子どもはね、親を選んで生まれてくるのだそうよ。
あなたは私を選んでくれたのだね。ありがとう。
70年ほども前になる。
小学生になったばかりの頃だっただろう。
真夏の昼下がり、遊び疲れ倒れるように畳に寝そべっていると
母が傍らに座り、うちわで風を送りながらこう言った。
はっきりと残る、もう数えるほどしかなくなった母の記憶である。
似たような話が、みやざき中央新聞発刊の
『日本一心を揺るがす新聞の社説』第4巻に収載されている。
毎週月曜日・月4回発行する小さな新聞社ながら
全国に1万7000人の愛読者を持つ、れっきとした〝全国紙〟である。
ただ、ニュース記事を配信するといった一般的な新聞とはちょっと違い
いろんな講演会を取材した中から
ためになることや心温まる話を講師の許可を得て活字にしている
『いい話だけの新聞』なのだ。
特に編集長の水谷もりひとさんが執筆する
社説が多くの人の共感を呼び、それらをまとめて本にしたのが
この『日本一心を揺るがす新聞の社説』である。これまで発刊した4巻は
合わせて12万部を超すベストセラーになっているという。
その一編に、全国紙の読者欄に載っていた母と娘の話から
拾ったものがある。
「数か月後に出産を控えた娘から電話があった」
という書き出しで、大筋このような話である。
「お医者さんから、胎児に異常があると言われたの。
でも、画像に映る赤ちゃんの鼓動にいとおしさがこみ上げてきて…。
ねえ、お母さん、産んでもいいでしょう」
電話の向こうで娘が泣いていた。
それを聞いた母は、娘を不憫に思い中絶することを勧めた。
それから1週間後、里帰りしてきた娘は
吹ききれたように晴れ晴れとした笑顔だった。
「お腹の子はね、親を選んで生まれてくるんだって。
私たち夫婦は優しいから選ばれたんだよ。
お父さん、お母さん、初孫が障がいをもっていてごめんなさい」
産んで育てる—娘の覚悟を知った母は
安易に中絶を勧めた自分を恥じ
そして「私も腹をくくった」のだった。
水谷さんはこの投稿に触れ
「(子を産み育てるには)つらくても、怖くても、貧しくても
自分の命に代えてでも守り抜くという覚悟が必要なのだ」
ということを改めて訴えているのであろう。
世には選んでくれたはずの我が子を虐待し
命さえ奪ってしまう親たちがいる。
父親にエアガンで撃たれた1歳の男の子も
「お父さんにぼう力を受けています。先生、どうにかできませんか」
と訴えた小学5年生の女の子も
「おねがいゆるしてください」と乞うた5歳の女の子も…。
なぜだ、なぜだと問うばかりの無力さが心を覆う。