田中輝美さんは、日本で唯一の「ローカルジャーナリスト」を自称している。
ローカルなジャーナリストは、それこそ山のように存在する。
ローカルに視点をあてたジャーナリストとしては、亀地宏さんがいた。元日本経済新聞の記者で、全国の地域に焦点を絞り、地域に生きる人々、市町村の職員にスポットをあてた。
言うまでもなく、ローカルなメディアの記者はたくさんいらっしゃる。身近なところでは宮城県を中心とした東北をエリアとする河北新報や、気仙沼の三陸新報や、ローカルの話題をローカルに提供する媒体。このローカルなメディアの重要性は言うまでもない。その地域に、その地域を圏域とするローカル紙があるかどうかは、その地域の独立性というか、文化度というか、そこを大きく左右するものだ。気仙沼に三陸新報がなかったとしたら、宮城県の中で、単に仙台から一番遠い場所、一番印象の薄い場所という位置に甘んじるほかなかったかもしれない。ローカルなメディアがないということは、その地域にとって致命的な欠陥であるとすら言いたいほどだ。
おっと、ちょっと脇道にそれた。
ローカルなジャーナリストは、日本全国に、数で言えば、中央のメディアに負けないくらい、というか、それ以上にたくさん存在する。
そういうなかで、田中さんが名乗るローカルジャーナリストとはいったいなにものなのか?
田中さんのHPを見ると「地域に暮らしながら、地域を記録、発信するジャーナリストのこと」だそうである。
普通のローカルなジャーナリストも、そういうことは行っている。日々の新聞記事を取材し、書くという行為はそういうことにほかならない。
どこが違うのだろうか。恐らく、ふつうの地方紙の記者は、「地域に暮らしながら地域を記録し、『地域の中に』発信」している、ということになるに違いない。
田中さんは、「地域に暮らしながら地域を記録し、『地域の外に』発信」しようとしているのだろう。
「外に」とは書いていないが、発信という言葉は、通常、ある枠組みの中のことを、外に向けて知らせていくということだろうから、あえて明記する必要もないということにはなるのだろう。
そういえば、全国紙の支局や通信部だったり、NHKの地方局の記者たちは、どうなんだろう。県内版とかローカルニュースも担当しつつ、時折全国向けのニュースも発信している。「地域のことを『地域の外に』発信」している。
しかし、彼らは、軸足が地域にはない、ということだろう。組織としての軸足はまさしく中央にある。日本のど真ん中にどっしりと立っている、というか、座り込んでいる、とすら言ってもいいかもしれない。地域に、ほんとうには暮らしていない、ということになるのだろう。
田中輝美さんはローカルジャーナリストを自称し、「地域に暮らしながら、地域を記録、発信するジャーナリスト」であろうと宣言する。この立ち位置は唯一無二であると。世にジャーナリストは数多存在する、その中で、この立ち位置は唯一無二であると発見した田中さんは、偉大である、と私は思う。
で、この本は、田中さんと、藤代裕之法政大学社会学部準教授の指導する学生たちの合作である。
藤代氏は、徳島新聞の記者から大学の教員に転身した方のようで、かれもまた、ローカルジャーナリストを自称されてもいいのだろうが、現在は中央の大学の教員であるから、その資格がないということになるのだろう。
「風の人」とは、「土の人」ではない。
地域の風土は、風と土で成り立つ。
「土の人」とは土着の人。地域で生まれ育ち、地域に住み続ける人。
「風の人」は、そこに来たと思ったら定着せずに吹きすぎるように去っていく人。ただ、まあ、すぐに吹き去るのではなく、しばらくは滞在して、ということではある。
田中さんの手になる「はじめに」にこうある。
「『風土』という言葉もあるように、地域には「土の人」と「風の人」がいる、と言われます。土の人とは、その土地に根付いて、受け継いでゆく人のことです。土の人はもちろん地域を支える大切で欠かせない存在ですが、土の人ばかりでは、どうしても新しい発想や視点が生まれにくい面があります。」(13ページ はじめに)
地域を大切にしようという論旨から言うと、「土の人」こそが大切であって、他に移り住む「風の人」、そうだな、このあたりの言葉で言うと「旅の人」という言い方があるな、そういう人たちは信用がならない、美味しそうなところばかり掬い取って、あとには、草一本も残らない、みたいな言い方をされることが多いはずだ。
ところが、田中さんは、そうとは思わないという。
「日本の未来を考えれば考えるほど、地域には風の人が必要だ、と思うようになりました。」(13ページ)
で、そういう風の人、島根に暮らす8人を取り上げ、研究室の7人の学生と、田中さんとで一人づつ担当し書き上げたのが、この本ということになる。
「今、地域は最も新しい、未来をつくる人たちがチャレンジする場所なのです。地域で働くってカッコいい!」(11ページ)
「島根は、…人と人がつながり、生き生きと働き、日本の未来をつくっている。そう感じられるから、心から面白いと思うようになりました。」(12ページ)
というわけである。
で、その8人とは、岩本悠、本宮理恵、三浦大紀、三成由美、西藤将人、FROGMAN、白石吉彦、尾野寛明の各氏。
彼らが、どんな人物かは、読んでのお楽しみ、としておく。
ところで、田中さんが、唯一無二と自称したローカルジャーナリストであるが、私は、その追従者になろうかな、と思っている。先日、秋田県横手市増田町で、私が、ローカルジャーナリストとして二人目になりたい、と申し上げたら、彼女は、にっこり笑って晴れがましく、ぜひ、とおっしゃった。そのお言葉に甘えて。
気仙沼にも、紹介すべき「風の人」はいる。少なく見ても10人は下らない。これをまとめたら、相当に面白い、愉快な、興味深い、他の地域にとっても役に立つものができるはずである。
と、これは、私の構想として書いておく。
今年もよろしくお願い申し上げます。
良い年でありますように!
非常に分かりやすくローカルジャーナルストの重要性を勉強しました。
田中さんを応援したいと想います(^-^)
みんなのブログからきました。
詩を書いています。