Toshiが行く

日記や趣味、エッセイなどで描く日々

ラーメンにジャズ

2020年03月08日 16時04分49秒 | まち歩き
 行きつけ、と言っても月に2、3回ほど行くラーメン屋があった。ある日店に入るなり、何かいつもと雰囲気が違っていた。違うはずだ、BGМが洒落たジャズなのである。ラーメン屋といえば、「いらっしゃい」「ありがとうございましたー」、あるいは「堅メンいっちょー」などと威勢のいい声、それに茹で上がったメンをテボに入れ、上下に振って湯切りする〝しゃっしゃっ〟という音、食器類が触れ合う〝かちゃかちゃ〟という音、言うまでもなく、客がメンをすすり上げる〝するするー〟といったものまでさまざまに入れ混じり音・楽になっているのだ。それがラーメン屋のBGМだとばかり思っていた。それなのにジャズなのである。それで、テボを振っている兄さんに「好きなの? ジャズ」と聞くと、含み笑いしながら「ええ、まあ」と一言だけ答えたのだった。
 
 ラーメン屋を出て、格別読みたい本があったのでもなく、ふらりと寄った本屋で……何と新書本のコーナーに、『儲かる音楽 損する音楽~人気ラーメン店のBGМは何でジャズ?』とタイトルをつけた本が並んでいるではないか。買って読もうとまでは思わないが、気にはなる。パラパラと拾い読みしてみた。どうやらこういうことらしい。
 <クラシックは、高級レストランではともかく、他の店ではかしこまりすぎる。歌謡曲やポップスは曲調がばらばらなので、客とのテンションに差が生じ、曲によっては不快感を与える。その点、客が食事や会話をするのに耳障りとならないのがジャズ>
 実際、ジャズを流し、売り上げを伸ばしているラーメン屋が、東京・六本木にあるのだという。それで分かった。行きつけの店は、この本に触発されてBGМをジャズにしたに違いない。もっとも、ネットでこの本のことを調べてみると、「確かに効果がある」と支持する声もあれば、「何の根拠もない話」と一蹴する声もある。
 それから10日ほど後、あのラーメン屋に行ってみた。「あれ、今日はクラシックか」——少しばかり皮肉を込めて「クラシックも好きなんだ?」と聞くと、やはり「ええ、まあ」と、この日も自信なさげに小さくうなずいた。ジャズの効用はどうだった? それは聞かずにおいた。さらに、それから1カ月ほど後だったか、久しぶりにと思い行ってみるとドアにB4ぐらいの白紙……『○日をもって閉店いたしました』とあった。