【ただいま読書中】

おかだ 外郎という乱読家です。mixiに書いている読書日記を、こちらにも出しています。

慣れ

2009-11-03 17:43:10 | Weblog
 人は大抵のものや事には慣れることができます。それが良いものであろうと悪いものであろうとも。「一期一会」などと言って日常的に繰り返されるものに常に新鮮な気持ちを持ち続けることは、もしかしたら人の本性には反しているのかもしれません。
 「助けの手」もそうです。「困った」「できない」と呪文を唱えるたびに助けの手が登場する環境にいたら、人は“それ”にも慣れてしまい、最初のありがたみを感じなくなってしまいます。「あって当然」とさえ思ったり、さらには「難しそう」「やりたくない」でも助けの手が登場するべきだと期待するようになってしまいます。
 それは「慣れた人」の“罪”かもしれませんが、もしかしたら「慣れさせた」人にも応分の“罪”があるのかもしれません。

【ただいま読書中】
排出権ビジネスのしくみ』三菱UFJ銀行 相幸子・平康一・吉田宏克 著、 日本能率協会マネジメントセンター、2009年、1600円(税別)

 地球温暖化の原因が人為的なものか、そもそも地球温暖化が存在するのかを疑問視する学説がありますが、手を打たずに温暖化が進んだ場合の損失は世界の年間GDPの5~20%、しかし温室効果ガス排出量を削減するなどの対策を行なった場合には1%ですむ、という報告(スターン・レビュー)があり、とりあえず打てる手は打っておこうと言うことで温暖化対策が行なわれるようになっています。その一つが温室効果ガス(京都議定書で削減対象に指定されたのは、二酸化炭素、メタン、一酸化二窒素、ハイドロフルオロカーボン、パーフルオロカーボン、六フッ化硫黄の6種類)の削減です。その国別排出量は「活動量(化石燃料の消費量、家畜頭数、水稲作付面積、廃棄物の焼却量など)×排出係数(化石燃料の種類ごと、家畜の種類ごとに違う数字)×地球温暖化係数(ガスの種類ごと)」で計算されています。一時有名になった「家畜のゲップも地球温暖化」はここからきています。1997年の京都議定書では京都メカニズム(先進国が他国の温室効果ガスを削減した場合、それも自国の削減量にカウントできる)が採用され、さらに先進国同士で排出量の削減目標を売買することが認められました。これが「排出権取引」です。
 削減活動には厳密なルールが定められていて、国連の承認が必要です。それには4種類の排出権がありますが、それ以外に民間での独自の排出権取引制度もあり、WWFやIETA(国際排出量取引協会)が認証する制度もありますし、アメリカにはシカゴ気候取引所(CCX)で排出権が取引されているそうです。
 排出権取引に参加するためには「割当量口座簿」に口座を開かなければなりませんが、それは「地球温暖化対策の推進に関する法律」で「国内に本社を置く法人」に限定されています。個人は取引できません。ただし、取引をしている企業に出資することは可能です。
 企業は会計処理や税務処理が必要です。購入時には金融投資ではなくて事業投資として扱われ、有償譲渡の場合には消費税がかかります。市場で世界最大規模は欧州市場(EU-ETS)。企業だけではなくて金融機関が投資対象として参加しています。エネルギー価格にも影響を与えるという読みから、先物取引なども行なわれているそうです。
 世界最大の購入国はイギリス(最大の市場がロンドンにあるためだそうです)、次が日本。ただし京都議定書で定めた初期目標2007~2012の5年間で1億トンの排出権を取得する予定ですが、それでも15%削減目標の1.6%、森林による吸収で3.8%をプラスしてもまだ9.6%を削減しなければならない状況です。
 銀行の出版だけあって、会計や投資について詳しく書いてあるのですが、読んでいて「なんでも金に換算できるんだな」と感心します。地球の将来さえも市場での取引材料にしちゃうのですから。これはそのままSFにできそうですね。排出権の市場での値動きがリアル地球にも影響を与える、といった形で。さらには「地球温暖化関連の投資信託」なんてものまであるそうです。これはさすがに排出権そのものにではなくて「地球温暖化対策に熱心な企業」を選別して投資するものだそうですが、けっこう良い成績を上げているそうです。ただし、市場の動きがまだ始まったばかりで先行きは不透明なので、日本ではあまり伸びていないそうです。三菱UFJはこの商品を売りたいのかな?
 なお、京都議定書の目標が達成できなかった場合、とくに罰金などはありません。ただ、次の長期目標値が上乗せになったり排出権取引に制限が課せられる、というルールはあります。また、国際的な地位(発言力)が低下する懸念もありますが、こちらの方がこれからの国際社会のことを考えると重要なことかもしれません。