ぼくは行かない どこへも
ボヘミアンのようには…
気仙沼在住の千田基嗣の詩とエッセイ、読書の記録を随時掲載します。

怠け者の経済学

2009-02-07 22:58:25 | 寓話集まで
ぼくたち人間は太陽のエネルギーが地球上に燦々とふりそそぐことによって造られ生かされている
父なる太陽母なる大地

土は無機的な石の破砕された粉ではなく生きている細菌の集合だ
植物は土に生かされている
動物は植物に生かされている
動物と植物は土に還える
言うまでもなく人間は一種の動物だ

いつの間に労働が価値に姿を代えるのだろう
いつから交換が利潤を生んだのだろう
なぜぼくたちは米をつくったり自動車をつくったり詩を書いたり
おしゃべりしたり文通したり恋愛したり商売したりするんだろう

空想上の南の島では人々は腹が空けばバナナをとって食べパパイヤ・マンゴーを食べ魚を釣って食べ腹がくちくなれば木と木の間に吊るしたハンモックに横になる
そうして暮らしている
この島では太陽と地球の産物が価値であり労働は価値ではない
だれともなんにも交換する必要がない
ひとはそんな地上の楽園を夢想する

しかしひとは
何かに抗って何かざらざらしたものに直面してやっとの思いで急な坂を登るようにして生きていく
力を尽くして狭い門から入ろうとする
ジュリアン・ソレルのように成り上がろうとする

食って生きるだけで満足できないのはどうしてだろう
競争してしまうのはなぜだろう
なんでより良く生きようとするんだろう
坂道をのぼりきったところは極楽で
狭い門のなかは天国なのだが
それらはつまり死んだあとの祭り
そんなものを求めているわけではない

(お前は本当の地獄を知らないと地下世界から無数の怨霊が阿鼻叫喚する
 いつでも地獄を見せてあげると薄気味悪く誘惑する)

怠け者の経済学が今構想されなければならない
勤勉は価値ではない苦行であった業であった
こどもをつくることが喜びであり快楽であるように人間の行為は幸福な自然の成り行きでなければならない
怠け者の経済学が今構想されなければならない
人間の生産でなく太陽と地球の生産に基礎を置く
人間と人間の交換でなく人間と自然の循環を研究する

怠け者の経済学が成立し流布し影響力を持つまでぼくらは相当真面目に研究し実証し行動しなければならないつまり勤勉でなければならない
怠け者の経済学なんて人間の歴史の否定で暗黒の時代への退行に過ぎないかもしれないのに


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1 コメント

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私はジュリアン・ソレルである… ()
2009-04-03 23:18:19
 これは、愚直なまでに生までストレートな主張であり、夢想。こんなふうに生きられたらどんなに楽かと夢見るが、1週間もしたらあきあきして飛び出したくなるんだろうな。
 浦島太郎も、地上に帰ってきたし。
 人間って、成長したがり、より良く生きようなんて志を持ってしまう。
 内山節の講演を、お隣岩手県室根村(現一関市の一部)の小学校の体育館で聴いて、深く感銘を受けながら、しかし、と乱筆で手紙を書いた記憶がある。この詩を書く前だったか、後だったか。
 ジュリアン・ソレルは、スタンダールの赤と黒の主人公。狭き門は、聖書というよりも、ジッドの小説から。
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