倍賞千恵子が営む小さな居酒屋。客は高倉健ただ一人。
側に座った倍賞が高倉にもたれかかり、高倉も倍賞の肩に腕を回す。
テレビから流れているのは八代亜紀の「舟唄」。倍賞が合わせて口ずさむ。
映画「駅」の一シーンである。もう随分前になる。
日本は何事においても世界のトップクラスにあると思っていた。
それが自負心でもあった。
だが、世界における日本のGDPシェアは下降の一途だ。
もはや「ジャパン・アズ・ナンバーワン」など遠い過去の話なのである。
やはり「失われた20年」が痛かった。
この期間に先進各国は2倍程度成長したのに、
日本は成長を止めGDPシェアを下げてしまったのだ。
特にデジタル化の遅れは、これほどだったのかと驚くばかりだ。
「2020年版世界デジタル競争力ランキング」で日本は63カ国中34位、
それも前年から4つ順位を下げてのことだ。
菅内閣は発足すると即座に「デジタル庁」の設置など
DX(デジタルトランスフォーメーション)促進を打ち出し、
官民挙げてのデジタル化への取り組みが本格化し始めた。
DXは、要するにビッグデータと、それにIoT、AI、クラウド、5Gなど
進化し続けるテクノロジーを最大限に活用した
新しいビジネスモデルを構築しようというものだ。
これによって、うまくいけば2030年にはGDPを
100兆~200兆円押し上げることも可能とさえ言われる。
そうとあって世の中、デジタル化、デジタル化である。
スマホ1つ持たないアナログ人間ではあるが、日本が再成長するのに
不可欠な方策とあれば、これに異論をはさむ気はさらさらない。
「仕事はテレワークだし、会議も飲み会もオンライン。
当然、人と直接お会いし、話をする機会がなくなってきました。
今はコロナのせいですが、コロナが収まっても
デジタル化が進めば同じような状況が続くかもしれません。
高倉健と倍賞千恵子のあの情感ある世界、そんなものが何だか
遠のいていくような気がして、いささか寂しくはありますね」
DXの必要性を1時間ほどものたまわった同世代の知人は、
そう言い残してオンライン会議のため席を立った。
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