「新しく買った本 8月」の続きです。
③『ある晴れた夏の朝に』 小手鞠るい 偕成社2018.8
1992年に渡米し、現在もアメリカに住み、小説から子どもの本まで幅広く執筆している小手鞠さんのアメリカを舞台にした作品です。
日系アメリカ人のメイ・ササキ・ブライアンの15歳の夏の物語です。「戦争と平和を考える」というテーマの討論会に参加することになったメイ。公開討論会では「広島と長崎への原子爆弾の投下について」肯定派と否定派に分かれて意見を闘わせるのですが、日本人の母を持つメイは否定派の一人。討論会は4回。8人の高校生がそれぞれの立場で真剣に考え、調べ、相手の発表を予想し、それに対抗していく姿は、緊張感に満ちたものです。戦争中の日本軍やアメリカ軍の知られざる実態が次々に明らかにされていきます。討論会を通してメイは大きく成長し、日本や日本語についてもっと知りたいと思います。10年後、メイは中学校の英語教師として日本にやってきます。
原爆投下について、これほど真剣に考えた子どもの本を知りません。差別や偏見のない平和な社会を実現するためにどうしたらいいか、作者の熱い思いが伝わります。中高生にぜひ手渡したい作品です。
④『ディダコイ』 ルーマー・ゴッテン 猪熊葉子訳 評論社1975.12
生粋のジプシー(旅する人たち)の父とアイルランド人の母を持つ女の子、キジィの物語。題名の「ディダコイ」とはキジィのように、生粋のジプシーでない人のことを意味します。旅する人たちに対する無理解と偏見が渦巻く中で、さらに「ディダコイ」であるということは、旅する人たちからさえ差別の目でみられることになります。
両親を早く亡くし、トウィス提督が旅する人たちのために開放している果樹園で、曾祖母と馬のジョーと一緒に荷馬車(ワゴン)で暮しているキジィは幸せでしたが、学校へ行かなければならなくなり、一変します。さらに曾祖母の死により、心も体もボロボロになって、トウィス提督に助けを求めたキジィは重い肺炎にかかっていました。トウィス提督のお屋敷は、もう何年も60歳の提督と50代の従僕と45歳の馬丁の、男3人だけの生活になっていましたが、キジィの看病を見事にやり遂げます。
一方、孤児になったキジィの面倒を誰が見るか、ライの町の法廷で話し合うことになります。提督のお屋敷でこのままキジィを預かることは認められず、ブルックさんという女性が「私が預かります」と申し出ます。自分の殻に閉じこもったまま、心を開こうとしないキジィですが、次第に信頼できる大人としてブルックさんを認めていきます。キジィにとって、何が一番いいか、提督もブルックさんも考え、キジィを支えます。そんな時、キジィは女の子たちの集団による凄まじいいじめにあいます。どうやっていじめた子たちとキジィの関係を修復していくか、ブルックさんの考えの深さに脱帽です。
キジィの強さと馬を愛する気持ちが心に残ります。すてきな大人が登場する良質の物語です。みんなが幸せになる結末はさらに感動的です。
1972年の作品ですが、今の子どもたちにも手渡してあげたい物語です。
⑤『夢見る帝国図書館』 中島京子 文芸春秋社2019.5
今、話題の、大人にお薦めの作品です。
明治39年に出来上がった帝国図書館の建物は、現在、国際子ども図書館として2004年に全面オープンされました。100年前、帝国図書館がどうやってできていったか、人々にとって図書館がどんなものであったか、著名な人々が図書館に足を運び、そこでどんな出会いがあったか、図書館を主人公に描かれる物語と、2004年に上野の森で出会った喜和子さんと雑誌記者の「私」の物語が交差しながら進んでいきます。戦後の混乱の中を生きた幼い喜和子さんにとって図書館が意味したものは何だったか、次第に明らかにされる喜和子さんの人生も興味深いです。
図書館の良さを改めて感じることのできる作品です。