【ただいま読書中】

おかだ 外郎という乱読家です。mixiに書いている読書日記を、こちらにも出しています。

フーコーの振り子

2014-11-18 06:56:58 | Weblog

 私が初めて実物を見たのは、東京国立科学博物館でした。「地球の上」ではなくて「宇宙の中」でゆったりと「自分の運動」を繰り返している振り子を見たとき、自分は世界の何を見ているのだろう、なんてことも思いましたっけ。知識がなければただのでかい振り子です。知識があって初めて地球の運動に思いが及びます。だけどそこから、寒々とした「宇宙」を実感するためには、知識だけではなくてある種のセンスも必要なのではないか、とも感じましたっけ。あのときの感動を味わうために、また上京したくなります。「現物のインパクト」がありますので。
 「何しに?」「振り子を見に」というのは、ちょっと変な会話ですが。

【ただいま読書中】『ミレニアム3 ──眠れる女と狂卓の騎士(上)』スティーグ・ラーソン 著、 ヘレンハルメ美穂・岩澤雅利 訳、 早川書房、2009年、1619円(税別)

 『ミレニアム2』が終わった「その夜」から本書は始まります。頭を撃たれ土に埋められたリスベットと負傷し逮捕されたミカエルとが救急病院に運び込まれます。典型的な“無能な警官”は、殺人犯人をわざわざ逃がしてやります。
 リスペットを殺そうとしていたギャングとそれを支援していた公安警察は、事件のもみ消しに動き出します。事件の真相が明らかになったら、自分たちには致命的な大打撃だからです。そのためには、証拠を改竄・消滅させ、危ない証人は消す必要があります。それがわかっているから、ミカエルの方も“味方”を集めます。アテになる警察官、リスペットがかつて働いていた警備会社のボス、信頼できるマスコミ人……病院のベッドに縛り付けられているリスベットを守る「騎士」が集結します。
 それにしても、ソ連から亡命した大物スパイから情報を取るために身分を偽装して匿っていた公安警察(の一派)が、そのスパイがギャングに転身してからもその秘密を守り続けていかなければならないのは、ある意味ストレスだっただろうとは思います。国益のための手段が、いつのまにか保身のための目的にすり替わってしまったのですから。そしてそのためには、一人の少女を精神障害に仕立て上げて精神病院に閉じ込め、決して社会復帰できないようにする“工夫”さえする必要があったわけです。
 『ミレニアム』は「1」では個人が大金持ちの犯罪をいかに暴くか、が主題となり、「2」では個人が組織犯罪者と戦うことになりました。それがこんどの「敵」は「国」です。話がどんどん大きくなっていきます。ただ常に「基調低音」としてなりひびいているのが「女性に対する卑劣な犯罪行為」です。男としてはちょっと居心地が悪いんですけどね。
 居心地が悪いのは、公安警察も同じです。厳しい職業倫理を要求される職場に“腐ったリンゴ”が混じっている、と指摘されたのですから。その情報が本当なのかどうか、公安警察憲法保証課のメンバーも動き始めます。これまた心強い“騎士”ですが、この人たちは「憲法の制約下で動かなければならない」「内部で誰が敵かわからない」という厳しい制約が課せられています。こういった立場にはあまりなりたくないものです。