信号待ち。フロントガラス越しにトンボが一匹。
街中でもよく見かけるウスバキトンボか。
車の中をのぞきこむように、ゆっくりホバリングしている。
運の良い奴だ。
9、10号と続いた、あのひどい台風をどこに潜んでかわしたのか。
人の世では、ガラス窓にベニヤ板を打ち付けたり、テープを貼ったりと、
その難から逃れようと、大わらわだったのに、
澄まし顔で目の前を行ったり来たりしている。
君の仲間たちも随分ひどい目にあったことだろう。
台風一過の好天の中を、こうやって気持ち良さそうに飛んでいる君は
実に運の強い、幸運なトンボに違いない。
運というのは、身の上に巡りくる幸・不幸を
自らの意志を超越して支配する。
要するに、人の力では如何ともしがたいものだ。
それはトンボの世界でも同じではないか。
人の力ではどうしようもない──そう突き放されると、
なんともやるせない思いになってしまう。
それで黙っておれず、それに抗い、微力を承知の上で
どうにかして招き寄せられないか、呼び寄せられないかなどとあがく。
それこそ神にひざまずくことさえある。
親交のある会社経営者が、こんなことを言う。
「『運』という字は、軍が走ると書きます。
つまり、じっと待っていたのでは運は
やってこないというわけです。
動き回っていれば、運は必ず巡ってきます」
さらに「とっておきの話をしましょう」と続ける。
「運を良くしようと思うなら、運の良い人と付き合うことです」
そう言われると、当然「運の良い人とは?」と尋ねる。
答えはこうだった。
「人の喜びを自分の喜びと思える人。つまり利他の精神を持つ人です。
もっと分かり易い例で言いますと、パンを2つに割った時、
大きい方を相手に渡すような人です。そんな人、身近にいませんか」
目の前のトンボに語りかける。
「君は餌を分け与えるなど、いつも仲間たちを気掛けているのだろうね」
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