3基の原子炉が同時にメルトダウン(炉心溶融)するという未曽有の事態に陥った東京電力福島第1原発(福島県大熊町、双葉町)。世界最悪「レベル7」の事故は、半年を経ても放射性物質の放出が止まらず、現場では被ばくの危険と隣り合わせの作業が続く。
原発に批判的な立場から福島第1原発事故を見続けてきた京都大原子炉実験所の小出裕章助教(62)に、今後予想される展開や課題を聞いた。
◇遮水壁、一刻も早く
--福島第1原発事故から半年が経過するが、感想は?
小出 事故が起きた時、私は「勝負は1週間で決まるのではないか」と考えていた。つまり、放射性物質を封じ込めることができるか、日本が破局に陥るかは1週間で決まると思っていた。
しかし1週間たっても1カ月たっても、半年たってもどちらに転ぶか分からない不安定な状況が続いている。
こうした事故の進展になるとは、だれも予測できなかったのではないか。
--今後予測されるリスクや懸念材料は?
小出 事故は現在進行中で、大量の放射性物質が外に出た。
ただ、大量の放射性物質が、原子炉と使用済み核燃料プールの中にまだ残っている。
今後もっと大量の放射性物質が環境に出る可能性があると考えている。
--具体的には?
小出 東電は5月、1号機については水位計を調整した結果「すでに炉心の中には水はない」と言い出し、メルトダウン(炉心溶融)を認めた。
炉心に水がなければメルトダウンは避けられないし、圧力容器の底も抜け、溶けた燃料の溶融体が格納容器を損傷する可能性もある。
その場合、溶融体が原子炉建屋の床を突き破って地面に潜り込んでいる事態もありうる。海洋や地下水に放射性物質が拡散しているかもしれない。
溶融体が地下水に接触しないよう「地下ダム(遮水壁)」の建設を進めるべきだ。
東電の試算によると1000億円レベルの費用がかかるため、株主総会前には建設を表明できないとして、発表を一時取りやめた経緯があった。本来は一刻も早く着手すべきだった。
2、3号機については「炉心の半分まで水位がある」という情報もある。
ただし水位計が壊れている可能性もある。
もしそうなら2、3号機もメルトダウンし、燃料が地下に潜り込んでいる可能性もある。正確な情報がなく、実際のところは分からないため、いろんな可能性を考えなければいけない。
もし炉心に水があって完全に溶融していない場合、冷却に失敗すれば2、3号機で水蒸気爆発が起きる可能性がある。
もし水蒸気爆発が起きれば、圧力容器は破壊され、外側の薄っぺらい格納容器も破壊される。
放射性物質の放出を防ぐ壁は完全に失われる可能性がある。
--汚染水をリサイクルする「循環注水冷却」が何とか稼働したが、どうみているか?
小出 政府や東電は「循環注水冷却」の稼働を喧伝(けんでん)しているが、そんなことは「瑣末(さまつ)なもののさらに瑣末なもの」だ。
1号機のように燃料が格納容器の底に沈み込んでいるなら、水を注入しても同じではないか。
東電のデータが正しいなら、1号機に関する限り、水を入れることはあまり意味がない。むしろ遮水壁を作る方に力点を移すべきだ。
2、3号機についてはまだ燃料が溶け落ちていないことも考えられるので、水を送り続けなければならない。
それよりも、放射性汚染水が11万立方メートルもたまっている現状を重視すべきだ。
4月に2号機の取水口付近のコンクリートの穴から汚染水が海に漏れているのが見つかった。
あの場所だけから漏れていることはあり得ない。
原発施設はコンクリートで覆われており、地震や津波でいたる所が割れていると考えられる。
壊れないコンクリートなどあり得ない。
2号機取水口の漏れは、たまたま見える場所にあったから見つかっただけで、氷山の一角だ。
地下などでは亀裂からどんどん地下水へ漏れている可能性がある。
「あと何センチであふれる」という視点ではなく、「今の漏れを何とかしなければいけない」という議論をすべきだ。
冷却方法を循環式にしたところで、放射性物質が消えてなくなるわけではない。
鉱物「ゼオライト」は放射性セシウムを吸着するが、セシウムを吸い込んだゼオライトの塊が残る。
--東電は工程表で、1月までの「冷温停止」を目指しているが。
小出 「冷温停止」という言葉は専門用語だが、「圧力容器の中の健全な核燃料を100度未満にする」という意味だ。
でも、今は炉心が溶け、圧力容器の底が抜けていると東電自身が言っている。
それなら「冷温停止」も何もないのではないか。
工程表が発表された4月、東電は「炉心は(健全な状態に)ある」と言っていた。
そんな前提が崩れてしまっている以上、「冷温停止を目指す」目標にどんな意味があるのか教えてほしい。
--菅直人前首相は、事故にかかわる「中間貯蔵施設」を福島に造りたいと言った。
小出 今後、がれきや汚染水処理で生じる汚泥など、大量の放射性物質の保管が課題になる。
世界中に飛んで行った放射性物質は、そもそも福島第1原発の原子炉の中にあったものであり、
東電の所有物だ。それが東電の失敗で外部に出たのだから、東電に返還するのが筋だ。事故で出た廃棄物は(東京の)東電本店に持って行くべきだ。原発を地方に押しつけてきた東京の人たちはぜひ受け入れてほしいと思う。
それでは土地が足りないので、福島第1原発敷地の中へ運ぶべきだ。
本当に言いたくもないが、福島第1原発周辺で人が帰れない場所を「核の墓場」にせざるを得ないだろう。
ただし、
一般の原発から出た使用済み核燃料の「中間処理施設」にすべきではない。
どさくさに紛れて保管を福島に押しつけることは絶対にあってはならない。
--経済産業省原子力安全・保安院が環境省の外局に設置される「原子力安全庁(仮称)」として再出発することをどう見ている?
小出 経産省であろうが環境省であろうが、「原子力の推進」が国策なら立場は同じ。
原子力推進の国策の中で、原子力の安全を確保できるわけがない。
なぜなら、原子力は危険なものだからだ。
私は毎日毎日事故が起きると言っているわけではない。
しかし原発は時として事故が起きてしまうものだということを理解しなければならない。原子力を推進しながら、安全を担保できるかのように言うことは間違いだ。
つまり、原子力をやめる以外に安全の道はないというのが私の主張だ。
あり得ないが、もし私に「原子力安全庁長官になってほしい」と要請してきてもお断りする(笑い)。
どんなに願っても「安全な原発」はあり得ない。
--菅直人前首相が、中部電力浜岡原発の停止を決めたことの評価は?
小出 停止自体は評価できるが、防潮堤などの地震対策が完成すれば運転再開してもいい、という含みを残したまま今に至っている。
中電が本当に運転を再開したければ、再開できる余地が残っている。
--緊急時迅速放射能影響予測システム(SPEEDI)の結果公表が遅れるなど、事故に関する国や東電の情報公開について。
小出 少しでも危険だと受け取られる情報は隠すべし、というのが国の姿勢。
国が恐れているのはパニックであり、住民の安全は二の次だということが今回の事故ではっきりした。
国など組織の前で個人が無力になるのは、第二次世界大戦中もそうだった。
今は本当に「戦争」のような事態だ。
--原発内の情報も、東電を通じてしか出てこない。
小出 今も人々を被ばくさせ続けている当事者が、情報でも何でも一元管理しているのはあり得ない話だ。
国も東電もふんぞり返って「データをやるぞ」という態度。とんでもない話だ。
--政府は国際評価尺度(INES)のレベルを事故当初、過小評価した。
小出 日本原子力学会に所属する研究者は山ほどいるが、事故がとんでもない状況になっているにもかかわらず「レベル4」と言い張る研究者もいた。原子力を推進した自分の責任を逃れたいと思い、事故ができるだけ小さくあってほしいと思いながら発言した結果だ。日本原子力学会は「個人の責任を問うべきではない」との声明を出しているが、自分が間違ったと思うなら公表するぐらいの気構えが必要だ。また、福島第1原発を誰が認可したのか。当時の原子力委員会、原子力安全委員会、そして経産省のたくさんのワーキンググループに入った専門家が責任をとることは当たり前だ。
--政府の事故調査・検証委員会(事故調)にはどんな事実関係を明らかにしてほしいか。
小出 一つ一つのデータをきちんと公表する。
さらに、そのデータを東電が自分たちに都合のいいようにシミュレーションしている可能性があるので、シミュレーションのやり直しをさせるべきだ。
もしそれが実現できれば、おそらく福島第1原発は津波ではなく、地震で壊れたことが明らかになるのではないかと思う。
事故調は「個人の責任を追求しない」と表明しているが、事実関係を明らかにするだけでなく、責任を明確にすべきだ。
--廃炉はどう進めるべきか?
小出 メルトダウンした燃料をどうやったら回収できるのか、私には想像すらできない。米スリーマイル島原発事故(79年)では、燃料が圧力容器にとどまっていたため何とか回収できた。これだけでもずいぶん大変だった。
しかし、
福島の場合は核燃料が地面にまで潜り込んでいる可能性があり、回収には10年、20年単位の時間が必要だろう。
私たちは人類史上、遭遇したことがない事態を迎えている。 こいで・ひろあき 東京都生まれ。74年、東北大大学院工学研究科修士課程修了。工学部原子核工学科在籍中の70年、東北電力女川原発の反対運動に参加したのを機に、反原発の研究者になることを決意。74年から現職。専門は放射線計測、原子力安全。
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福島第1原発:周辺市町村 鉢呂経産相「まさに死の町」
鉢呂吉雄経済産業相 鉢呂吉雄経済産業相は9日の閣議後会見で、野田佳彦首相に同行して8日に東京電力福島第1原発などを視察した際の印象について
「残念ながら周辺市町村の市街地は人っ子一人いない、まさに死の町という形でした」と述べた。周辺住民は原発事故の影響で避難しており、担当閣僚の発言として配慮を欠くとの批判も出そうだ。
鉢呂経産相は原発から半径20キロの警戒区域内を視察し、関係する市町村長と意見交換した。
会見では、事故現場で収束作業に当たる作業員らについて「予想以上に前向きで明るく、活力を持って取り組んでいる」と印象を語り、放射性物質の除染対策に関しては「政府として全面的にバックアップしたい」とも述べた。【和田憲二】
「まさに死の町」の発言に、当日午後鉢呂経産相は 発言の取り消し及び謝罪を申し述べた。
しかし、同月10日「大臣 在任9日間」 鉢呂大臣は発言の責任をとり辞任した。