怪しい。空が急に暗くなってきた。黒い雲がどんどんこちらへ近づいてくる。
来るな──そう思ったとたん、ピカッと光り、ガガーンと鳴った。
フロントガラスにぽつりぽつりしていた雨が急に激しさを増した。
そして、どんどん激しさを増していく。
ワイパーの勢いも強雨に抗しきれず、前方の車の赤いライトを捉えるのがやっとだ。
怖い。スピードを落とす。合わせるように前の車もスピードダウンした。
左を見ても、右を見ても皆同じように、
恐怖におののいたのか、ゆるゆると走っている。
だが、幸いなことにこの強雨は長くは続かなかった。
これまた急に雨の勢いは落ち、15分ほどで傘が不要なほどになった。
おかげで駐車場から我が家まで、まったく濡れずに済んだ。
新聞紙上で〝ゲリラ豪雨〟という表現を使っていたが、
先ほどの雨はそうではなかったのか。
いやー、ひどかった。怖かった。
閉め切っていたガラス戸を全部開け放つ。
あの強雨に打たれた風が、少しばかりの涼しさを部屋の中に入れる。
あれ。ベランダの片隅にテニスボールが一つ、
濡れそぼって転がっている。
我が家のすぐ側にはマンション共有のテニスコートがある。
時々、マンションに住む子どもたちがテニスに興じていることがあるから、
このボールも打ち損じたものが金網を飛び越して、
我が家のベランダに落ちたのだろう。
これまでも、そんなことがたびたびあった。
そんな時には、子どもたちが我が家のチャイムを鳴らし、
「ボールを取ってください」と言ってくる。
だが、この日は我が家は誰もいなかった。
しかも、あの突然の雨である。
子どもたちもボールのことより、我が身大事と逃げ帰ったに違いない。
おそらく、ボールと同じようにスプ濡れになったのではあるまいか。
そのボールは子どもたちの目につきやすいように台の上に乗り、
チャイムが鳴るのを待っている。
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