水鳥にさほど関心のない方にとっては聞きなれない言葉かと思うが、表題の「エクリプス」というのは、カモ類などの種の♂に生じる羽衣の状態をさす言葉で、繁殖期終了後に換羽し、♀と同じような地味な羽衣の状態になることをこのように呼んでいる。
マガモの場合、このエクリプスの状態は、秋になり日本に渡来したばかりのころ見ることができるとされる。
エクリプス (eclipse)という語 は、ウィキペディアによると、「日食」や「月食」など天文現象における「蝕」を意味する英語とされ、ギリシア語で「姿を消す」、「力を失う」ことを意味する εκλειπσισ (ékleipsis) から、ラテン語を経て英語へ取り込まれたものである。
なるほど、日本に飛来したカモ類が一時期♀だけのように見えることがあるというが、これは♂がエクリプスになっているためで、上記の「姿を消す」という意味とつながっていることが理解される。
昨年、雲場池に飛来するマガモについて紹介したことがあるが(2020.4.7 公開)、その後1年を通じて観察していると、マガモは秋10月ごろになると姿を見せ始め、冬を過ごした後、5月には北に帰っていき、姿を消していた。
2020年1月から2021年1月まで、1年間の朝の散歩時に見ることができた雲場池の水鳥は次のようであった(2021.1.15, 2021.2.5 公開)。

雲場池で見られる水鳥(2020.1-2021.1)
この表からもわかるように、1年間を通じて雲場池で見られる水鳥はというと、カルガモだけで、マガモは5月中旬から10月中旬までは見ることができなかった。
ところが、雲場池の散歩を始めて2年目の今年は少し様子が違った。5月半ばころになって、他のマガモの姿が見えなくなってしまっているのに、北に渡ることなく雲場池にとどまるマガモ♂が1羽いたのである。
【5月13日】

雲場池に1羽だけとどまるマガモ♂(手前、後はカルガモ 2021.5.13 撮影)

雲場池に1羽だけとどまるマガモ♂(2021.5.13 撮影)
この♂のマガモは、カルガモと仲良く寄り添うようにして泳ぐ姿がその後も見られた。ただ、カルガモの雌雄は私にはこの写真だけではよくわからない。
【5月28日】

雲場池に1羽だけとどまるマガモ♂(右、左はカルガモ 2021.5.28 撮影)

雲場池に1羽だけとどまるマガモ♂(2021.5.28 撮影)
初めのうちは、まだぐずぐずしているのかと思っていたが、6月になっても姿を見ることがあり、これは北に帰ることができない何か身体的な理由、例えば傷を負って飛べなくなったといった理由があるのだろうと思うようになった。
そうしているうちに、このマガモ♂は次第に羽色が変化し、頭部から首にかけて見られていた美しい緑~青色の構造色が失われていった。この頃になってようやく、エクリプスとはこの状態のことかと気がついた。きちんと日を追って撮影していたわけではなく、変化していく様子を詳細には撮影できていないのだが、手元にある画像から変化の様子を紹介したい。
【6月21日】

頭頸部の構造色が消え、エクリプス状態に変化したマガモ♂(2021.6.21 撮影)

エクリプス状態に変化したマガモ♂(2021.6.21 撮影)

エクリプス状態に変化したマガモ♂(左、右はカルガモ 2021.6.21 撮影)

エクリプス状態に変化したマガモ♂(左、右はカルガモ 2021.6.21 撮影)
【6月26日】

エクリプス状態に変化したマガモ♂(2021.6.26 撮影)

エクリプス状態に変化したマガモ♂(左、右2羽はカルガモ 2021.6.26 撮影)
【6月28日】

マガモ♂エクリプス 1/10(2021.6.28 撮影)

マガモ♂エクリプス 2/10(2021.6.28 撮影)

マガモ♂エクリプス 3/10(2021.6.28 撮影)

マガモ♂エクリプス 4/10(2021.6.28 撮影)

マガモ♂エクリプス 5/10(2021.6.28 撮影)

マガモ♂エクリプス 6/10(2021.6.28 撮影)

マガモ♂エクリプス 7/10(2021.6.28 撮影)

マガモ♂エクリプス 8/10(2021.6.28 撮影)

マガモ♂エクリプス 9/10(2021.6.28 撮影)

マガモ♂エクリプス 10/10(2021.6.28 撮影)
この頃になると、マガモ♂の羽衣はすっかり変わっていて、♀とよく似た姿になっている。冬撮影した雌雄の羽衣と比較すると次のようである

冬のマガモ♂(2021.2.8 撮影)

冬のマガモ♀(2021.2.8 撮影)

マガモ♂エクリプス (2021.6.28 撮影)
以下次回。