パリといえばエッフェル塔
東京と言えば東京タワー
気仙沼といえば
かまぼこ校舎
気仙沼湾の内湾のランドマーク
安波山の山麓を囲む街の中に
ひときわ高く屹立する建築
校舎の上に載せられたかまぼこ屋根の
体育館
たぶん
四十年ほど前から
そこに建つ
スカイツリーは巨大だが滑らかで
できるだけ
異物であることを和らげようとしている
ように見える
  . . . 本文を読む
テレビのコマーシャルに
知ってる人と似ている人が出ている
最近では
タイヤのコマーシャルの最後
そこまでのコマーシャルをどこかの食堂のテレビで見ていた態の
男女が
東北弁で
何とか言う
「おれ、こどしはこれにすっかな…」
みたいな
ネイティブ・スピーカーに間違いない
気仙沼弁と言ってもいいかもしれない
この男が
あの人物に似ている
気仙沼の . . . 本文を読む
光る海
晴れた日に青い空の下きらきらと輝いている海
静かな海
小さな波がいちめんに波だっている
そのひとつひとつに
日の光が映っている
三方を海に囲まれた岬に立って
私は海を見ている
茫然と
呆然と
光る海を
光る波の集まりを
眺めている
おまえは何を考えているのか
何を思い出しているのか
問いかけられているかのように
. . . 本文を読む
新しい建築が完成すると
それがすぐに見慣れた風景になってしまう
取り壊された以前の構築物は
もはや古い記憶のようにかすんでしまう
そこには
大きなポプラが二本川岸に並んでいた
大きなポプラと
少しだけ丈の低いポプラと二本
ふたつ並んでいた
小さな方の一本は嵐で自然に倒れ
大きな方のもう一本は危険木として
人為的に倒され
もはやひとびとの淡い記 . . . 本文を読む
建築が完成すると
それがすぐに見慣れた風景になってしまう
取り壊された以前の構築物は
もはや古い記憶のようにかすんでしまう
そのもう少し前には
大きなポプラが2本川岸に並んでいた
大きなポプラと
少しだけ丈の低いポプラと2本
夫婦のような樹木
夫婦ポプラ
夫婦杉でも
夫婦松でもない
ポプラであれば
恋人ポプラとか
そのほうが似つかわしいか . . . 本文を読む
あ
変わってる
フェンスで両岸を囲った
コンクリートで固めた都会の川沿いの
舗装道路に面した
2階建ての木造建築の正面が改装されて
菓子店か喫茶店か
前は
普通の民家だった
と思う
印象に残らない
ありふれた建物だった
この建物の
新しくなった古びた造りの
木製のドアを引いて
ちょっと覗きこんでから
中に入ってみたい . . . 本文を読む
暖かくなって
桜が咲く
不思議はない
3月が過ぎて4月も進んで半ばを過ぎた後に
桜が咲く
不思議はない
この頃に一斉に咲くように品種改良された桜
江戸の在で造られた品種
この庭から一望する桜の八割以上はこの桜
に違いない
その一本一本は種から芽が出て成長した個体ではない
すべてクローンだ
いやクローンと言えば何かおぞましいが
接ぎ木か挿し木で増殖された樹木
そこらにあり . . . 本文を読む
(絵・常山俊明)
鉄の塊
くすみきった赤と青の漆黒の
不安定な形態で
H型鋼の支柱でようやく支えられ
いつまで
いつまで
そこに居座っているのか
抗うように
ざらざらと無数の刺のように
軽々と海に浮かんだ三年前の記憶
求めるべくもない失われた至福の . . . 本文を読む
切りとった大きな窓
床面からの大きな窓
窓際に二人がけのテーブルとイスが並んだ
その向こうに内湾の狭い水面が見える
手前にはまだ工事中の未舗装の駐車場
対岸にコンクリートの建物
4階建てや3階建て
とびとびの敷地
木造の建物が流された跡地
小高いところに
屋内体操場を上に乗せたコンクリートの校舎
かまぼこ校舎と呼ばれたランドマーク
(エッフェル塔もできた当時はかまびすしいパ . . . 本文を読む
内部はがたがただよ
がたぴしがたぴし
リズミカルに
がたごとがたごと
動いているのでなくて
風に吹かれたように
地面の揺れに揺られるように
ランダムに
不定期に
乱雑に
がたがた
ごとごとご
がががががが
ごごごご
がったんごっとんがが
ぐいぐいぐ
柱が
壁が
屋根が
窓が
床が
音を立てる
. . . 本文を読む
許して下さい
立ち入ることを
建物の中に
あなたの支配する領分に
ご免下さい
あなたは何かを悩んでおられる
その顔の色に苦悩は明らかに見える
その苦悩を語って下さい
見ず知らずの
とまでは行かなくても
顔と名前は知ってるよ
くらいの人間に
何を語れとおっしゃるのか
と怪訝な表情をあなたは見せている
だから
許して下さい
. . . 本文を読む
首筋が固い
硬直している
リンパ腺も腫れている気がする
風邪だろうか
昨日は風が強かった
陽射しはあっても
気温は上がらなかった
零度を
上回ることがなかった
ようだ
喉が枯れている
ようだ
扁桃腺がいかいかする
微妙な感じ
微妙な感じで
もちこたえている
. . . 本文を読む
まえを見て
走れ
だれかが走っている
つながる
移動する
走行する
だれが走っているのか
だれか
だれかが走っている
男かもしれず
女かもしれず
よく見えない
判別できない
しかし
確かに誰かが走っている
走れ
つながる
だれかにつながる
移動しながら
運動しながら
変動しながら
走れ
同じ . . . 本文を読む
気仙沼の人間はカッコ悪いことが嫌いだ
ひと真似は場合による
カッコいい人の真似をしてカッコ良ければ良い
カッコいい人の真似でも結果カッコ悪ければ良くない
もともとカッコ悪い人の真似などもっての他だ
波止場の
船のロープをつなぐ例の金属のモノ
あれなんていうのか良く分からないけど
あれに片脚乗っけて肘をついたりして
つまりポーズをとる
ヒュー
カ . . . 本文を読む
そうだ
笑ったほうがいい
なにか気のきいたことを言って
笑わせてくれ
涙
は
うれしいときだったり
笑い過ぎて涙腺が圧迫されたときに
流すのがいい
悲しくて泣く
のは願い下げにしたい
ひとがけなげな行いをしたときに
流れてしまう涙は
微妙だ
多くの場合
その前提に悲しいことがなければならない
だから単純に喜ぶことができ . . . 本文を読む