ぼくは行かない どこへも
ボヘミアンのようには…
気仙沼在住の千田基嗣の詩とエッセイ、読書の記録を随時掲載します。

共同体とは2

2016-06-07 22:43:07 | 小説

 そのとき、ヒルトップ・カフェには、ふたりの来客があった。

 カウンターに並んで、コーヒーカップを前にして、手持ち無沙汰の体で、若い方の男がおもむろに口を開く。

――山向さん、共同体ってなんでしょう?

――川下さん、いったいどうしたんだい、突然、共同体だなんて?

――いや、いま、本を読んでるんですけど、どうなんだろう、共同体とは悪なのか、共同体とは極楽浄土なのか。

――ほう、また、極端だね。

 カウンターの中から、店主が口をはさむ。

――ふむ、その本は、××だな。

――ああ、これです。

――どれどれ、と山向が、川下のほうへ手を伸ばす。ああ、××か、それはね、こうなんだ。云々云々。

 会話は、まだしばらく途切れることがなさそうだ。

 カップの中のコーヒーは、ゆっくり冷めていく。もう一方のカップは、やがて空になる。

 すると、からんとドアが開いて、二十代と思われる二人の男女が、店に入ってくる。内湾を見おろす窓際のテーブル席に向かい合って座る。 

 眼下の向かい合った小さな岬の間を、大島から戻ってきたカー・フェリーが滑るように入ってくる。

店主が水のコップを2つ運ぶ。

――コーヒーを二つ、お願いします。

 店主が突然、

――うちのコーヒーは、しかじかかくかくの産地で、こういうローストをして、こんな手間をかけてドリップしています。だから、心して飲んでくださいよ。そうでないと、追い出しますからね、などと言ったら噴飯もの、ということになる。

――はい、コーヒー2点でございますね、かしこまりました、少々お待ちくださいませ、などとマニュアル通りの受け答えをするわけでもない。

――はい、コーヒー、ふたつね、ありがとう、と、さりげなく受ける。

 

ヒルトップ・カフェは、ま、大体、そんな感じの店である。


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