妻が、購読紙の日曜版に出ている「パズル&クイズ」の中のクロスワードを熱心に解いていて、たまに「タテのカギ」や「ヨコのカギ」を指さして、ここは何が入るのだろうかと尋ねてくる。
紙面のクロスワードの下の方には「数独」という別のパズルが出ている。ナンプレとも呼ばれるこのパズルのことはもうずいぶん前から知っていて、何回か挑戦したことがあるので、その解法はだいたいわかっている。
妻のクロスワードが完成したところで、今度は私が数独を解いてみることにした。久しぶりなので一応、〈ルール〉と〈解き方のコツ〉という所と「例題」があるので、これらに目を通してから始める。
先ず〈ルール〉から見ると、「あいているマスに1から9までの数字のどれかを入れます。タテ列、ヨコ列(各9列)、太線で囲まれた3X3のブロック(9マスのブロックが九つ)のどれにも1から9までの数字が一つずつ入ります。」とある。これは知っている。
例題の解き方を見ると、「『この数字はここにしか入らない』という場所を見つけましょう。例えば、例題の右上のブロックで1に注目してみましょう。このブロックではまだ1が入っていないので、どこかに1が入るはずです。3のすぐ上のマス以外では、タテやヨコの列にすでにある1と重複してしまうので『このブロックの1は、3のすぐ上のマスに入る』と決められます」とあっけなく1の入る位置が決まってしまう。
この解説の必要部分だけを図示すると次のようである。黄色く塗った部分には1は入れない。
ここだけ見るといとも簡単であるが、こうした簡単に解が判るようなブロックと数字を見つけるのが問題で、慣れると直感的に判るようになるのかもしれないが、初心者には探し出すのに時間がかかる。
〈解き方のコツ〉には「すぐに見つけられないところは後回しにして、別の数字や場所を探しましょう。」と文章が続く。
これに従って、例題をさらに続ける。1が確定したこのブロックの中でまだ決まっていない数字2,4,6,7,9の位置を探すと、7もまた1と同様に確定することがわかる。次のようである。
右上のブロックでは、これ以上位置の確定する数字はないので、別のブロックに移ることになる。こうして、根気よく位置が確定するブロックとその中の数字を探っていくことで、最終的にすべてのマスの数字を埋めることができるというパズルである。
この例題では、ほかに上段中央、中段左、同中央、同右、下段中央のブロックでも同様に、それぞれ、3、2と3と7、9、5、7(図の赤数字)の位置が確定することがわかる。これらの数字は、あらかじめ配置されている27か所のヒントの数字だけで決定される。9つあるブロックの内、こうして第一段階で確定できる数字が見つかるのは次のように6つのブロックの9か所ということになる。
これらの確定した数字をマスに追記し、ヒントとなる数字を増やして、改めて同様の操作を繰り返す第二段階に進むことになる。この例題の場合、十段階目で最後の2か所の4を埋めることで、全体のマスを完成させることができた。ちなみに「例題」は毎週同じものが使用されている。
今回は、すこし分析的に見ていこうと思い、上記のように最初のヒントで決定される数字がすべて決まったら、これらの数字を加えて次のヒントにして、次の段階に進み、以下も同様にしてステップ・バイ・ステップの方法を採ってみた。その結果が10回のステップという結果になった。
しかし、実際にはもっと早く正解にたどり着くことができる。例えば第三段階は下図の左側ような配置になり、下段中央のブロックの4が確定するが、この時、同時に4のすぐ上のマスには6が確定する(右側の図)。タテの列は4を埋めることでそのすぐ上の空白のマスには6以外の数字が入らなくなるからである。
ただしかし、今回はこうした一つのマスが確定することにより決まる別の数字はこの段階では入れずに、次まで待つことにして進めた。その結果が十段階ということである。
ここで6を決定した方法は、購読紙の〈解き方のコツ〉には示されていないが、容易に理解できるものである。
以前このナンプレに取り組んだときには、鉛筆と消しゴムを片手に行い、次第にマスが黒くなってきていた覚えがあるが、今はパソコンでエクセルに問題を書き写して上記のようにマスに色をつけながら解いていけるので、うっかりミスがほとんどなくなる。ただ、以前のように鉛筆片手に行う方が頭の体操にはいいのかもしれないとは思う。
このように、この「例題」ではある数字が入ることのできるマスを探す方法と、あるマスに入る数字を探す方法とを組み合わせることで、最終的にすべてのマスを埋めることができたが、別の解説書によればこの2つの方法は初心者のもので、このほかにも初級テクニックには2つの方法があるとされる。
さらに、中級・上級テクニックもあって、合計14の解法テクニックがこの解説書では紹介されている。14番目のテクニックは「背理法」という名前がつけられていて、「どうしても手を進めることができない場合に使用します。」とある。
この背理法とは「候補となる数字が少ない(原則2つの)マス」がある場合、「誤った数字を選択した場合は進めていくうちに矛盾が発生します。その場合、選択した数字は誤りとなり、もう一つの数字が正解となります。逆にたまたま選択した数字が正解であれば矛盾は発生しません。」というものである。
こうした高等テクニックを駆使しなければ先に進めないといった問題も作出されているだろうから、ナンプレはなかなか奥深く、多くのファンがいるのもうなずけるのである。
ナンプレには世界選手権や全日本選手権もあるそうで、世界選手権の正式名称は World Sudoku Championship(世界数独選手権)だが、公式な日本語名は、商標の関係もあり「世界ナンプレ選手権」となっている。
選手権のルールは、制限時間内に何問解けたかを競う「スコアアタック形式」とされる。そうなると、上記の様々なテクニックを駆使して素早く解いていかなければならないということになる。
さて、例題と解説書で解法が理解できたので、問題に取り組んでみた。先ずは例題の時と同じように、問題に示されているヒントの数字26個をたよりにマスを埋めることにして始めた。もしかしたら、どこかの段階で初級テクニックの2つの方法では先に進めることができないという状況になるかもしれないと思っていたが、実際にはそうしたことは起きず、順を追って進めることで、十二段階目ですべてのマスを埋めることができた。
一般読者を対象とした問題なので、中級・上級テクニックが必須になるといった問題は出題されていないようである。最終段階の数字の配置は次のようであり、最後に1と5(赤字)を同時に埋めて完成した。背景が灰色のマスは最初に設定されていたヒント26か所の数字である。
この問題の場合も、各段階で、ある数字が確定すると、連動して別の数字が確定するということが起きる。ステップ・バイ・ステップの場合はこの連動して確定する数字は次に回していたが、そうしないで、どんどん芋づる式に数字を埋めていくと、第六段階で次のように9つの空白のマスが残る。このマスには1,2,4,5、9のいずれかが入るが、4から始まり、9、2・・・と一気に確定していくので前記の方法に比べて少ないステップ数で完成させることができた。
ところで、購読紙には紹介されていないが、ナンプレとクロスワードとを組み合わせたようなパズル「ナンクロ」(ナンバークロスワードパズル)というものもある。
義父が晩年ずっとこのナンクロの専門雑誌を購読していて、問題を解いて投稿していたと妻が話してくれた。義母は義父が亡くなった時にこの雑誌と愛用の鉛筆とをそっと棺桶に忍ばせたとも教えてくれた。
地方都市で開業医をしていた義父は、チョウの採集と標本作りを趣味にしていて、妻や義兄を伴って家族で遠くは石垣島にまで採集旅行に出かけていたという。妻と義兄も採集と展翅に協力し、義母は標本のラベル作りを受け持っていたが、妻がやや成長したある時、「チョウを殺すのは可哀そう、私はもう手伝わない!」と宣言してしまった。
これをきっかけに、義父はチョウの採集を止め、代わりに伝統こけしの収集や野生のスミレの栽培を始めたというが、その後たどり着いた趣味が「ナンクロ」ということになる。
私も義父の亡くなった年齢に次第に近くなっているが、チョウの写真・ビデオ撮影とスミレなどの野草をミニ・ロックガーデンで栽培して楽しんでいるので、どちらの趣味にも妻からのストップがかかる心配はない。したがって、まだ今のところ「ナンプレ」や「ナンクロ」にはたどり着いていない。