【ただいま読書中】

おかだ 外郎という乱読家です。mixiに書いている読書日記を、こちらにも出しています。

説教/『星空から来た犬』

2009-06-07 17:59:38 | Weblog
 またまた「図書館で見かけた面白い人」です。しかし、これだけしょっちゅういろんな人に出会えるのなら、そのうちシリーズ化できそうです。

 今回カウンターで粘っていた人の主張は、古い資料がマイクロフィルムになっているのが気に入らない、でした。現物の紙面を写真に撮りたいのに、マイクロフィルムだったらそれができないではないか、と言うのです。職員は「ハードコピーは取れます」と説明していますが、「それは写真とは違うからだめだ」。
 どうしても現物を見たいのなら、現物が無くてマイクロフィルムしか置いてない図書館ではなくて、別の古文書館にあたるとか、国会図書館まで行くとかの方策もあるでしょう。ともかく「無い」ところでいくら「あるべきだ」とそこの職員に食い下がっても、行動の無意味率100%。
 それとも「自分が理想とする状況(自分が行った図書館に、望む資料が望む状態で存在していて、それを自分が望む方法で望む時間だけ閲覧できる)が“100点”で、それ以外はちょっとでも何が違っても“0点”」という“厳しい”生き方をしている、ということなのでしょうか。本人が自分のポリシーを貫くことで苦しい生き方をするのは本人の勝手ですが、それを回りに押しつけるのはやめて欲しいな。世の中の人間はあなたに“百点”をつけてもらうことを自分の人生の目標としているわけではないのですから。
 少なくとも私は迷惑でした。二人しかいないカウンターの職員を呼び集めて説教しているものだから、私の貸し出しの手続きが遅れてしまったもので。まあ、時間があったのでのんびり見物を楽しめましたから「私を待たせるとは、なにごとだ」と説教してあげようとは思いませんでしたが。

【ただいま読書中】
星空から来た犬』ダイアナ・ウィン・ジョーンズ 著、 原島文世 訳、 佐竹美保 絵、早川書房〈ハリネズミの本箱〉、2004年、1700円(税別)

 宇宙の上級光官シリウスは、殺人(殺星)の罪に問われ、罰として愛する伴星から引き離されて地球に追放されます。きれいなみどりの目を持つ生まれたての子犬として。犬としての寿命があるうちに、自分が地球に落とした魔法の道具ゾイを見つけ出すように命令されて。
 いやもう、むちゃくちゃなオープニングで、私は最初から大喜びです。
 シリウスが川に放り込まれて溺れさせられようとしていたところを救ったのは、孤独な少女キャスリーン。シリウスは犬として成長するにつれ、人間の言葉を覚え、自分がなにか使命を持っていることを思い出します。しかし、犬の能力には限界があります。そこにやってきたのは、ソル。地球を監督する下級光官です。本当はシリウスに直接の手助けをすることは禁じられているはずですが「自分の星で誰を助けようと、ぼくの勝手です!」。もっともソルもゾイを見たことがありません。ただシリウスに自分が何者かを思い出させることができるだけです。同時にソルは、最近地球に落ちてきた物体を調査します。シリウスが裁判にかけられる直前にイギリスに何か異常な物体が落下していました……シリウスがイギリスに送り込まれたことに、何ものかの意志が感じられます。
 シリウスはゾイの気配を追って街の中を捜索します。不思議なことに、気配は濃厚にするのにそれを感じるごとに方角が違います。捜索は何週間も続き、その間にシリウスは様々な人や犬と知り合いになります。キャスリーンはシリウスに導かれて星のことを学び、(星の)シリウスがみどり色に輝きおおいぬ座にあることを知ります。
 シリウスは様々なものに邪魔をされます。首輪・引き綱・キャスリーンへの思い・意地悪な人間によるキャスリーンへの虐待・走り回る自動車・人間の決まり・空腹・この世のものとは思えない不思議な猟犬イェフ、そして……発情期。この発情期の描写では笑ってしまいます。使命感も犬の本能には勝てないのです。(で、もちろんこの「発情期」も伏線(の一つ)です)
 シリウスは地球でかつての自分の伴星に出会い、そして地球にも出会います。そして、残酷なことに、自分がいかにまぬけだったのかを思い知らされてしまいます。「児童ものでここまで書きますか?」と私は呟いてしまいます。
 そして、満月の下、ここではないどこか・今ではないいつか・地球ではない地球で、犬たちによる幻想的な狩りが始まります(それが表紙の絵です)。「ああ、あいつをつかまえたくないなあ」と呟きながら、それでも抗えない「われにつづけ」のファンファーレに従っておぼろな影を追う数百匹の猟犬たち。荒々しく、そして美しい情景です。犬たちを急き立てる狩りのあるじと追われる獲物とは同一の存在で、地球はその存在を助けようと骨を折っています。シリウスたちは獲物を倒しむさぼり、そしてまた逃げる獲物を狩り立て続けるのです。
 光りと闇、動きと存在、残酷さと思いやり、そして、生と死……まったく異なるもの同士が出会ってしまった時、そこには新しい世界が出現します。
 最後は……ハッピーエンドなのかな。シリウスは犬から星に戻れましたが、同時にキャスリーンを失いました。だって抱きしめたらキャスリーンは焼け死んでしまうのですから。でも、悲しい終わりでもありません。切なさを基調に実に様々な感情が散りばめられた、豊かな終わり方です。

 本書は著者のキャリアでは最初期のものだそうです。そのためかストーリーそのものはけっこう一本道で寄り道も目立ちますが、でもDWJはDWJ。「らしさ」は満載されています。そうそう、犬が主人公ですが猫もちゃんと登場する(そして重要な役割を演じる)ので、猫好きの人はご安心を。