【ただいま読書中】

おかだ 外郎という乱読家です。mixiに書いている読書日記を、こちらにも出しています。

ハイブリッドカー

2009-06-19 18:20:47 | Weblog
 最近話題のハイブリッドカー、トヨタのプリウスとホンダのインサイトが良い勝負をしています。両者(両車)のデザインは極似しているのですが、私が受けるイメージは「なんか違うぞ」。単なる印象でその「違い」が何なのか言語化ができなかったのですが、最近少しわかったような気がします。
 先日、ベンツのCタイプの後ろについてしばらく走ってずっとそのお尻を眺めていて、なぜかプリウスを連想しました。ところがインサイトは連想しません。これは不思議、と思っていて、昔クラウンを見ていて、ベンツ(の大きい奴)を連想したことを思い出しました。トヨタはもしかしたら、ベンツと同じ香りの車を作っているのかもしれません。ですからプリウスもCタイプと同じく「技術力があるからコンパクトに作ってあるけれど、本当はもっとでかいんだぞ」の“無念さ”が漂ってくる、と。対してインサイトは、シビック・フィット・初代インサイトからの流れで「すべてを割り切ってこれで必要十分でしょ」が伝わってくるのではないか、と。
 車には詳しくない単なる印象論ですし、こんなことを考えながらプリウスとインサイトを眺めている人はあまりいないでしょうけれど。

【ただいま読書中】
遠すぎた星 ──老人と宇宙2』ジョン・スコルジー 著、 内田昌之 訳、 早川書房(ハヤカワ文庫SF1668)、2008年、840円(税別)

 普通新兵ものは、無知で未熟な若者が戦場で成長(変化)する姿を描写します。読者は、戦場という過酷な運命の場でその新兵がどのような人生を送るのか(何を強制され何を自由意志で貫くのか)をともに経験することになります。ところが『老人と宇宙』(07年10月29日の読書日記)では、新兵は老成した人間でした。なんというか無茶苦茶で魅力的な設定です。本書はその続編です。
 いがみ合っていた三つのエイリアン種族が、なぜか不気味な連合を形成します。目的は人類の殲滅。そしてそのキーとなったのは、人類の科学者ブーティンの裏切りでした。そこで地球人は、ブーティンのクローンを作成しそこに彼の精神記録をダウンロードして、なぜ彼が裏切ったのかを探ろうとします。しかしダウンロードは失敗、ディラックと名付けられた「彼」は、特殊部隊「ゴースト部隊」に配属されます。
 このゴースト部隊の隊員たちがとんでもない存在です。兵士として最も効率的に動けるようにDNAは極度にいじられて5本×2。クローン作業が始まって16週間で大人の体となって“出産”され、その日から活動が可能です。頭にはブレインパルと呼ばれる小さな有機コンピュータを埋め込まれていますが、それは膨大なデータベースであると同時にコミュニケーションツールでもあります。通信ができるだけではなくて、戦場では分隊すべての戦友の目を通してあたりの状況を把握できるのです。
 戦場で7ヶ月を過ごし、大切な人を失った直後、ディラックにプーティンの記憶が蘇り始めます。人類の捕虜となっているララエィ族の科学者カイネンはディラックにプーティンを復活させるかどうかの「選択」を求めます。これまで大事なことは何一つ選択することを知らず闘い続けていた戦士に、この世には「選択」というものが存在することを教えたのです。
 さらに仰天の「選択」をした兵士も登場します。宇宙環境に完全に適応した特殊部隊です。自称「ガメラン」。はい、「ガメラ」です。これでどんな格好かはわかりましたね。
 破壊された宇宙ステーション、真空の子ども部屋にぷかぷか浮かんでいる象のババールのヌイグルミ……このシーンは読んでいて切なくなります。
 作中に「過去のSF」に関する言及がたくさん登場します。そういった言及が無くてもこの作品がどんな読書(あるいは映画鑑賞)体験の上にできたものかは大体わかりますが、著者は言いたくてたまらなかったのでしょうね。自分がどのくらいそれらにリスペクトを持っているかを。

 ゴースト部隊員の名前は科学畑の偉人から適当に選択されるのだそうですが、アインシュタイン・ディラック・レントゲン・ハーヴィなどがばんばん射撃している図、は、なんともシュールです。
 本書で重要な、ハードウエアとソフトウエアだけでは人間は機能しなくて、そこに「経験」が必要、というのは、人格形成にエピソード記憶の集積が重要、を意識した記述でしょう。そこがたぶんコンピュータと人間の頭脳との大きな違い。ですから私は割とすんなりその考え方は受け入れました。……だけど、ゴースト部隊全員が合意した「イウォーク族は皆殺しにするべきだ」には、私は賛同できません(笑)。