【ただいま読書中】

おかだ 外郎という乱読家です。mixiに書いている読書日記を、こちらにも出しています。

戦争を成立させる二つの要素

2019-09-12 07:08:24 | Weblog

 「人類の英知の限り」と「人類の愚劣さの限り」。

【ただいま読書中】『タナトス戦闘団 (航空宇宙軍史・完全版(1))』谷甲州 著、 早川書房(ハヤカワ文庫JA1240、2016年、1300円(税別)

 一昨日読んだ『航空宇宙軍史・完全版(1)』の後半部分です。
 『カリスト ──開戦前夜』の最後で、クーデターのとばっちりで月に飛ばされた“ダンテ"・フェルナンデス(中佐)は、ここで破壊工作に従事しているようです。しかし、ダンテの行動はすでに航空宇宙軍警務隊に把握されていました。なにしろダンテは、戦闘のプロではあっても、諜報はアマチュアです。それが張り切って動くものだから、目立って仕方ない。
 ここで当然の疑問が生じます。なんでカリスト軍は、そんな人間を、開戦間近の月に送り込んだのか?
 囮の可能性が大です。ダンテは「地球・月連合」と「外惑星連合」の戦争が始まった瞬間、陸戦隊を率いて月を奇襲するよう命じられています。今回の“長距離出張"はそのための情報収集、が公式の名目です。しかし、それを航空宇宙軍に知らせることによって、月を守るための戦力を割かせたら、主戦場で少しでも外惑星連合は有利に事を運べるかもしれません。あるいはそう見せかけておいて、実はやはり月が主目標だとか?
 なんだかややこしくて頭がねじれてしまいそうです。
 警務隊の拷問からなんとか抜け出せたダンテは、こんどはカリスト政府の内部に目を向けます。自分を使い捨てにしようとしたのは誰で、その目的は何か? そしてこの状況を自分の部隊「タナトス戦闘団」にどのように有利に使うことができるのか、と頭を絞ります。武闘派のはずですが、けっこう知的な作業もできる人です。
 そして月面への奇襲。重力が1/6g、真空、という条件が、地球上の戦闘とは全然違う厳しい条件を襲撃者側に与えます。タナトス戦闘団が荒っぽく着地した瞬間、カリストは宣戦布告。外惑星連合軍の主力は火星と地球の周回軌道を奇襲しています。しかし航空宇宙軍もバカではありません。当然「あり得る事態」に対しての備えをしていました。
 ともかく、これまで人類が経験したことがない戦争が始まったのです(たとえば「軌道要素」が重要になる戦争って、地球上ではありませんよね)。
 『カリスト』では「戦争」は主に「起こす側」から描かれました。しかし『タナトス戦闘団』では「命令を受けて戦う人」「意に反して戦いに巻き込まれる人」が中心となっています。多くの人にとっての戦争は、たぶん“そういったもの"なのでしょう。