場所・和歌山県新宮市 浮島の森
和歌山県の新宮市の伝説。
県のホームページに載るほどだから、紀ノ國では有名な話なのだろう。
和歌山県企画部「和歌山県の民話」
美少女おいの
源平のころ、このあたりに、おいのという美しい娘がいた。木こりをしていた父のもとへ、昼の弁当を届けるのを日課としていたが、ある日、父が浮島の森へ行ったため、おいのも森へ入った。
この日おいのは、あちこち遊び回りたいと思い、自分も昼の仕度をして行った。父に弁当を手渡した帰り、石に腰をおろして弁当をひらいたところ、ハシを忘れたのに気づき、ススキの茎を折り、ハシの代りとした。
森の中は夏でも涼しく、あまりの快さに思わずうっとりとし、眠気をもよおした。遠く聞こえる規則的な父の斧の音に、しだいに夢の国へ誘われるようであった。
ふと物音に気づき、われにかえると、黒い大蛇が目の前に鎌首をもたげている、思わず「助けてっー。父さん」と叫んだが、すでにおそかった。
おいのの身体は、ひと抱えもある大蛇の大きな口にくわえられて、身動きもできない。
しきりに父を呼びつづけるおいのの抵抗も空しく、大蛇はゆうゆうと沢の茂みへ姿を消してしまった。
そこへ息せき切ってかけつけた父親は、池の面にただよう血なまぐさい空気に、不幸なできごとのすべてをさとった。
家に帰り、妻とともに再び森に引き返した父は「蛇の穴」と呼ばれている沢の片隅の穴のそばで両手をつき「せめて、娘の姿をもう一度みせて下さい」と、くり返し哀願したところ、一陣の強風が吹き起り、にわかに暴風雨となったかと思うと、大蛇が哀れなおいのをくわえて鎌首をもたげ、またたく間に蛇の穴へと姿を消してしまった。
父親と母親は、いま一度と何度も頼んだが、二度と再び、大蛇は姿をみせなかった。
おいのは、池の主に魅せられて若い命を落したのだった。
それ以来、熊野の人たちは、決してススキをハシの代りに使わなくなったという。
撮影日・2013年6月5日
和歌山県の新宮市の伝説。
県のホームページに載るほどだから、紀ノ國では有名な話なのだろう。
和歌山県企画部「和歌山県の民話」
美少女おいの
源平のころ、このあたりに、おいのという美しい娘がいた。木こりをしていた父のもとへ、昼の弁当を届けるのを日課としていたが、ある日、父が浮島の森へ行ったため、おいのも森へ入った。
この日おいのは、あちこち遊び回りたいと思い、自分も昼の仕度をして行った。父に弁当を手渡した帰り、石に腰をおろして弁当をひらいたところ、ハシを忘れたのに気づき、ススキの茎を折り、ハシの代りとした。
森の中は夏でも涼しく、あまりの快さに思わずうっとりとし、眠気をもよおした。遠く聞こえる規則的な父の斧の音に、しだいに夢の国へ誘われるようであった。
ふと物音に気づき、われにかえると、黒い大蛇が目の前に鎌首をもたげている、思わず「助けてっー。父さん」と叫んだが、すでにおそかった。
おいのの身体は、ひと抱えもある大蛇の大きな口にくわえられて、身動きもできない。
しきりに父を呼びつづけるおいのの抵抗も空しく、大蛇はゆうゆうと沢の茂みへ姿を消してしまった。
そこへ息せき切ってかけつけた父親は、池の面にただよう血なまぐさい空気に、不幸なできごとのすべてをさとった。
家に帰り、妻とともに再び森に引き返した父は「蛇の穴」と呼ばれている沢の片隅の穴のそばで両手をつき「せめて、娘の姿をもう一度みせて下さい」と、くり返し哀願したところ、一陣の強風が吹き起り、にわかに暴風雨となったかと思うと、大蛇が哀れなおいのをくわえて鎌首をもたげ、またたく間に蛇の穴へと姿を消してしまった。
父親と母親は、いま一度と何度も頼んだが、二度と再び、大蛇は姿をみせなかった。
おいのは、池の主に魅せられて若い命を落したのだった。
それ以来、熊野の人たちは、決してススキをハシの代りに使わなくなったという。
撮影日・2013年6月5日
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