【ただいま読書中】

おかだ 外郎という乱読家です。mixiに書いている読書日記を、こちらにも出しています。

長すぎるレール

2019-09-06 07:18:10 | Weblog

 以前在来線のプラットホームに立っていると、目の前に貨物列車が停車したのですが、その積み荷が線路だったことがあります。ずいぶん長いもので貨車3両くらいに渡って乗せられていたのですが、たぶんカーブの弯曲からはみ出ないように計算されて搭載されていたはずです。ところで新幹線のロングレールは長さが200m以上あります。ではそのレールはどうやって輸送しているのでしょう? 工場から出荷するときに、そんな長いトラックは使えないでしょうし、使えたとしてもカーブを曲がりきれません。

【ただいま読書中】『ドクターイエローのひみつ』飯田守 著、 講談社、2014年、1200円(税別)

 「ドクターイエロー」の“本名"は「新幹線電気軌道総合試験車」、7両編成で黄色い車体の「新幹線」です。実際の線路を新幹線と同じスピードでは知りながら、電気や軌道のチェックを行う「ドクター」です。ただ、それが実際に走っている姿を見ることはなかなかできないため、鉄道ファンの中には「ドクターイエローを見ると幸せになれる」と言う人もいます。本数が少ない上に運行日程は非公表ですから、たしかに「会えたらラッキー」です。
 東海道新幹線が開業する前、2編制の高速試験車両が試験走行をしていました。営業運転開始後は、試験車両の一編成は非常時の救援用に、もう一編成は黄色く塗られて電気試験車として使われることになりました。これが「ドクターイエロー」の始まりです。最初は電気だけチェックし、軌道は専門の軌道検測車をディーゼル機関車が牽引してチェックしていました。しかし別々にするのは不便です。そこで開業10年後の1974年に0系新幹線をベースとした「ドクターイエロー」が誕生しました。その後新幹線はスピードアップし、それに合わせてドクターイエローもスピードアップ、700系新幹線がベースのドクターイエローが2001年にはJR東海、2005年にJR西日本に登場しています。
 ドクターイエローの仕事は「予防保全」です。壊れたところを発見する、ではなくて、これから壊れそうなところを発見する。人間だったら、人間ドックとか健康診断のような役割ですね。具体的に調べる(「検測」する)のは「電力(トロリー線の状態や変電所の機能)」「信号(ATC信号電流)」「通信(運転席と総合指令所を結ぶ通信回線)」「軌道(レールの歪み)」の4つです。しかし、時速200km以上で走行しながら直径15mmのトロリー線の摩耗をチェックできるとは、すごいですね。
 著者はドクターイエローに乗車することもできました。取材ですが、どう見ても楽しんでいます。しかし、「異常」を見つけるのではなくて「異常の前触れ」を見つけるために高速で移動しながら集中していたら、従事する人も神経が磨り減りそうです。
 異常の前触れが発見されると保守作業が始まります。新幹線の運行がない深夜に、線路やトロリー線の交換です。ドクターイエローから通知があったらその日のうちに現場を確認、次の日には交換、と実に素早い。ちなみに、ドクターイエローは線路を「上」から調べますが、保守作業員は上だけではなくて「下」からも線路を見ます(その姿勢から「拝見する」と言うそうです)。これによって「数十メートル先が2ミリ膨らんでいる」なんてこともわかるのだそうです。スゴ技です。
 ドクターイエローのハイテクには驚きましたが、結局人の手が最終的には必要になる、ということでした。すると、AIがこれから発達したとしても、やはり人の手は必要なままなのかな?