【ただいま読書中】

おかだ 外郎という乱読家です。mixiに書いている読書日記を、こちらにも出しています。

ギャンブル

2020-07-13 07:23:35 | Weblog

 パチンコ屋は相変わらず繁盛しているようだし、こんどはカジノを建設しようと政府は躍起になっています。だけど地方では、競馬場やオートレース場が閉鎖、という話をときに聞きます。日本でのギャンブル市場には、明るい未来が待っているのですか?

【ただいま読書中】『バクチと自治体』三好円 著、 集英社(集英社新書0495H)、2009年、700円(税別)

 日本の競馬は中央競馬と地方競馬に分かれますが、中央競馬は戦前から「(旧)競馬法」によって全国11の競馬倶楽部によって「公認競馬」として開催されていました。対して地方競馬は「村の祭り」のような草競馬でした。1927年(昭和2年)に「地方競馬規則」が農林・内務省令として公布され、全国116箇所の地方競馬場で開催されましたが(東京都では、八王子と羽田)、戦争によって廃止されます。戦後には(根拠法を持たない)「ヤミ競馬」が行われました。ヤミを放置できませんから、1946年に「地方競馬法」が公布されました。ただ「法律」があっても「無法状態」だったようで、八百長・暴動・脅迫などは日常茶飯事だったようです。さらにGHQが「独占禁止法に抵触するから、競馬に関係する団体はすべて閉鎖」の命令が。そこで政府は「競馬を国営化・公営化したら、民間機関の独占状態ではない」と主張して新しい競馬法を公布します。かくして、政府が行う「国営競馬」と都道府県または指定市が行う「地方競馬」が成立します。ところが「地方の顔役が仕切る“鉄火場”」に公務員が乗り込んで行くわけですから、これは大変です。昭和23年の都営競馬開催準備会議では「顔役に対する仁義の切り方」が中心課題になったそうです。
 地方競馬を開催できるのは「著しく災害を受けた市」に限定されていました。つまりは空襲被害です。戦災からの復興の財源として、地方競馬は貴重なもので、競輪・競艇・オートレースが競馬に続いて登場します。戦後復興の財源を庶民から吸い上げるための、実に“優れた”システムでした。この中でも一番“お手軽”だった(走路とスタンドと自転車があれば良くて、騒音問題もない)競輪に多くの自治体が殺到し、あっという間に50以上の競輪場が開設されました。
 地方財政への貢献度で明暗を分けたら、「明」は競輪、「暗」はオートレースです。しかし競輪にも「暗」がありました。頻発する騒擾事件です(その最大のものは鳴尾事件(昭和25年9月9日)。暴動と放火で職員6名が負傷。警官の発砲で死者一人、逮捕者250名)。対策として競輪は2箇月の自粛、再開に当たっては連勝式車検の的中率を上げて平均配当を落とすことで射幸性を薄めるという「変革」を行いました。なんだか、根本的なことはしていないような気がしますけれど。
 「競輪反対」運動は「公営賭博廃止」にまで声が大きくなります。そこで発動されたのが「政治力」。農林省(競馬)・通産省(競輪、オートレース)・運輸省(競艇)をまとめて審議することで、結果として競輪は存続することになりました。ところがこんどは自治省が「公営ギャンブルをやっている自治体とやっていない自治体の財政的な不平等是正」を言い出します。
 東京都では、公営ギャンブルがすべて行われていました。昭和41年(1966)には、競馬場1、競輪場3、競艇3、オートレース1が揃い、世界に冠たる「ギャンブル都市」だったのです。それに危機感を持ったのか、美濃部亮吉都知事は「一切の都営ギャンブル廃止」を宣言します。これでまた大混乱が。さらになぜかこの時期に集中して八百長の摘発が続き、オートレースの事件はプロ野球の「黒い霧事件」に発展します。所がここに「ハイセイコー」という“救世主”が登場。競馬は「健全な娯楽」へと舵を切り、他の公営ギャンブルもそれに続こうとしました。中央競馬ではさらに「ミスターシービー」「シンボリルドルフ」という三冠馬・「武豊」という“スター騎手”のデビュー、という“幸運”が続き、シンボリルドルフが三冠を達成した1984年に、中央競馬の売上がついに競艇のそれを抜きました。平成に入ると、バブル破裂の影響もあってか、地方の公営ギャンブルはどれもゆるやかな売上減少となりましたが、中央競馬だけは一人勝ちで売上はぐんぐん上昇し続けました。これには「スター」の有無もあるでしょうが、「PR」の有無も大きいでしょう。中央競馬はテレビで放映や宣伝をしますが、地方の公営ギャンブルは積極的な宣伝はしませんでしたから。しかし平成10年から中央競馬も売上の減少が始まります。「健全な娯楽」から、血相を変えてお金を全部突っ込む、という人は遠ざかっていったのかもしれません。そして、公営ギャンブルの売上減少はもっとすごいことになっていきました。かつては自治体の財政に貢献してきた公営ギャンブルが、(税金の)持ち出しが必要な金食い虫になってしまったのです。「赤字だから、もうやめ」は経済的には正しい判断ですが、ここでいろいろ難しい問題があり、その部分を読んで私もちょっと考え込んでしまいました。特に競輪は、オリンピックで「KEIRIN」という種目まで生まれていますからねえ。