ぼくは行かない どこへも
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気仙沼在住の千田基嗣の詩とエッセイ、読書の記録を随時掲載します。

森田朗 会議の政治学Ⅱ 慈学社出版

2016-10-01 14:26:29 | エッセイ

 森田先生の本、シリーズ2冊目である。1冊目の初版は2006年ということだが、私は、昨年の4月に第2刷を読んでいる。続編が出る、と予告されていたが、2014年12月初版ということは、読んだ時点ではすでに出版済みであったということである。

 1冊目も、取り扱うのは政府の審議会ということで、市役所という地方政府の審議会めいたもの(法律や条例に基づく「審議会」という名称の会議はないが、戦略会議とか、検討委員会とか)を、いくつも担当してきた身としては、まさしく、これこれ、と言いたいような書物であった。

 「地方自治体における会議の政治学―宮城県気仙沼市における実例をもとに」みたいな本は、書けるし、書いてみたい、などと思ったものである。もし興味ある、読んでみたいなどという方がいれば、退職後にまとめたみたいものだという思いはある。

 で、この会議の政治学というのは、対話がまさしくディベートでもあるような場であり、直前に読んだ「オープンダイアローグ」とは正反対の事態を扱っている、とも言えるようなものである。しかし、会議というのは必ずしもディベートの場、勝ち負けの場ではないはずである。あることがらについて共通理解を深め、前向きで合意できる解決策だったり、計画だったりを共有していく場のはずである。実は、肝要なことは通底している、みたいなことすら言えるのではないか。

 さて、まえがきに、こんなことが書いてある。

 

 「とくに、役所関係でたくさん設置されている審議会は、それが重要な役割を担っているにもかかわらず、役所の「隠れ蓑」といわれるように、形式的にはともかく、本来それに期待された機能を果たしていないのではないか、という批判の声も強い。」(2ページ まえがき)

 

 「前書では、ある意味で洗練された形態をもつ会議といいうる審議会について、その実態を、会議の場面だけではなく、その裏方の事務局の仕事ぶりを含めて描いてみた。」(2ページ)

 

 さまざまな審議会に、委員として、座長として、また、裏方として関わってきた著者だからこそ書ける本である。言うまでもなく、行政学者であり、地方自治を論じてきた学者である。

 今回は、同じく審議会等について、続編として、さらに掘り下げ、また別の局面を描く、ということになる。

 

 「本書は、このようなテーマについて、まず第一章で、会議における決定の手続きと内容の関係を探ってみる。そして、第二章で、会議の運営に重要な要素であるメンバーの行動を、「顔」を立てるというときに使う「顔」ということばに着目して論じてみたい。そして、第三章では、最近の審議会改革の方向について考察する。」(3ページ)

 

 「顔」。

 会議のメンバーは、無色透明な人間ではない、決して公正中立な人間ではない。それぞれの背景を持った、それそれの意見をもつ、時に選出母体である所属団体の意向を託された代表者である。

 審議事項について、事前に予断を持たず、ゼロベースから、説明を聞いて、そこで良し悪しを判断していく審議委員などというものは存在しない、といっていい。

 その意味で、どんな委員を選任するかで、ほぼ、その審議会の結論は決まっていると言っていい。

 そんななかで、中立的な立場で、予断を排して、その場の議論の成り行きをよく聞いて、その後に判断していくことが期待されている委員はいるわけだが。そういうのは、あくまで程度問題に過ぎない。

 どんな「顔ぶれ」が並んでいるかで、その審議会の結論はほぼ決まっているといって、あながち間違いでない。

 で、その「顔ぶれ」を決めるのが、実は事務局の仕事、ということになる。建前上は、そうではないが、事実上は、そうである場合が多い。

 以上は、私が、経験したことも踏まえながら書いていることだが、そういうようなことも含めて、著者は、実例を踏まえつつ緻密に書いていく。

 (事務局の果たす役割については、前著の方が詳しいかもしれない。)

 ということで、大変に興味深い著作である。

 

 「すべての章に共通しているのは、会議という場を通して現れてくる人間臭い政治的要素は何かということである。まさにそれが、私が関心をもち、論じたいと思っている「会議の政治学」の本質である。」(4ページ)

 

 「政策決定がいかに科学的に行われるようになったとしても、本書で述べたような、決定における政治的な要素は決してなくなることはないであろう。そうである限り、いかに「天の邪鬼」といわれようと、「へそ曲がり」と揶揄されようとも、私は、この面白い、会議や組織における人間観察をやめるつもりはない。再び観察結果がまとまったならば、発表することを夢みている。」(169ページ あとがき)

 

 このまえがきとあとがきの間の本文は、手に取って存分に味わっていただきたい。

 実は、3冊目「会議の政治学Ⅲ」もすでに手元にある。楽しみにしているところである。

 前著についての紹介は、下記のとおり。

http://blog.goo.ne.jp/moto-c/e/a2662f39eccdd28d27d3a6d22fd72d90

 


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