「聞いて極楽見て地獄」……百聞は一見にしかずの好例
「仲人口は半分に聞け」……結婚して片目を閉じる前の必須作業
「風聞」……風のことばを聞き取る能力
「聞き耳を立てる」……ふだんの耳は昼寝中
「新聞」……古いものを読むための紙媒体
「朝に道を聞かば夕べに死すとも可なり」……人生は半日分の道程
「聞き捨てならない」……聞き捨てるような失礼なことができない
【ただいま読書中】『ちょっとピンぼけ』ロバート・キャパ 著、 川添浩史・井上清壹 訳、 筑摩書房(世界ノンフィクション全集40収載)、1963年、340円
不思議なユーモアが湛えられた文章です。これは、著者がユーモラスな性格だったからかもしれませんが、もう失うものが何もなく一種開き直りのような状態で頼るものがユーモアしかない状態だったのかもしれません。なんというのかな、何かに対する執着というものが一切感じられない文章なのです。
1942年夏のニューヨーク。手持ちの現金は25セント硬貨一枚だけ。司法省移民局からは「前ハンガリー国籍(現在は国籍不明)のロバート・キャパを敵国人認定する」という通知。電話局からは料金未納で電話差し止めの通知。
それを、どこをどうやったのか、キャパは船に乗り込んで、Uボートがうようよいる大西洋を横断してイギリスを目指します。そして、雑誌の特派員として到着したはずのイギリスでもどこをどうやったのか、キャパはアメリカ軍属のカメラマンになってしまいます。もっとも最初の“仕事”は、軍法会議の被告になることだったのですが。そこから北アフリカ戦線に派遣され、キャパはやっと「戦争の尻尾」に追いつけます。器用なことに、恋も同時進行させているのですが。
落下傘の訓練も受けていないのに、シシリア攻略作戦にキャパは参加します。空挺部隊と一緒に敵地に落下傘降下を敢行し、最前線を進撃します。連合国軍は勝利を得ます。そしてキャパは、仕事とマラリアを。
ロンドンに帰ったキャパを待っていたのは、盲腸が破裂して病院に担ぎ込まれた恋人と、キャパを養子にしてくれたヘミングウェイと、Dデイでした。
そして有名なことば「そのとき、キャパの手はふるえていた」。ノルマンディに上陸する第一波の歩兵部隊に同行したキャパは、唯一の“武器”コンタックスのシャッターを切り続けます。ドイツ軍が撃ってくる銃弾の嵐の中、援護物の陰から撮影をしたら次の援護物へと突進、そこでまた撮影、そして……を繰り返します。進むは地獄、しかし“安全”な海岸に伏せていても、満潮が兵隊たちを後ろから追い立てるのです。
兵隊たちはキャパを不思議そうに見ます。傷ついた自分たちをどうして平気で撮影できるんだ、と。あるいは、民間人のくせに、どうしてわざわざ最前線に行くのか、と。キャパには明確な回答ができません。まるで自分の死に場所を求めているかのように、戦場から戦場へ、パリ解放・ライン川渡河・ライプチッヒ(アメリカ軍のドイツでの“最後の”戦場)……
戦争が終わり、キャパの恋も終わりました。でも、彼は生き続けなければならないのです。私には見えない何か重たいものを抱いたままで。