自己憐憫が得意な人は、他人の心の傷に気づくことが苦手です。だけど、一度その存在に気づいたら、自分の経験を生かして上手にそれに対応することができる……場合もあります。そうではない場合もありますが。
【ただいま読書中】
『誇りは永遠に』ギャビン・ライアル 著、 遠藤宏昭 訳、 早川書房、2003年、2000円(税別)
フランスで警察に焼き討ちをかけてロンドンに逃亡したアナーキストの青年が、フランスに強制送還するのなら英国王室に関するスキャンダルを暴露する、と言います。ひょんなことからその事件にかかわったランクリンは詳しい事情を知ります。青年は自分が英国国王の落とし胤であると主張しているのです。
天一坊か、と私は呟きます。
さらにその青年の恋人がパリから押しかけてきて「無実」を証明しようとして、話がややこしくなります。王室スキャンダルに関してだけではなくて、それをおこそうとしている国際的陰謀がすこしずつ姿を見せてきたのです。さあ、情報局の出番です。
ここで問題なのは、「その青年が実際に国王の庶子である」ことではありません。跡継ぎ問題は法律が解決してくれます。問題はそれが国際的なスキャンダルに発展して、第一次世界大戦直前の微妙な国際関係に影響を与えてしまうことなのです。ちょうど国王が訪仏の直前。スキャンダルに火がつくには微妙過ぎるタイミングです。こういった「重大事」の前に「個人の感情」などは風前の灯火です。
実際にそういった索漠たる思いを噛みしめる人は、本書に続々登場します。落とし胤の関係者や情報局員だけではなくて、殺人事件を解決しようとしたら政治的圧力で潰されてしまう警察官も同じような目に遭います。
残念ながらランクリン大尉のシリーズは本書でおしまいのようです。残念だなあ。これから第一次世界大戦がはじまって、世界の情報戦はますますややこしくなるのに。ただ、構成としては、第3巻と本書とを入れ替えた方が物語の流れが良かったように私は感じました。さもなければ第5巻を書いてもらうか。こういった不満はなかなか解消してもらえないのがもどかしいものです。スパイが「現実」をすかっと解決できないのと同様に。
【ただいま読書中】
『誇りは永遠に』ギャビン・ライアル 著、 遠藤宏昭 訳、 早川書房、2003年、2000円(税別)
フランスで警察に焼き討ちをかけてロンドンに逃亡したアナーキストの青年が、フランスに強制送還するのなら英国王室に関するスキャンダルを暴露する、と言います。ひょんなことからその事件にかかわったランクリンは詳しい事情を知ります。青年は自分が英国国王の落とし胤であると主張しているのです。
天一坊か、と私は呟きます。
さらにその青年の恋人がパリから押しかけてきて「無実」を証明しようとして、話がややこしくなります。王室スキャンダルに関してだけではなくて、それをおこそうとしている国際的陰謀がすこしずつ姿を見せてきたのです。さあ、情報局の出番です。
ここで問題なのは、「その青年が実際に国王の庶子である」ことではありません。跡継ぎ問題は法律が解決してくれます。問題はそれが国際的なスキャンダルに発展して、第一次世界大戦直前の微妙な国際関係に影響を与えてしまうことなのです。ちょうど国王が訪仏の直前。スキャンダルに火がつくには微妙過ぎるタイミングです。こういった「重大事」の前に「個人の感情」などは風前の灯火です。
実際にそういった索漠たる思いを噛みしめる人は、本書に続々登場します。落とし胤の関係者や情報局員だけではなくて、殺人事件を解決しようとしたら政治的圧力で潰されてしまう警察官も同じような目に遭います。
残念ながらランクリン大尉のシリーズは本書でおしまいのようです。残念だなあ。これから第一次世界大戦がはじまって、世界の情報戦はますますややこしくなるのに。ただ、構成としては、第3巻と本書とを入れ替えた方が物語の流れが良かったように私は感じました。さもなければ第5巻を書いてもらうか。こういった不満はなかなか解消してもらえないのがもどかしいものです。スパイが「現実」をすかっと解決できないのと同様に。