そのとき、ヒルトップ・カフェには、ふたりの来客があった。
カウンターに並んで、コーヒーカップを前にして、手持ち無沙汰の体で、若い方の男がおもむろに口を開く。
――山向さん、共同体ってなんでしょう?
――川下さん、いったいどうしたんだい、突然、共同体だなんて?
――いや、いま、本を読んでるんですけど、どうなんだろう、共同体とは悪なのか、共同体とは極楽浄土なのか。
――ほう、また、極端だね。
カウンターの中から、店主が口をはさむ。
――ふむ、その本は、××だな。
――ああ、これです。
――どれどれ、と山向が、川下のほうへ手を伸ばす。ああ、××か、それはね、こうなんだ。云々云々。
会話は、まだしばらく途切れることがなさそうだ。
カップの中のコーヒーは、ゆっくり冷めていく。もう一方のカップは、やがて空になる。
すると、からんとドアが開いて、二十代と思われる二人の男女が、店に入ってくる。内湾を見おろす窓際のテーブル席に向かい合って座る。
眼下の向かい合った小さな岬の間を、大島から戻ってきたカー・フェリーが滑るように入ってくる。
店主が水のコップを2つ運ぶ。
――コーヒーを二つ、お願いします。
店主が突然、
――うちのコーヒーは、しかじかかくかくの産地で、こういうローストをして、こんな手間をかけてドリップしています。だから、心して飲んでくださいよ。そうでないと、追い出しますからね、などと言ったら噴飯もの、ということになる。
――はい、コーヒー2点でございますね、かしこまりました、少々お待ちくださいませ、などとマニュアル通りの受け答えをするわけでもない。
――はい、コーヒー、ふたつね、ありがとう、と、さりげなく受ける。
ヒルトップ・カフェは、ま、大体、そんな感じの店である。
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます