ビスマルク型の二番艦でドイツ海軍最後の戦艦です。ただし、“仕事"はほとんどせず、「出たら恐いぞ」とイギリス海軍を牽制するだけだった、という軍艦としては非常に不幸な一生でした(活躍されたら、それはそれで不幸を大量生産するのですが)。ティルピッツについて図書館でノンフィクションを探してもなかなか良いのが見つからず、今日のフィクションがやっと見つかったので、そのシリーズを最初から読むことにした、が「海の異端児エバラード・シリーズ」を読むきっかけでした。しかし本書がシリーズの最終巻。まさか第一次世界大戦から話が始まるとは思っていませんでしたが、あっという間に終わってしまった感じです。
【ただいま読書中】『奇襲ティルピッツ(海の異端児エバラード・シリーズ(9))』アレグザンダー・フラートン 著、 高岬沙依 訳、 光人社、1993年、2000円(税別)
敵潜水艦の侵入を防ぐために防潜網を張った港にこっそり侵入するために小型特殊潜航艇を用いることは、真珠湾で日本海軍が行いました。それとまったく同じ発想でイギリス海軍が開発したのがミゼット潜航艇X艇です。ただ日本のものは母艦である潜水艦に固着して運ばれたのに対して、イギリスのX艇はロープで牽引されていたそうです。で、本書は、ポール・エバラード(ニックの息子)がX12艇の艇長として、母艦の潜水艦にがんがん引っ張られて艦のコントロールがとっても難しいのに悩んでいるシーンから始まります。
ニックは少将に昇進し巡洋艦隊をもらって太平洋に向かう予定です。しかしその予定を足止めをしているのが、ノルウェーのフィヨルドに深く隠れて潜在的な脅威となっているティルピッツなどドイツの残存艦隊です。これの息の根を止めておかなければ、イギリスは安心して海軍を東に派遣できないのです。そこでポールが小さな潜航艇の中で小突き回され続けることになったのでした。
イタリアが降伏、しかしイタリアのドイツ軍は降伏する気はありません。イタリアにもっと戦力を集中させるためには、北海にはり付けられている戦力を投入したい。そのためには、フィヨルドの残存艦隊をなんとかしなくては、という“三段論法"から作戦が立てられます。
ニックはソ連に対する輸送船団を護衛する艦隊の指揮官となっています。もっとも与えられたのは例によって時代遅れの寄せ集めですが。ただ、イギリス・アメリカ・ソ連の艦が含まれているという「連合軍」になっているところがちょっと新鮮です。そして、ティルピッツなどが出撃したという報告を聞き、自分たちがそれに襲われる可能性がどのくらいあるか計算したり、地上基地を発進したドイツ機からどうやって逃れるかを計画するとき、ニックの頭は冴えに冴えます。それでもニックたちは襲撃を受けます。それも繰り返し繰り返し。
しかし、ニックが激しい戦闘で乗艦に重大な損傷を受けるのはこれで何回目だろう、と思います。さらに今回は条件が悪い。氷が浮く北大西洋で、海に落ちたら長くは低体温症となって長くは生きられない条件なのです。
ニックは「氷水の表面」でひどい目に遭いましたが、ポールは「氷水の中」でひどい目に遭っています。特殊潜航艇で2トンの機雷を二つ運び込んで敵艦の真下で爆発させよう、という敵も味方もびっくりの作戦です。
最後になぜか著者本人が登場します。それにはもちろん理由があります。私はちょっと悲しくなります。この物語が本当に終わってしまうことに気づいてしまったのです。だけど「ニック・エバラードの物語」は終わりましたが、世界は動き続けています。またそのうちに“新しいエバラード"が登場するかもしれません。