ある亡くなった孤高の画家に
ひとりの精神のこどもがいる。ひとりの精神の放浪者がいる。かれの色は明るい美しい青紫だ。
その色は、展覧会の会場にある。
かれは、画家であった。
ぼくは、1980年に帰郷して、翌年には、図書館で仕事を始めた。館長室に菅野青顔元館長の肖像画があった。太い画筆のタッチが独特だった。肌の色が独特だった。
画家と、言葉を交わした記憶はない。
本町の杉林の下、大川のS字型に屈曲する上の、住人を失くした家に、膨大な画業が埋もれていた。そぼ降る雨のなか、帽子を被ってあたかも発掘するひとびとが、おおと声を上げながら、作品を選択する。
遅れてたどりついたぼくが作業にまじることができず眺めたなかに、セピア色の薄墨というか、ほとんど水に絵の具を落として溶かしたような淡い茶の水彩、色紙に太い絵筆のごく省略された一筆一筆で描かれた裸婦のデッサンが幾枚も雑然と菓子箱に収められてあった。
抽象的な数本の線が、見事にエロティックなおんなを描き出していた。
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