ぼくは行かない どこへも
ボヘミアンのようには…
気仙沼在住の千田基嗣の詩とエッセイ、読書の記録を随時掲載します。

エッセイ 波はバリから寄せてくる 

2010-03-10 11:48:24 | エッセイ
これも、平成9年9月、別の地元紙に掲載のもの。

・恵みの海流黒潮
 黒潮は南の国からやってくる。この季節、気仙沼地方にサンマやカツオをもたらす恵みの海流である。栄養分は、意外なことに親潮の方が豊からしい。サンマもカツオも、黒潮から乗り換えて、太陽のエネルギーと、太平洋の最北端に湧出するミネラル分に育て上げられた親潮のプランクトンによって、脂の乗った三陸沖の海の幸となる。
 現在、日本有数の漁業基地・気仙沼港の漁労技術のもとは、紀伊半島あたりの海の民が黒潮に乗って伝えたものである。黒潮に逆らって南下すれば、紀伊、土佐、薩摩、さらに奄美、沖縄、そのはるかかなた、赤道のあたりは、そのインドネシア、バリ島。気仙沼の漁業のルーツをそこまでたどるのは、いささか荒唐無稽の部類に入る。

・約1千人が乗船
 しかし、いま、このまちの漁業は、インドネシアなしには立ち行かない。気仙沼船籍の遠洋・近海マグロ船171隻に。約1千人のインドネシア人が乗船しているという。今後、その人数は、2倍にも達する可能性がある。また、常時、十数人の若者が、漁業研修生として、魚市場にほど近い南が丘の南三陸荘に暮らしている。
 彼らが、どんな歴史・文化のもとに生きて、暮らしているのかを知ることは、一般的な意味での国際交流を超えて、地域にとって重要な問題になっているはずである・

・唯一ヒンズー教
 ほとんどイスラム圏のうちにあるインドネシアのなかで、唯一のヒンズー教地域がバリ島。全島を覆う濃密な宗教的な雰囲気は、青銅の打楽器の華やかでそれでいて柔らかい不思議な音響によるガムラン音楽、そして、優美な、または力強い、あるいはえたいの知れず恐ろしいパワーに満ちたダンスたちに凝縮されて表現されている。
 「ダブルバインド理論」のグレゴリー・ベイトソンや哲学者中村雄二郎、文化人類学者山口昌男ら、また、武満徹、小泉文夫、また、細野晴臣、ミック・ジャガーらの音楽家たちを引き付けてやまないものが、バリ島にはあるらしい。
 その正体を一晩で把握しようというのは、それこそ、荒唐無稽というものであるが、何事にも始まりはある。
 バリ島プリアタン村タガスのグヌン・ジャティ歌舞団が、今月17日夕、魚市場北桟橋屋上で公演を行う。
 ガムラン音楽と、優美なレゴン・ダンスと、ヒンズー教の神話・ラーマーヤナに題材をとった、神秘的な力に圧倒されるケチャック・ダンス。

・複合の交流を
 気仙沼とインドネシアの、過去と現在、文化と経済の複合された、いわば、全人格的な交流が始まろうとする先駆けの、歴史的な日となるかもしれない。
 波は、確実に、バリ島から気仙沼に向けて寄せてくる。返す波もまた、必ずやあるはずである。

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