画からのキャプチャー画像)

標本用に持ち帰り、展翅を済ませたアカシジミ(2017.5.27 撮影)
この日は18時近くまで周辺を探索し、いくつかのスポットで多数のアカシジミの姿を確認できた。だが、ブログなどの事前情報で得ていたような夕方の大群飛行動は、雨が激しかったせいか見られなかった。明日の撮影ポイントの確認を行って、宿に行くことにした。
この日の宿には、時期的に宿泊客が少なく、我々3名のほかには数名の姿が見えただけであった。3人で夕食を取りながら、あれこれアカシジミのことを話し合っていたところ、我々の食事が終わるのを見計らって、先ほどまで一人で食事をしていた私と同年代の男性が話しかけてきた。彼もまた、アカシジミの異常大発生の様子を撮影するために、埼玉県から来たということであった。しかし、天候も思わしくないので、明日は弘前でのアカシジミ撮影を諦めて、三陸地方の久慈近辺でのチョウセンアカシジミの撮影に予定を変更するのだと話した。
翌日、朝食の時に空を見ると天気は回復し始め、青空も一部望めるようになり、期待が膨らんできた。昨日言葉を交わした埼玉県からのSさんの姿はすでになく、早めに宿を出発されたものと思われた。このSさんからは、帰宅後すぐにメールが届き、この日は青森市内の湿地を少し見て帰宅したということで、我々が弘前でアカシジミの大群飛を目撃できたことを伝えると残念がっておられた。