堂場瞬一の警察小説に、原理原則を貫くばかりに必ずひと騒動引き起こし、
周囲と軋轢を生み出す「刑事・鳴沢了シリーズ」がある。
もともと2004年から2008年にかけ、全10話が発刊されていたものだが、
今年1月から新装版が、毎月1話ずつ文庫本として出版されたので、
改めてこれを全話一気読みしてしまった。
このシリーズの中に、「十日会」という警視庁内の派閥が絡む事件がある。
失踪した刑事を探すよう命じられた鳴沢が、
自分の派閥から警視庁総監、さらには警察庁長官を……と
目論んでいた「十日会」を最後には壊滅させるというものだった。
それでも、この「十日会」の残党がしぶとく生き残り、
最終話にも登場するのだが、この「十日会」の対抗派閥として
「紫旗会」というものもあり、これまた虎視眈々とその座を狙っている。
派閥と聞けば即座に自民党へ思いが行く。
我が国の総理大臣は自民党の各派閥の思惑によって決まる。これが現状だ。
いささか怖くはある。
派閥というのは、突き詰めると自らの保身のための盾、
立身出世するための矛と言ってよく、
総理を出した派閥に属していれば、大臣のイスが巡ってくることもあろうし、
うまくすれば自らが総理への道を見出す可能性さえある。
そして、このような派閥というのは、架空の話ながら鳴沢了の警察組織、
あるいは現実の政界に限らず、官民どのような集団にも存在する。
40年ほど前、ある国立大学の学長選を巡る派閥抗争を取材したことがある。
それは驚くほどすさまじいものだった。
相手陣営を引きずり降ろそうと、互いにあらゆる策略を用い、
ついには相手方の情報を得るため記者の抱き込みさえ画策した。
〝夜討ち朝駆け〟というのは、記者の世界での話だとばかり思っていたら、
記者に対する先生たちのやりようも違わなかった。
最有力とされた医学部長が辞職に追い込まれ、ケリがついたのだが、
まだ若かった僕にとって、それは十分に〝汚い世界〟だった。
山崎豊子の「白い巨塔」は、そんな〝学問の府〟の
現実の一端を描いたものだろう。
「大学の先生が名を成すには、ノーベル賞級の学術上の業績を挙げるか、
あるいは派閥を利用しながら学部長だ、学長だと地位を築き上げていく。
この2つしかないのです。前者は並大抵の話ではないでしょうからね」
──大学の事務官が苦々しく語ったことを覚えている。
「日本学術会議の任命拒否問題」に対する
野党の追及はどうやら不発に終わりそうだ。
学術会議の内情は知る由もないが、なにがしかの確執が
あるだろうことは容易に察せられる。
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます