世界で初めてラジオやテレビ受像器を買った人は、世間の評判とかは一切なかったわけで、何を期待してお金を出したのでしょう?
世界で初めて電話を買った人は、誰と話したのでしょう?
【ただいま読書中】『『古事記』にみる気象』原見敬二 著、 近代文藝社、1994年、1165円(税別)
「風」の章では「稲羽の素兎」が登場します。「風」なんてあったっけ?と一瞬考えますが、そういえば大国主神の兄たちがウサギに「海水を塗って風に吹かれていろ」ととんでもないアドバイスをしていたことを思い出しました。神武天皇崩御後の相続争いで弟神に対する暗殺の企てがありました。それを知った母后は「突風を予想する歌」を送って危難を知らせました。「日本最初の天気予報」に見せかけた急を知らせる手紙、ということでしょうか。
大国主神は妻の須勢理毘売命の嫉妬深さに困り出雲から倭へ旅立とうとしますが、その朝は霧雨でした。房総半島や山陰地方では「朝雨は女房の腕まくり(=大したことはない)」と言われますが、夏期の陸風で不連続面が生じて朝型だけ小雨が降る現象のことです。したがって、大国主神出立は夏のこと、と言えます。
黄泉の国で、伊邪那美命の体に取り付いていた「八の雷神」もここでは「気象用語」とされています。これはちょっと無理があるように私は感じますが。
和歌の始まりと言われているのが、古事記の最初の歌「やくもたつ 出雲八重垣 つまごみに 八重垣つくる 其の八重垣を」(新婚早々の須佐之男命)ですが、その「やくもたつ」は「八雲立つ=積雲系(積雲、積乱雲など)が鉛直的に発達していくこと」で、島根半島を寒冷前線型の閉塞前線が通過した後で発生することが多いそうです。
天孫降臨は八重となった「多那雲」を押し分けての降臨だったのですが、これは「棚雲」で空一面に広がる層状雲、それが八重ですから積乱雲(雷雲)から派生した雲が幾重にも重なっている有様です。それを押し分け突き破ってくるのは当然「雷」でしょう。なかなか派手な演出ですね。
『古事記』に出現する「気象用語」をまとめたら、『古事記』の時代の気象の傾向(温暖化していたとか寒冷化していたとか台風が多かったとか)がわかるかな、なんて期待も持って読みましたが、残念ながらそういったことまではわからなかったようです。ただ『古事記』を読む方法論として「こういったやり方」もありだということがわかって、大いに参考になりました。私も「私の」読み方で古事記を読んで良いんだな、と思えたのは大収穫です。