ぼくは行かない どこへも
ボヘミアンのようには…
気仙沼在住の千田基嗣の詩とエッセイ、読書の記録を随時掲載します。

共同体とは

2016-06-06 00:10:34 | 小説

 ヒルトップカフェの昼下がりは、賑やかな日もあれば、静謐な日もある。

 この日は、若い男がひとり、カウンターに座っている。淹れたばかりのコーヒーが、男の目の前に置かれる。

――ねえ、共同体って何ですか?何のことなんですか?

――何かが複数集まっていること、その集まり。グループ。コミュニティ。

――まあ、そりゃそうでしょう。

――ヨーロッパ共同体、頭文字でECというのがある。昔は、EECヨーロッパ経済共同体と言った。Europe economy communityの略。現在は、真ん中のeconomy(経済)を取ってECとなった。ヨーロッパ諸国が、まずは、経済的な分野で協力を進め、ゆくゆく経済に限らない政治的な統合体となることが目指されて、ある時点で、一定の進展が見られたということで、経済の文字を省くことにした。この場合は、人と人との共同体ではなくて、国家が単位となる共同体のことだ。

――あ、そうか、必ずしも人間の集まった、個人の集合体としての共同体とは限らないわけか。

――そうだな。

――でも、僕が聞きたかったのは、人間同士の共同体。

――家族もひとつの共同体だ。

――ああ、確かに。でも、そうじゃなくて。

――もちろん、国家も国民の共同体だ。

――ああ、そうじゃなくて。

――市町村、自治体ももちろん市民の共同体。

――ああ、そうだよね、それは確かにそうだ。

――たとえば、この○○市も共同体であることは論を待たない。市とは何か?それを聞きたいわけか?

――いやいや、そうじゃなくて、普通共同体と言えば、地元の地区というか、自治会と言うか、町内会と言うか、そのレベルの集団をさすことが多いんじゃないですか?

――ふむふむ、そういうと思った。

――なんだ、分かってんじゃないですか?

――そりゃそうなんだが、最初からそう決めつけてしまっては、正確な話ができない。

 男、カウンターの上のコーヒーに、ようやくひとくち、口をつける。


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