中国共産党は11月3日、中央委員会第5回全体会議が採択した第14次5カ年計画案と2035年までの長期目標案の概要を公表した。その中で米国等との技術覇権争いを制する為、”科学技術強国”の建設を急ぎ、生命科学や人工知能(AI)など先端分野の研究に国を挙げて取り組むと宣言した。
しかし、中国の科学技術強国戦略は今回始まった訳ではなく、同様な計画は以前からある。2008年に策定した千人計画等である。中国の優秀な学生は海外で高度研究に取り組むことが多いが、その多くが留学後も海外に残っている。この状況を打開するために世界最高レベルの大学から華僑や外国生まれの優秀な人材を中国に招致し、中国の大学の規模と威信を世界一に高めることを目的とする制度である。日本も科学技術立国政策を掲げているが、ここまで徹底していない。
このような政策の下、中国の科学技術は急激に伸びている。日本の文科省の「科学技術指標2020」によれば、中国の16~18年の論文数は米国を抜いて初めて首位となり、注目度の高い論文の数も長くトップを走る米国に迫る。英国の組織による世界大学ランキングで上位100に入る数も中国が日本より多いそうだ。
一方、日本では国立大学の地盤低下が進んでいる。例えば大学院の博士課程を修了した後、任期付きの職に就いているポスドクと称する研究員は、ポスドクの主な就職先となる大学や研究機関のポストは増えず、民間企業も採用には消極的であり、次に進む道を探しつつ研究を続けていかなければならない中途半端な状況に陥っており、このような状況では博士課程に進みたい人間は減る一方である。当然研究のレベルも下がる訳である。
研究者は生活の安定が保証され、十分な研究費と研究の場が与えられれば、研究に没頭したいと思うのは当然のことだ。中国が2008年から始めた”千人計画”は外国で活躍する研究者を国籍を問わず集める国家プロジェクトだ。約10年で中国系を中心に約8千人が対象となったそうだが、当然日本からの参加者もいる。
数千万円規模とされる研究費を提供してくれるところに出かける研究者を頭脳の海外流出と非難する政治家もこのような状況を作ったのも自分自身であることを反省しなければならない。
資源の少ない日本は科学技術立国しか生きる道は無い。中国の科学技術強国に立ち向かうためには資金面の充実等、国を挙げて対策を講じなくてはならない。
折りしも、菅首相は温室効果ガス排出量を2050年までに実質ゼロとする目標を宣言した。これを実現するためには種々の革新的な技術の研究・開発が必要となる。これらの環境対策技術のみならず、次世代に向けた6G等の通信技術、人工知能(AI)、生命科学、等日本が生き残るために世界に抜きん出なければならない。
歴代の内閣は何れも成長戦略を掲げたが失敗してきた。科学技術立国を目指す日本としては国を挙げて取り組まなくてはならないが、日本学術会議の推薦者数人を任命拒否するようなミクロ的な観点ではなく、日本の将来を総合的・俯瞰的に判断しなければならない筈だ。2020.11.11(犬賀 大好ー650)
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