なんか 時に切なくなるなぁ
昼食は久しぶりのトンカツにした。
この街いちばんの繁華街にあるこのトンカツ屋は、昼時になると順番待ちの列が店外まで延び、またSNSによるのだろう、外国人客(このところ韓国人客はほとんど見なくなった)が結構多い評判の店である。
定番のランチメニューは『トンカツ膳』で、トンカツの大きさによって『中』『大』『ジャンボ』に分かれる。年相応に無理をせず『中』を注文する。

すぐにゴマを入れた小さなすり鉢、箸、それにお茶が運ばれてくるから、まずはゴマをすり、それに壺の形をした陶器製の容器から移し取ったタレを混ぜ合わせておいて、トンカツが来るのを待つ。

そう思い、容器の蓋の突起部分を親指と人差し指でつまんで開けようとしたところ、するりと滑り落ちてしまった。幸い、テーブル上を2、3度転がっただけで床に落ちることはなかったが、それでもガチャンという衝撃音は周囲の客、店員の視線を集めるのに十分だった。

年を取ると指先が乾燥し滑りやすくなる。
これだけではない。たとえば、新聞も本もうまくめくれず、それで指先を舌で湿らせ……ということが普通のことになってくる。
新聞や本は、家で読むことが多いから気にするほどではないが、仕事の際に名刺交換する場合が厄介だ。
10枚ほど重なっているうちの、いちばん上、あるいはいちばん下どちらでもよいが、とにかく1枚だけ取ろうとしてもうまく取れないのだ。どうしても2枚、3枚と重なってしまう。
まさか指を口にやるなんて無作法なことができるはずもなく、ひどくもたつくことになる。「2枚重なっていましたよ」と1枚返されることもたびたびである。仕事の場でのそんなもたつきは、プライドが大いに傷つく。
それで、事前に名刺を1枚だけ抜き出し(これとて簡単ではないのだが)用意しておくことにした。多少の知恵だ。いずれにしても、年々、こうしたことがひどくなってきた。空気が乾燥する冬場は特にそうだ。
ついでに思い出した。誕生日が同じで1歳下のAさんとの喫茶タイム。
どうしても互いの体調を気遣う話になるのだが、ある時「あなたはクリーム派? 乳液派? それとも化粧水派ですか」のやり取りになった。
ひげ剃り後、あるいは洗顔後は何を付けるかの問答なのだ。顔の乾燥度がひどいほどに、クリーム—乳液—化粧水の順になるのだが、二人とも「冬はクリーム、春・秋は乳液、夏は化粧水と使い分けている」と同じで、顔のかさつき度は似たようなものだった。後期高齢者同士のバカバカしくも切ない会話である。
腰の圧迫骨折は、普通に生活するには格別の支障はないが、ゴルフをやると腰をひねるせいであろう、必ず痛みが出る。それでゴルフはあっさりやめた。
長年プレーしたものの100を切ったのは一度だけという腕前だったから、さしたる未練はないが、ただ皆さんが元気にプレーされているのを見ると、何だか取り残されたような寂しさを感じる。
鏡を覗けば長く伸びた眉が垂れ、いかにも爺さんといった面相が映る。おまけに指先、顔のかさつきといった話である。あ~あ。長嘆息しても、こればかりは取り戻せない。トンカツはまだか——食欲があるだけ良しとしよう。