【ただいま読書中】

おかだ 外郎という乱読家です。mixiに書いている読書日記を、こちらにも出しています。

モラトリアム

2009-11-08 18:37:45 | Weblog
 中小企業だけではなくて住宅ローンもモラトリアムの対象だそうで、住宅ローンを抱えているわが家にもこれは関心事ではあります。と言っても、幸いモラトリアムを申し出るほどまだ困窮しているわけではないのでたぶんしこしこと返済し続けることにはなるのでしょうが。
 ただ、一方で返済猶予の人がいて、こちらはきちんと返済を続けるのですから、少しは“褒めて”ほしい(それも言葉ではなくて態度(金利など)で)と望むのは、望みすぎ?

【ただいま読書中】
グスタフ・クリムト ──女たちを描いた画家』ズザンナ・パルチュ 解説、木村理恵子 訳、 岩波書店、2009年、2800円(税別)

 一度観ただけですが印象に残っている「ジェラシー」という映画、この冒頭にたしかクリムトの有名な「接吻」が出てきたような記憶を私は持っています。アート・ガーファンクルが出演したので観に行ったのですが正直言って「愛の狩人」の方が当時は好きでした(ジャック・ニコルソンがアート・ガーファンクルとの友情と恋愛に悩む青年(!)を演じていたのが途方もなくミスマッチで印象的だったのです)。
 クリムトについては「伝説」があります。エロスに満ちた絵を描いた画家にふさわしくモデルを次々妊娠させた、母と妹を大切にし家庭的に過ごした、人生の伴侶だったエミーリエ・フレーゲとはプラトニックな関係だった……なにやら矛盾した人間像です。本書では、女性の視点からクリムトの作品と女性遍歴を辿ることで、彼の“実像”に迫ろうとします。男性の女性遍歴というとどうしても視野の中心にその男が来ますが、一人で女性遍歴はできません。相手が必ず必要です。すると20世紀はじめの女性がどのような行動をするものだったかについても知る必要があります。だから「女性の視点」なのです。
 社会からの解放を唱える思想の表れである「改良型ドレス」と呼ばれるものが当時のウィーンにはあり、クリムトはエミーリエ(ブティック経営)とともにそのジャンルの仕事着を着ていたことが私的な写真に残されています。また「自由恋愛」も当時唱えられていて(映画「エマニエル夫人」での主張とほぼ同じです)クリムトはそれも実践していました。つぎつぎ恋人を作り子供を産ませ認知しそれを秘密にはしなかったのです。
 当時のモデルは大体下層階級の娘でした。クリムトが彼女らと次々恋愛関係に落ちるのは当時の社会では容認されましたが(日本でも「女遊びは男の甲斐性」という言葉が生きていた時代です)、貴婦人との自由恋愛は認められませんでした。だから「貴婦人とはプラトニックな関係を保っていた」という“神話”が成立したのですが、著者はその神話のベールを慎重にめくっていきます。本人が書いた葉書や友人の証言、そして残されたクリムトの作品がその手がかりです。
 しかし贅沢な本です。文章は全体の約半分。残りは図版で、絵・素描・下絵・写真などが豊富に掲載されています。そして読者は、文章と図版の両方から、読者はクリムトの人生についての断章を“読む”ことができるのです。