【ただいま読書中】

おかだ 外郎という乱読家です。mixiに書いている読書日記を、こちらにも出しています。

食中か食後か/『ゲリラの戦争学』

2009-06-24 18:51:11 | Weblog
 あなたの「美味しい食後の一服」は、周りの人間には「食事中の迷惑」。

【ただいま読書中】
ゲリラの戦争学』松村劭 著、 文藝春秋(文春新書254)、2002年、700円(税別)

 戦史ではどうしても「決戦」に注目が集まりますが、古来決戦能力を持たない軍が選ぶのは「持久戦」でした(簡単に特徴をそれぞれ列挙すると、決戦は「目的は勝利の獲得/損害の多寡を問わない/迅速な決着を追求する」ですが、持久戦は「目的は負けないこと/戦力の温存を図る/できるだけ長引かせる」となります)。持久戦は具体的には、劣勢の正規軍による遅滞作戦(たとえばナポレオンに対してロシア軍が取った作戦)と劣勢の非正規軍によるゲリラ戦です。もっとも持久戦は長い目で見たら損害が大きくなりさらに独力での勝利は望めません(独力で勝てるのなら最初から決戦ですから)。本書は、持久戦の主力であるゲリラ戦についての考察です。ゲリラ戦は日本には無関係? そうとはいえません。ゲリラ戦の手法の一つにテロがあります。そして、日本はテロとは無関係ではないでしょうから。
 ただし資料が難しい、と著者は述べます。そもそも戦史資料は、敗者はすべてを失い勝者は自分に都合良く資料を残します。ましてゲリラ戦は最初から隠匿が前提条件ですから、ますます良質の資料が残されにくいのです。
 著者はまず「軍事力の裏付けによる覇権」で世界を眺めます。世界地図を覇権地図とすると、覇権国は「国益」と「世界の秩序維持」によって「現状維持」を狙います。しかし現状に不満を持つ勢力は(国とは限りません)、現状打破の戦略を持つことになります。(もちろん、現状に安住する国(属国)もあれば、不満はあるがそれを表立って出さずにこっそり動く国もあります)
 「ゲリラ」はスペイン語で「小さな戦争をするグループ」の意味のことばに「不正規に編成されたグループ」の意味が加わえられています。本書ではまずアレキサンダー大王の戦いから話が始められます。ついでシリア軍に対するユダヤの反乱。宗教が支配する世界はゲリラには住みにくいのですが、ルネサンスによって宗教は力を失い始めます。そしてアメリカで、民兵が正規軍に刃向かいます。独立戦争です。これはゲリラ側の戦闘記録が歴史に詳細に残っている珍しい例です。
 本書ではスペインにページが割かれています。まずはナポレオン軍に対して、スペイン人民軍はゲリラ戦で、応援にやってきたイギリス軍は持久戦で対抗し、結局フランス軍を打ち破りました。ワーテルロー(ウォータールー)の戦いで知られるウェリントン公が、実は持久戦が得意だったとはここを読むまで知りませんでした。
 ついで、第二次世界大戦前のスペイン内乱。この戦いが、今日のゲリラ戦・対ゲリラ戦の基本的な特色を提供しているのだそうです。正規軍対ゲリラの戦いに、支援と名付けられた外国の介入(ドイツ、イタリア、ソ連、国際義勇旅団)が加わり、新兵器や新戦術の実験を行いました。都市への戦略爆撃や空軍による戦艦攻撃など、次の大戦で重要となるものがすでに登場しています。
 ゲリラ側で重要なのは、十分に自分たちに力がつくまでは決戦を我慢すること、そして世論対策です。自国民を味方につけるのは当然ですが、敵国も、政治家や軍人と一般国民を分断することができたら、自分たちが有利です。それに成功したのがベトナム戦争やアフガンゲリラ、失敗したのが9・11やチェチェンのゲリラ(ソ連市民を攻撃してしまった)でしょう。
 正規軍の側にも事情があります。武器が進歩ハイテク化することで、兵站部門が肥大しますが、それはゲリラの良いターゲットとなります。さらに兵站部門の肥大化は歩兵が相対的に減少しますが、対ゲリラの主力は歩兵なのです。そのため、対テロ・対ゲリラの特殊部隊が要請されます(ここでアレキサンダー大王が登場します)。
 本書では最後に、日本がこれから「国際貢献」するのに、情報技術を生かして、非戦闘員が攻撃の対象になっていないかどうか「平和維持のための監視」を行うのはどうか、と提案がされています。ただそのためには、政治と軍事の掘り下げがもう少し必要そうですが。