名湯を巡っている。嬉野、黒川、長湯、別府といった
九州内の温泉から始め、
四国に渡って道後の湯に肩まで浸かった。
まだまだ先は長い、最後は北海道の登別あたりになるか。
だが一カ月もあれば、主な温泉はクリア出来るだろう。
そりゃ無理だと思われるだろうが、そんなことはない。
浴槽に温泉の入浴剤を入れるだけなのだから。
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毎日、「今日はここ、明日はあそこ」などと考えるだけで、
袋の中の薬剤を浴槽に入れれば、それで済む。
すると浴槽の湯は、それぞれの温泉によって、
青色になったり、オレンジ色になったり、ピンクになったりと。
肩まで浸かって、目を閉じれば2、3割ほどは
その温泉に入っている気になれる。
2、3割というのが少々不満だが、
当然のことながら、それ以上は望みようがない。
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目を開けて、ギョッとなった。
前の壁に人の顔が浮き出ているのだ。
両目は異様に大きい。口はムンクの名画「叫び」の、
あの人物のようにすぼめている。
叫んではいなそうだが、何か話しかけようとしているのか。
少々気味が悪くなった。
目をそらすと、壁のあちこちに人の顔らしい模様がある。
人は3つの点が逆三角形に配置されている画像を見ると、
「人間の顔」と錯覚するそうだ。
進化の過程で、周りの動物が敵なのか味方なのかを
判別する必要があったため、本能的に脳が人間の顔かどうか
識別しようとすることから起きる錯覚──これを
シミュラクラ現象という。付け焼刃の勉強の成果だ。
心霊写真と呼ばれる現象の多くが、これで説明できるとされている。
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浴室の壁の人の顔が、何だか心霊写真を連想させて気味が悪い。
今日の那須塩原温泉、早々に失礼します。
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