前回からの続きになる。
脱皮を繰り返しながら、幼虫はどんどん大きくなる。その様子を見ていると面白いことに気がつく。幼虫の胴体は、脱皮後成長していくが、頭部は固い殻(クチクラ)でできていて、こちらは一度脱皮してから次に脱皮を迎えるまで、大きさに変化は無いように見える。実際に、全く変化しないものかどうか厳密なことは今回観察できていないが、見たところではそのようである。
それで、脱皮の瞬間を迎えると、内部からひとまわり大きくなった頭部がせり出してきて、それまでの頭部の殻は次第に剥がれて、新しい頭部の口元にぶら下がるようにしてくっついている。まるで、寸法の合わない小さなお面をくっつけているようで、なかなかユーモラスな光景である。
脱皮が始まり、古い頭部の殻を新しい頭部の口元にぶらさげた状態の2齢幼虫(2016.6.3 撮影の動画からのキャプチャー画像)
古い頭部の殻を脱ぎ捨てて現れた、ひとまわり大きくなった新しい頭部は、はじめ白っぽい色をしているが、時間と共に変色して、次第に脱皮前の茶褐色になっていく。
このヤママユより少し早いタイミングで成長していくウスタビガを同時に飼育していたが、こちらは脱皮を繰り返すごとに体の色と紋様が大きく変化していき、何齢であるかがわかりやすいのであるが、これに比べるとヤママユは変化が少なく、注意してみないと脱皮したかどうかわからず、今何齢かということも、判りにくい。
そのせいかどうか、手元においていつも参考にしている「イモムシハンドブック」(2014年 文一総合出版発行)のヤママユの項の齢数は不明となっている。今回私が見たところ、すべての幼虫は4回脱皮し、5齢になると繭を作り始めるのであるが、何か理由があってこのように記載されているのであろうか。ヤママユのページの前後を見ると、カイコとウスタビガの齢数は5齢になっているが、シンジュサン、クスサン、ヒメヤママユ、オオミズアオ、エゾヨツメなど多くの種の齢数も不明と記載されている。
前回見たように、1齢幼虫は黄緑色の体に縦に黒い縞模様が走っている。また、頭部の後方と尾部の上面に黒班がある。これが2齢になると、黒い縞はほとんど見えなくなる。また、脱皮直後には見えないが、しだいに濃くなってくる黒点も、1齢に比べると位置が変化して、頭部のすぐ後と、尾脚の両脇にみられる。
このように比較的はっきりとした変化があるとまだ判りやすいが、2齢から3齢への脱皮のばあいは、いまひとつ特徴がつかみづらい。頭部の色は1~2齢では茶褐色であるが、3齢ではやや緑色に変わり、4~5齢では緑色であるとされるが、脱皮直後と次の脱皮直前とでは体の大きさだけではなく、色や文様なども微妙に変化してくるので、よく見ないと今何齢なのかわかりづらいというのも事実である。ただ、脱皮前後の二匹を並べてみると、次のようであり、その違いがわかりやすい。
最初は、脱皮前の1齢幼虫(左)と、脱皮後の2齢幼虫(右)のツーショット。1齢幼虫の縦縞模様がはっきりしている。
ヤママユの1齢幼虫(左)と、脱皮後の2齢幼虫(右)(2016.5.26 撮影動画からのキャプチャー画像)
次は、脱皮前の2齢幼虫(右)と、脱皮後の3齢幼虫(左)のツーショット。2齢幼虫の黒斑は、脱皮直後の上の写真では見られなかったが、脱皮直前になるとはっきりと見える。
ヤママユの2齢幼虫(右)と、脱皮後の3齢幼虫(左)(2016.6.3 撮影動画からのキャプチャー画像)
この写真にも見られるが、3齢になると尾脚が大きく発達して、横に張り出すようになる。この尾脚が枝などをつかむ力は強大で、幼虫を移動させようとしてつまんで枝から引き離そうとしても簡単にはいかない。下手をすると幼虫の腹部を破ってしまうことがあるという。
ところで、幼虫の、餌のコナラの葉の食べ方は、1齢の場合は食べる量もごく僅かで、特にこれといった特徴はみられなかったが、早くも2齢になるとヤママユらしさが見られ、葉脈に沿って齧る傾向がみられるようになる。まず2齢幼虫の食餌の様子から見ていただく。
ヤママユ2齢幼虫の食餌(2016.5.28, 16:32~33 撮影)
続いて2齢幼虫が脱皮して、3齢になるところを見ていただく。
ヤママユ2齢幼虫の脱皮(2016.6.4, 12:34~13:48 最初の30秒間は30倍タイムラプスで、その後はリアルタイムで撮影後編集)
次に、これは常にこうした行動を取るわけではないのだが、脱皮して3齢になった幼虫が、少し経ってから、脱ぎ捨てた殻を食べる様子が撮影できたので紹介させていただく。
脱皮後の殻を食べるヤママユ3齢幼虫(2016.6.5 12:54~13:36 30倍タイムラプスで撮影)
この場合のように、幼虫にコナラの葉を1枚づつ与えていると、脱皮した殻はそのまま葉の上に残っているが、コナラの枝ごと容器に水差ししている場合には、脱皮後の殻は、下に落下することもあり、幼虫がこれを食べることはできない。幼虫が、脱ぎ捨てた殻を食べる理由は明らかではないが、捕食者に見つからないためだとすれば、殻が落下すればそれでいいわけで、枝や葉に残っている場合にだけ食べる必要があることになる。今回撮影したケースはそれに当てはまるのかもしれない。
幼虫が、3齢くらいになると食べるコナラの葉の量も増え、エサの確保が次第に大変な仕事になってくる。自宅庭にコナラの木があると問題ないのであるが、近隣のお宅の庭にはあっても、残念なことに我が家にはコナラの木はない。そこで、山地に出かけて、コナラの枝先を採取することになる。たくさんの幼虫を飼育していたので、このコナラ採取作業が数日おきの日課になった。
自然界では、野鳥などの餌になり幼虫の数は減少していくのであろうが、飼育しているとほとんど数が減ることもなく、幼虫はすくすくと成長していく。このころまで、200匹ほどの幼虫を飼育し続けたが、さすがにこの先のことを考えるとエサの確保が非常に大変なことになるのが目に見えてきたため、対策が必要になった。
庭先にコナラの木が生えている、ご近所の奥様に妻が話を持ち掛けると、「飼ってみたい!」ということになり、数匹が養子に出た。このお宅では、幼虫がコナラの葉を食べているところを眺めていると、「癒される」のだそうである。最終的に羽化するところまでを見届けていただいた。
そのほか、軽井沢から少し離れた場所に別荘を持つ友人に幼虫を貰っていただいた。ここは、軽井沢に較べるとやや気温が高く、庭にはコナラのほかクヌギの木も多くあったので、幼虫にとってはより良い環境に移ることができたのではないかと思っている。
ところで、幼虫の脱皮の始まりから完了まではかなりの時間がかかるため、その様子を撮影するにはタイムラプスで行うことが多くなる。直接目で観察していると、なかなか気づかないのであるが、30倍のタイムラプスで撮影した映像を後で見ていると、脱皮がはじまる少し前から、幼虫の体は波うつような動きを見せる。そして、頭部の後ろの皮膚が破れて、古い皮膚は胸の方へさらに尾脚の方へとたぐり寄せられるように縮んでいく。これは、どの齢の場合も同じであるし、他種の蛾や、蝶の場合でも同様であるが、見るたびに感心させられる。
孵化から4週間が過ぎ、6月の中ごろになると、3齢から4齢への脱皮が始まった。
ヤママユ3齢幼虫の脱皮(2016.6.16, 14:00~16:44 30倍タイムラプスで撮影後編集)
4齢の幼虫は、色や外観が次の5齢ととてもよく似ていて間違えそうになるが、頭部の形状と大きさに違いがあり、よく見ると区別がつく。5齢の頭部は前の方がより平坦である。
ヤママユ4齢幼虫の脱皮(2016.6.24, 22:58~23:20 最初の10秒ほどは30倍タイムラプスで、その後はリアルタイムで撮影後編集)
5齢(終齢)ともなると、食欲はとても旺盛になり、コナラの葉1枚を一気に食べてしまう。その時の食べ方はなかなか几帳面で、先に紹介したとおりである(2017.7.28 公開)。ヤママユの仲間は、この終齢幼虫時に食べるエサがその生活史の最後のものとなる。このあと、大きくなった身体に蓄えた養分だけで、糸を吐いて繭を作り、その中で蛹になり、そしてまゆから抜け出して成虫の蛾になって、次世代の卵を残して死んでいくというすべての活動をおこなう。成虫となった蛾には口がないとされるので、ヤママユ蛾は羽化してからも何一つ口にすることはないのだそうである。繭作りが始まる7月中旬から羽化が始まる8月中旬まで、約1か月余かかる。驚くべき生命力である。
孵化時の幼虫は体長6-7mmほどで、体重は0.006gであったものが、およそ2か月後の繭を作る前の終齢幼虫では、体長7-9cm、体重15-20gほどにまで成長していた。
終齢幼虫の体長測定(2016.7.9 撮影動画からのキャプチャー画像)
今回はここまでで、次回、ヤママユの繭作りをご紹介する。
脱皮を繰り返しながら、幼虫はどんどん大きくなる。その様子を見ていると面白いことに気がつく。幼虫の胴体は、脱皮後成長していくが、頭部は固い殻(クチクラ)でできていて、こちらは一度脱皮してから次に脱皮を迎えるまで、大きさに変化は無いように見える。実際に、全く変化しないものかどうか厳密なことは今回観察できていないが、見たところではそのようである。
それで、脱皮の瞬間を迎えると、内部からひとまわり大きくなった頭部がせり出してきて、それまでの頭部の殻は次第に剥がれて、新しい頭部の口元にぶら下がるようにしてくっついている。まるで、寸法の合わない小さなお面をくっつけているようで、なかなかユーモラスな光景である。
脱皮が始まり、古い頭部の殻を新しい頭部の口元にぶらさげた状態の2齢幼虫(2016.6.3 撮影の動画からのキャプチャー画像)
古い頭部の殻を脱ぎ捨てて現れた、ひとまわり大きくなった新しい頭部は、はじめ白っぽい色をしているが、時間と共に変色して、次第に脱皮前の茶褐色になっていく。
このヤママユより少し早いタイミングで成長していくウスタビガを同時に飼育していたが、こちらは脱皮を繰り返すごとに体の色と紋様が大きく変化していき、何齢であるかがわかりやすいのであるが、これに比べるとヤママユは変化が少なく、注意してみないと脱皮したかどうかわからず、今何齢かということも、判りにくい。
そのせいかどうか、手元においていつも参考にしている「イモムシハンドブック」(2014年 文一総合出版発行)のヤママユの項の齢数は不明となっている。今回私が見たところ、すべての幼虫は4回脱皮し、5齢になると繭を作り始めるのであるが、何か理由があってこのように記載されているのであろうか。ヤママユのページの前後を見ると、カイコとウスタビガの齢数は5齢になっているが、シンジュサン、クスサン、ヒメヤママユ、オオミズアオ、エゾヨツメなど多くの種の齢数も不明と記載されている。
前回見たように、1齢幼虫は黄緑色の体に縦に黒い縞模様が走っている。また、頭部の後方と尾部の上面に黒班がある。これが2齢になると、黒い縞はほとんど見えなくなる。また、脱皮直後には見えないが、しだいに濃くなってくる黒点も、1齢に比べると位置が変化して、頭部のすぐ後と、尾脚の両脇にみられる。
このように比較的はっきりとした変化があるとまだ判りやすいが、2齢から3齢への脱皮のばあいは、いまひとつ特徴がつかみづらい。頭部の色は1~2齢では茶褐色であるが、3齢ではやや緑色に変わり、4~5齢では緑色であるとされるが、脱皮直後と次の脱皮直前とでは体の大きさだけではなく、色や文様なども微妙に変化してくるので、よく見ないと今何齢なのかわかりづらいというのも事実である。ただ、脱皮前後の二匹を並べてみると、次のようであり、その違いがわかりやすい。
最初は、脱皮前の1齢幼虫(左)と、脱皮後の2齢幼虫(右)のツーショット。1齢幼虫の縦縞模様がはっきりしている。
ヤママユの1齢幼虫(左)と、脱皮後の2齢幼虫(右)(2016.5.26 撮影動画からのキャプチャー画像)
次は、脱皮前の2齢幼虫(右)と、脱皮後の3齢幼虫(左)のツーショット。2齢幼虫の黒斑は、脱皮直後の上の写真では見られなかったが、脱皮直前になるとはっきりと見える。
ヤママユの2齢幼虫(右)と、脱皮後の3齢幼虫(左)(2016.6.3 撮影動画からのキャプチャー画像)
この写真にも見られるが、3齢になると尾脚が大きく発達して、横に張り出すようになる。この尾脚が枝などをつかむ力は強大で、幼虫を移動させようとしてつまんで枝から引き離そうとしても簡単にはいかない。下手をすると幼虫の腹部を破ってしまうことがあるという。
ところで、幼虫の、餌のコナラの葉の食べ方は、1齢の場合は食べる量もごく僅かで、特にこれといった特徴はみられなかったが、早くも2齢になるとヤママユらしさが見られ、葉脈に沿って齧る傾向がみられるようになる。まず2齢幼虫の食餌の様子から見ていただく。
ヤママユ2齢幼虫の食餌(2016.5.28, 16:32~33 撮影)
続いて2齢幼虫が脱皮して、3齢になるところを見ていただく。
ヤママユ2齢幼虫の脱皮(2016.6.4, 12:34~13:48 最初の30秒間は30倍タイムラプスで、その後はリアルタイムで撮影後編集)
次に、これは常にこうした行動を取るわけではないのだが、脱皮して3齢になった幼虫が、少し経ってから、脱ぎ捨てた殻を食べる様子が撮影できたので紹介させていただく。
脱皮後の殻を食べるヤママユ3齢幼虫(2016.6.5 12:54~13:36 30倍タイムラプスで撮影)
この場合のように、幼虫にコナラの葉を1枚づつ与えていると、脱皮した殻はそのまま葉の上に残っているが、コナラの枝ごと容器に水差ししている場合には、脱皮後の殻は、下に落下することもあり、幼虫がこれを食べることはできない。幼虫が、脱ぎ捨てた殻を食べる理由は明らかではないが、捕食者に見つからないためだとすれば、殻が落下すればそれでいいわけで、枝や葉に残っている場合にだけ食べる必要があることになる。今回撮影したケースはそれに当てはまるのかもしれない。
幼虫が、3齢くらいになると食べるコナラの葉の量も増え、エサの確保が次第に大変な仕事になってくる。自宅庭にコナラの木があると問題ないのであるが、近隣のお宅の庭にはあっても、残念なことに我が家にはコナラの木はない。そこで、山地に出かけて、コナラの枝先を採取することになる。たくさんの幼虫を飼育していたので、このコナラ採取作業が数日おきの日課になった。
自然界では、野鳥などの餌になり幼虫の数は減少していくのであろうが、飼育しているとほとんど数が減ることもなく、幼虫はすくすくと成長していく。このころまで、200匹ほどの幼虫を飼育し続けたが、さすがにこの先のことを考えるとエサの確保が非常に大変なことになるのが目に見えてきたため、対策が必要になった。
庭先にコナラの木が生えている、ご近所の奥様に妻が話を持ち掛けると、「飼ってみたい!」ということになり、数匹が養子に出た。このお宅では、幼虫がコナラの葉を食べているところを眺めていると、「癒される」のだそうである。最終的に羽化するところまでを見届けていただいた。
そのほか、軽井沢から少し離れた場所に別荘を持つ友人に幼虫を貰っていただいた。ここは、軽井沢に較べるとやや気温が高く、庭にはコナラのほかクヌギの木も多くあったので、幼虫にとってはより良い環境に移ることができたのではないかと思っている。
ところで、幼虫の脱皮の始まりから完了まではかなりの時間がかかるため、その様子を撮影するにはタイムラプスで行うことが多くなる。直接目で観察していると、なかなか気づかないのであるが、30倍のタイムラプスで撮影した映像を後で見ていると、脱皮がはじまる少し前から、幼虫の体は波うつような動きを見せる。そして、頭部の後ろの皮膚が破れて、古い皮膚は胸の方へさらに尾脚の方へとたぐり寄せられるように縮んでいく。これは、どの齢の場合も同じであるし、他種の蛾や、蝶の場合でも同様であるが、見るたびに感心させられる。
孵化から4週間が過ぎ、6月の中ごろになると、3齢から4齢への脱皮が始まった。
ヤママユ3齢幼虫の脱皮(2016.6.16, 14:00~16:44 30倍タイムラプスで撮影後編集)
4齢の幼虫は、色や外観が次の5齢ととてもよく似ていて間違えそうになるが、頭部の形状と大きさに違いがあり、よく見ると区別がつく。5齢の頭部は前の方がより平坦である。
ヤママユ4齢幼虫の脱皮(2016.6.24, 22:58~23:20 最初の10秒ほどは30倍タイムラプスで、その後はリアルタイムで撮影後編集)
5齢(終齢)ともなると、食欲はとても旺盛になり、コナラの葉1枚を一気に食べてしまう。その時の食べ方はなかなか几帳面で、先に紹介したとおりである(2017.7.28 公開)。ヤママユの仲間は、この終齢幼虫時に食べるエサがその生活史の最後のものとなる。このあと、大きくなった身体に蓄えた養分だけで、糸を吐いて繭を作り、その中で蛹になり、そしてまゆから抜け出して成虫の蛾になって、次世代の卵を残して死んでいくというすべての活動をおこなう。成虫となった蛾には口がないとされるので、ヤママユ蛾は羽化してからも何一つ口にすることはないのだそうである。繭作りが始まる7月中旬から羽化が始まる8月中旬まで、約1か月余かかる。驚くべき生命力である。
孵化時の幼虫は体長6-7mmほどで、体重は0.006gであったものが、およそ2か月後の繭を作る前の終齢幼虫では、体長7-9cm、体重15-20gほどにまで成長していた。
終齢幼虫の体長測定(2016.7.9 撮影動画からのキャプチャー画像)
今回はここまでで、次回、ヤママユの繭作りをご紹介する。
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