軽井沢からの通信ときどき3D

移住して11年目に入りました、ここでの生活と自然を写真と動画で発信しています

ホタル

2024-08-02 00:00:00 | 日記
 初めてホタルを見たのはいつだったのか、もう思い出せないが、小学生の低学年の頃住んでいた大阪市内でも見ることができた。あたりには田んぼが広がり、その周囲を流れている溝のような場所でも、ホタルが生育していたようである。

 大学生になって間もないころだったと思うが、小学校の同窓会で和歌山県の紀ノ川の支流にあるキャンプ場に一泊で出かけたことがあった。現地近くに着いたのは日が暮れかかった頃で、キャンプ場に向かう途中の渓流沿いの道で、それまでに見たことのないくらいのたくさんのホタルが飛び交っていたことを、思い出す。

 この光景を随分珍しく思った記憶があるので、そのころはもう大阪市内では見られなくなっていたのだろうと思う。

 次にたくさんのホタルに出会ったのは、1995年頃のことで、広島県三次市にある工場に勤務していた時であった。当時この工場に社長として赴任してきたNM氏は、昆虫好きで、若いころは地元新潟の越佐昆虫同好会に所属し、トンボの採集をしていたという人である。

 ある夏、そうした昆虫談義をしていて、ホタル狩りに行ってみようということになった。早速、子供用の捕虫網と虫かごを買い、宿舎の単身寮から少し離れた田園地帯に車で出かけた。

 そこでは、久々に大量のホタルに出会うことができ、童心に戻って夢中になりホタルを採集し、虫かごに数十匹を入れて寮に持ち帰り、それぞれの部屋に放した。

 ホタルはやがて開け放してあった窓から飛び出して、次第に姿を消していった。

 その後しばらくホタルを見る機会はなかったが、ある時妻の発案で、京都・高尾のホタル鑑賞に母を誘って行ってみようということになった。2012年頃だったと思う。

 京都駅前のホテルに一泊し、ホテルが企画したバスツアーに参加するもので、夕方出発して、現地ではホタルを見ながら、川床での夕食をするというものであった。

 この時も、目の前を流れる川の対岸付近から、川床の上空辺りを飛ぶホタルを多数見ることができ、京都ならではの優雅な気分に浸ることができた。

 軽井沢に移住してからは、すぐ近くでホタルを見られるようになった。さすがに自宅周辺というわけにはいかないが、車で10分程度離れた場所にある発地の水田地帯の「ホタルの里」に行くとホタルを保護し育成している場所があり、ゲンジボタルとヘイケボタルの両方をみることができる。

 今年6月下旬ころ、チョウ仲間で、それぞれにバタフライガーデンを主催しているMSさんやTMさんと話していて、そろそろホタルが見頃ですよと教えていただいた。これまで知らなかったのだが、TMさんのバタフライガーデン近くの渓流には毎年かなりの数のホタルが発生しているのだという。

 前日、その現地に行って数百匹のホタルを見てきました・・・というMSさんからの電話に背中を押されて、私たち夫婦も夕方カメラ持参で現地に行くことにした。

 渓流への入り口には小さな小屋があり、ここにTMさんが座っていて受付をしていた。料金徴収をするのではなく、TMさんらしく、見学に訪れる方々の人数把握や住所などのデータを収集しているのである。同時に、うす暗くなった道案内や、当日までのホタルの発生状況についての情報提供もしていただける。

 ホタルのいる場所までは、狭い坂道を下りていくことになる。ところどころに照度を落とした照明は最低限設置はされているが、やはり足元を照らすものは必要である。

 この日、私としては初のホタルの撮影に挑戦するつもりであった。そのためにわか勉強で、撮影条件などをネットで検索をして調べ、三脚も持参して行った。

 観察路の最奥部付近に辿り着いてみると、周囲には数十匹のホタルが淡い光を放ちながら飛び交っている。数メートル上空にもたくさんの光の軌跡が見られ、これまでに見た中でもホタルの数は多い方である。

 早速、撮影に取り掛かったが、思うように撮影できていないことに気がついて諦めていたところ、奥の方から三脚を抱えたカメラマンが戻ってきた。挨拶をし、ホタルの撮影は難しいですね・・・と話しかけると。「撮影方法を教えてあげましょう」との返事が返ってきた。

 先ず、私のカメラを確認し、次いで撮影条件を教えていただいた。ISO感度の設定、色温度の設定、シャッタースピード、レンズの絞り値、焦点距離の設定などなど。

 教えていただいた数値は、ほぼ私がネットで確認したものと同じようであった。あとは、ひたすらくり返しシャッターを押し続けることだと教わった。

 つまり、ホタルの撮影は1回の撮影で行うのではなく、三脚を固定して、同じ場所で複数回撮影を繰り返し、これを撮影後に重ね合わせる操作を行うのだという。これまで私は知らなかったが、比較明合成という方法があるのだと教えていただいた。

 タイムラプス機能があれば、これを設定することで、長時間のくり返し撮影が自動的に行えるので、何度もシャッター操作をする必要がなく便利だとも教えていただいた。このカメラマン氏は、ホタルのほか、花火と星の撮影を専門としているとのことであった。

 この日は、すでに遅くなり、飛翔するホタルの数も減ってきたので、翌日もう一度撮影に来ることにして帰宅した。この日撮影した写真はほとんどまともにうつっているものはなく、かろうじてホタルが写っているものは次の1枚だけであった。


軽井沢の渓流を飛ぶホタル(2024.7.4 撮影)

 翌日は、より念入りに撮影準備をして出かけ、前日よりも順調に撮影は進んだ。カメラをほぼ水平方向に向けて、渓流上を飛んでいるホタルの撮影をしていると、横で妻が北斗七星が見えると言う。上空を見上げると、両側からせり出している木々の間から見えるためか、暗くなってきた空に北斗七星が一段と大きく輝いて見える。

 この北斗七星を背景にしてホタルが撮れるといいねとの妻のアイデアに、早速カメラの向きを上空に変えて、撮影を行った。こうして、この日は北斗七星を背景に写し込んだものを含め、ようやくホタルらしい光跡を撮影することができた。


北斗七星をバックに飛翔するホタル(2024.7.5 撮影)

 3D写真仲間のTY氏に数枚の写真を送ったところ、氏は先刻「比較明合成」のことは承知で、私からの複数枚の写真を合成し、直ちに返送してくれた。次の写真である。
 
 比較明合成を行うと、ホタルの光跡は増えてくるが、同時に北斗七星が移動しているので、星の輝点もまた増えるという難点がある。暗い背景にホタルの光跡だけを写す場合には問題ないが、今回のように星を背景に写し込もうとすると、撮影回数だけ星の数が増えて、やや煩わしいものになってしまうことがわかった。

 私としては、比較明合成を行わずに、できるだけ多くのホタルの光跡が写っている写真を選んだ方が自然で、いいように感じるが、この辺は意見が分かれるところかもしれない。


6枚の写真を「比較明合成」した画像(2024.7.5 撮影、TY氏合成)

 この時、TY氏とは3D撮影をしてみてはどうだろうか、との話題に移っていった。
 
 もともと、当ブログではもっと多くの3D写真を紹介する予定であった。しかし、撮影機材の性能に不満があったことと、掲載したとしても私の友人諸氏には3D写真を見る手段が限られているという現実があるため、ほとんど実施してこなかった。

 撮影機材としては、FujiFilm製の3Dカメラ以外に、JVC製3Dビデオカメラや、一眼レフカメラを2台用いる方法などを用意していたが、あまり使うことも無くなっていた。そこで、3D撮影用に購入したままお蔵入りしていた2台の一眼レフを引っり出して、ホタルの撮影を行うことにした。このカメラは当時としては画素数が最多で、電子レリーズが改造可能な機種で、SONY-α350である。電子レリーズは、2台のカメラのシャッターを同時に操作できるようにしている。この2台のカメラを全く同じ撮影条件にあらかじめセットして撮影に臨むことにした。

 翌日は生憎の雨模様で、その次の日に3度目の撮影に出かけた。現地受付にいたTMさんには「すっかりホタルの撮影にはまってしまいましたね」と笑われる始末であった。

 こうして2台のカメラで撮影した左右のそれぞれ6枚の画像を、再びTY氏に送り、比較明合成していただいた写真は次のようである。ここでは星の位置を調整して、数が増えて見えないように工夫していただいている。ブログの画面では限界があるが、立体視ができていると思う。


北斗七星とホタルの3D写真(平行法 2024.7.7 撮影、TY氏合成)


北斗七星とホタルの3D写真(交差法 2024.7.7 撮影、TY氏合成)

 撮影したホタルの写真を整理しているところに、元の勤務先のOB会から訃報が届いた。突然のことに驚いたが、先に紹介した三次でホタル狩りに一緒に出掛けたNM氏のものであった。7月1日に85歳で亡くなられていたという。

 あの時、単身寮の部屋の窓から飛び出した数匹のホタルが絡み合いながら上空高く飛び消えていった光景を思い出し、NM氏の魂の安らかなことを願った。

 
  
 


 

コメント
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