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Ⅴ 「どうする! 日本の地震予知」 中央公論4月号 著者 上田正也氏

2011-03-11 20:41:16 | ロシア・地震予知情報

 さて、そうなると、全国に四十数点つくった観測点は片端からつぶされ、定職をなげうって各地からはせ参じた同志たちも失職、今や、我々は残党になってしまった。

 失職した一人は、故郷へ帰って、市会議員となり、それでも研究にも力を注いで最近学位を取得した。そういう市会議員は世界にもそうざらにはいまい。
 宇宙開発事業団でのプロジェクトも我々と同じ運命をたどり、二〇〇二年以後は「お国」の予算は文字どおりゼロである。

 一般に研究者は科学研究費に応募して審査を通れば、研究資金を受けられるのだが、現在、文部科学省の募集項目には「地震災害・予測」というやや紛らわしい細目があるのみで、明示的に「地震予知」としたものはない。

 これは「地震予知」の研究をしたいという応募意欲を著しく削ぐもので、事実、予知研究の応募は審査を通らないというのが常識となってしまった。
 
 今年は一〇年に一度の細目見直しにあたって、「地震予知」を入れようという提言を受けた地震学会の代議員会では猛反対発言が圧倒的だった。
「一旦排除されたのだから、今さら昔に戻すな」「科研費は、科学研究のためのものであり、予知なぞという学問にならないものにはそぐわない」「地震予知は特別の予算で潤っているのだから、科研費に何故出す必要があるのか」等々。何をかいわんやである。

 しかし、我々は研究を放棄してはいない。
いないどころか、乏しい研究費で、活発な国際共同研究や国際会議もやっている。
 事実、地球物理学の最大国際組織(IUGG)には二〇〇一年「地震・火山の電磁気研究:EMSEV」なる作業委員会が設立され、筆者はその初代委員長を務めたが、現在も、東海大学の長尾年恭教授が、その事務局長をやっている。

 地震電磁気学的手法についても問題がないわけではない。問題は山積である。だからこそ研究が必要、それも「基礎研究」が必要なのである。
 
 最後にちょっと面白いと思うことを一つ。電磁気的前兆現象が地震を起こすとは考えられないが、人工的に強力な電流を地下に打ち込むと地震が誘発されるらしいのだ。

 ロシア人たちが、かつてソ連領だったキルギスの天山山脈で二・八キロアンペアもの電流を地下に流し込む実験をしたところ、翌々日くらいから地震が増え、数日のうちに収まるという現象が観察されたのである。

 流した電流のエネルギーの一〇〇万倍ものエネルギーの地震が起きた。
だから電流は地震の原因そのものではなくて、電流が刺激して地震が誘発されたという結論になった。

 そうなると、わが国でも東京大地震とか東海大地震の前に、ナマズを手なずける方法がないかと期待できることになるかもしれない。

 予知は実験ができないが、制御なら実験可能だ。実験物理学者たちが、実験に乗り出すかもしれないし、もしかすると、予知より制御のほうが早いかもしれない。
 しかし、怖いのは大地震を誘発させてしまったらどうなるか? それこそ、基礎研究が大事なところであろう。
近く、我々はキルギスとの共同研究を進めるために、また現地を訪れる。

今度は違うぞ

「地震短期予知」は容易ではないが、不老不死の薬や永久機関とは違い、普通の意味の科学的作業であり、成功は確実に射程内にある。

 しかし、これには今の研究不在体制を脱却するイノベーションが絶対必要である。我々は地震観測をするなと言っているのではない。

 短期予知の主役は地震観測ではないことを認識して、人員と予算の一%でも「短期予知」に投じてはと言っているのだ。
 
 地震予知の歴史が楽観論と悲観論の繰り返しだということは興味深い事実だが、我々の射程に入ってきた短期予知可能論は、今までの楽観論回帰とは本質的に違う。
 今までの楽観論は地震学の枠内での話だ。
 地震学では本来短期予知はできないので悲観論が主流なのは当然なのだ。

 たまたまできたりすると楽観論というわけだが、長続きはしない。
大成功とされた海城地震にしても多くの宏観異常に支えられ、直前の前震活動に助けられたのだが、前震のなかった唐山地震では失敗した。

 そもそも、地震学だけで予知できた地震は一つもないのだ。
 ところが我々の今度の経験はやや話が違う。
本当に短期前兆を科学的にとらえた勢力が登場したからである。
事実、既に沢山の地震を予知しているのだ。「君たちの悲観論は正しいが、我々にはできるのだよ」なのだ。

 だがわが国の地震予知計画はやはり抜本的な意識変革を要する。
地震学が固体地球物理学の王座にあるのに対し、地震予知学はやっと芽生えたばかりの新しい学際科学だからである。

 地震学と地震予知学は「違う学問」であることを認識することから出発し、学際的な短期予知のための教育・研究に集中する必要があるのだ。
 
 地震電磁気でも、複数周波数観測システムを全国展開する段階では、数十億単位の資金を要するだろうが、今はまだ研究段階なのでその必要はない。

 研究費は一桁以上少なくともいい。しかも、我々グループの現状からは一〇億円の単年度研究費よりも一億円を一〇年の方が望ましい。
 
 我々にとっては学問的には短期予知は射程内にあるのだが、これを進めるために必要な研究をする人材がいない。
人材はいても、従来のシステムでは、短期予知をめざす研究者にはポストが全くない。
これが今、最大の問題点である。これを解決する突破口は、まず一つ二つの大学にしかるべき人員構成の地震予知学部門を創設することだろう。

 幸いまだその人員を埋めるくらいの優秀な失業研究者はいる。そこでの研究・教育は次代の実用的予知実現のための人材を生むだろう。悠長な話に聞こえるかもしれないが、研究の源は人であり、それを生むのは教育。しかも、教育は意外と早く人材を育てるのである。
 
 爆発的な人口増加・経済発展の期待されるアジア・中東・中南米諸地域には大地震が多いのだから、「短期地震予知」はこれらの地域の住民にも大きな安心・安全をもたらすに違いない。

 それはわが国がなすべき、かつなしうる最大級の国際貢献であろう。
(了)写真 講演 上田先生

 五回に渡った上田先生の文献を公開いたしました。
 全文は 中央公論 4月号 に掲載されております。


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Ⅳ「どうする! 日本の地震予知」 中央公論4月号 著者 上田誠也氏

2011-03-11 20:39:30 | ロシア・地震予知情報
 筆者が八四年に突然、地震短期予知は可能だと思ったのは、そのなかの一つ、VAN法との出会いだった。

 これはVarotsos, Alexopoulos, Nomicosという三人のギリシャの物理学者たちが創始した方法で、地中に流れる地電流を連続的に多地点で常時観測していると地震の前に信号が出て、震源もMも発生時期も大体わかる。

 これは三〇年近くも実績を上げ続けてきたほとんど唯一の短期地震予知方式であって、実証的にも理論的にも世界で一番確立された方法だ。

 成功基準は、発震時は数時間から一ヵ月以内、震央位置は一〇〇キロメートル以内、Mは0・7以内で、ギリシャのM5・5以上のほとんどの地震の予知に成功している。

 これは実に驚くべきことで、筆者もその成功を何回か現地で目撃した。
ところが、VAN法はギリシャの市民には頼られているが、彼らが地震学の素人(物理学者)だからか、地震学界ではあまり認められていない。

 しかし、最近は世界的にも地震現象が非線形物理学での臨界現象だと明らかになってきたこともあり、評価が急激に高まってきている。
 当然のことながら、地震電磁気学の先駆者たちは、地震学者ではなく、主として物理学者や電気通信工学者、天文学者などだった。

 わが国でも何人かの研究者がいろいろな周波数での電磁観測を行っていたが、地震予知国家計画とは無関係で相互の連携も乏しかった。

 ところが阪神・淡路大震災のあとで、お互いの測定を比べあってみると、地震前兆現象が浮かびあがったのだ。
 
 電磁気的前兆には大別して二種類ある。いずれも広い周波数領域が関わるが、一つは震源から放射するシグナルであり、もう一つは人工的な電磁波、例えば放送波の伝播異常である。
 
 後者は震源上空の電磁波の伝播経路の性質が変化することである。
地震の前に震源から電磁信号が発せられるのはまだ納得しやすいが、地下何キロメートルの震源で地震前に起きることが、電波の通り道、例えば一〇〇キロメートルも上空の性質に影響を与えるというのはなかなか納得し難いことだろう。
しかし観測事実はそれを強く示している。
 最近では地圏―気圏―電離圏相互作用と呼ばれて国際的にも最先端研究トピックとなっている(図4)。高周波(FM電波)伝播に関わる現象は、八ヶ岳南麓天文台の串田嘉男氏が発見した純日本産のものである。

 現在では他の研究者たちもそれを発展させており、北海道大学での森谷武男博士らの成果は実用化の域に近づきつつある。
 
 実用化といえば、同じく電波伝搬に関わるが、電気通信大学の早川正士教授らの低周波領域での前兆研究もある。放送波の異常を観測するので、今や日本全土の地震予知が可能であろうということで、最近会社を立ち上げ、近く予知情報の有料配信をスタートするとのこと。

 その利益で乏しい研究費を補って研究を進めるという。
地震予知は、本来社会と密着した実学なのだから、科学として正当であれば、これは正しい道であろう。

 成功が望まれる。
 社会との関係でいえば、最近「予知をしなかった」として責任を問われ、過失致死罪が取り沙汰されているケースがある。
 三〇〇人の犠牲者を出した二〇〇九年、イタリアのラクイラ地震(M6・3)だ。
 予知できなかったといって科学者を責めるのは不当だとする科学者擁護論が国際的にも起きた。

 しかし実際に起こったことは、半年も地震活動が続いて市民の不安が高まっていたのに、政府の委員会の学者がその一週間前にテレビで「大きい地震は来ないから、安心せよ」と言ったという。

 それが事実なら、これは予知しなかったのではなくて、「安心せよ」という誤った予知をしたのだ。
しかも、彼らが常日頃予知はできないと主張していたとすれば、これは許されない行為だったのではないか。 話が主題をはずれた。
 
 上層大気・電離圏で異常が発生するならば、それは実測されるべきだが、事実、電離層の電子密度が大地震の数日前から減少することが、台湾中央大学の劉正彦教授らや東京学芸大学の鴨川仁博士らによって確かめられた。

 一方、フランスは〇四年、電離層での異常を観測するための小型衛星DEMETERを打ち上げ、既に九〇〇〇例の世界のM4・8未満の地震について、発生数時間前に電離層内でのVLF帯の電波強度が低下することを見出している。

打ち切られた地震総合フロンティア計画

 阪神・淡路大地震の後、わが国の地震予知研究をどう進めるかについての模索の途中に、何人かの理解者のおかげで、科学技術庁(当時)が「地震総合フロンティア計画」なるものを立ち上げ、理化学研究所に地電流・地磁気観測を中心とした研究のため、資金を出してくれることになった。

 私どもは感激して、同志を募って東海大学を拠点としてそのプロジェクトを担当した。電波伝搬異常の研究に対しては宇宙開発事業団(当時)に資金が出て、早川正士教授(前出)が研究リーダーとなった。
 
 筆者らは北海道から沖縄まで、日本中に沢山のVAN型観測点をつくって、馬車馬のように働いた。例えば岩手山麓の観測点では、ある日突然、すごい信号が出てその二週間後にM6の地震が起きた。

 これはおそらく前兆だった。二〇〇〇年の三宅島の噴火のときには、伊豆諸島海域に大規模な群発地震活動が起きた。
我々はその二年半前から新島に地電流観測点をもっていたが、二〇〇〇年群発地震が始まる二ヵ月前から急に変動を示しだした。ほかにもこのような事例がいくつか出ている。VAN法は日本でも働くのだ。

 これらの成果に勇気づけられて、国際的な外部評価委員会の評価を受けたのだが、時すでに遅く「短期予知は不可能」という「お国」の基本方針が決定しており、我々の計画の延長は止められた。

 「評価がこんなに高いのにどうして継続できないのか」と担当官に聞くと、「問答無用。あれは科学的評価。我々は行政的評価をする」とのことだった。

 評価疲れと煩わしいくらいのわが国の評価システムは実はそんなものらしい。   Ⅴへ続く
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Ⅲ「どうする! 日本の地震予知」中央公論4月号 著者 上田誠也氏

2011-03-11 20:38:59 | ロシア・地震予知情報
 しかし彼らの議論は「従来の計画では、前兆探りばかりしていた」という前提に基づいていた。筆者に言わせれば、これは事実誤認だ。

 まともな前兆探索はほとんど誰も行ってはいなかったのだ。しかし何十年も建前上は前兆現象検知努力をしてきたことになっていたので、今さらそれをしていなかったとは言えず、「前兆検知には成功しなかった。

 それは極めて困難であり誰にもできないだろうから、当分は諦めよう」ということになったのである。しかし「地震予知を諦めよう」では、世間には通らない。そこで「今後の地震予知研究では、基礎研究にもっと力を注ぐべきだ」という組織防衛的着地点に落ち着いたのだ。
 
 しかし、これが「短期予知研究をすべてやめてしまえ」という恐るべき事態を正当化することになった。かくて基盤観測の名の下、「短期予知は当分しなくてもよいが、もっと予算(今や年間一〇〇億円のオーダー)がとれる体制」が確立した。新計画のタイトルは「地震予知のための」とあるのに地震予知はほとんど禁句となった。

 国民の安心・安全に深く関わるお国の基本方針にこのような重大な変化があったことを国民はほとんど知らない。
今でも国民は年間数百億円規模の予算と多数の人員を抱えて「日本は地震予知の研究を一生懸命やっている」と信じているにちがいない。まことに憂慮すべき事態である。

唯一、短期予知をめざす東海地震

 悲観論全盛の中で依然として短期予知を目指して気象庁が大規模観測(歪計が約五〇、伸縮計が約一〇、傾斜計が約五〇)を続けている唯一の地震が東海地震だ。
法律によって義務づけられているからだ。

 東海・東南海地域では一〇〇年から一五〇年の間隔で繰り返し大地震が起きているが、一九七六年に「これぞ次のM8クラスの地震」と石橋克彦神戸大教授(当時東京大学助手)が指摘したのである(図2参照。?つきの地震がそれにあたる)。
 
 政府は予想される大被害に対処するため、七八年「大規模地震対策特別措置法」を制定し、「短期直前予知を前提とした地震対策」をとることにした。気象庁は東海地域の大観測網により常時監視し、そのデータに基づく判定会(地震防災対策強化地域判定会)の進言を受けた内閣総理大臣から警戒宣言が公布されると、原則として鉄道・銀行・郵便・病院・学校などが停止することになっている。
 
 しかし、「予知」以来四〇年たっても東海地震は起きていないし、警戒宣言が出されたこともない。長・中期予知ははずれたが、短期予知の成否はまだ分からない。
これは一つの試金石だ。大津波をも起こす東海・東南海・南海地域での大地震は遅かれ早かれまず必ず起こるし、それらが連動して起こる可能性すら指摘されているのである。

 東海地震に関しては、地震発生の理論モデルから、前兆すべり(プレスリップ)がどう観測されるべきかなどというシナリオさえ語られている。
大地震の前にはゆっくりしたずれの動きがあるというのは震源モデルで確立されたとされているが、実は最近の大地震(阪神・淡路大地震、二〇〇三年の十勝沖地震〔M8・0〕など)では実測されたことはない。

 阪神・淡路大地震以後さらに大きな予算がついて、現在では日本中に二〇〇〇点もの地震観測点があって、世界中の地震学者がその恩恵に浴している。

 また、GPSステーションも一〇〇〇点以上つくられ、日本の地面の動きがリアルタイムでわかるようになった。さらに、大地震を起こす南海トラフ(海溝)で深い穴を掘って震源の実情を調べようと、世界一の掘削船「ちきゅう」が活動している。

 昨今これらの研究の主体となっている若い世代には、活気がみなぎっているのは確かである。
 このように地震の基礎研究は進歩を成就しつつあるが「短期予知」研究は依然としてほとんどサポートされていない。
 国策研究には独立行政法人などへは研究費一〇〇億円単位で出ているが、研究の主体たるべき大学関係の予知プログラムには総勢二〇〇人くらいに年間四億円程度であり、しかもそのうち、短期予知研究に向けられるのは一〇〇〇万円程度にすぎないのだ。

阪神・淡路大震災で短期予知は射程に入った

 何もなしの予知・予測は神がかりの占いの世界であって、科学的予知には何らかの前兆現象を捕まえなければならない。

 それには大地に蓄積する歪みの増大を監視するのが、まず正道だ。事実「東海地震は予知可能」とする唯一の根拠は一九四四年の東南海地震(M7・9)の直前に起きたとされる静岡県掛川の異常隆起だ。

 地下深くの歪変動を測定できる近代化されたボアホール計測などは東海地震以外にも役立つだろう。地震計だけを並べても見つかりそうもないとして前兆探りを諦めるのは早計かもしれない。要は前兆現象を徹底的に研究することだ。
 ところで前兆現象は必ずしも地震を起こす要因でなくてもよい。例えば、地電流異常が地震を起こすとは考えられない。前兆現象は次第に高まるストレスによって、地震前に発生するものであればよい。

「地震破壊核の形成」などと地震そのものの発生メカニズムが解明されなくとも、「短期予知」は可能だということだ。これは重要な視点だが、それにはそれで徹底的な基礎研究が必須なのである。では、どんな前兆現象があるだろうか?
 否定しがたい短期前兆はいくつかの宏観異常に加えて、ラドン、二酸化炭素などのガス放出、地下水位変動、電磁気変動など非力学的現象である。

 地震予知の主流派は「なるほどね」というだけで、さっぱり乗ってこなかったが、神戸薬科大学でのラドンの異常観測は顕著だった(図3)。
 
 阪神・淡路大震災は電磁気的前兆観測でも画期的成果を残した。地震関連の電磁気的現象の組織的な研究は、地震学者たちの間で地震予知悲観論が支配的だった八〇年代に、世界各地でほぼ同時期にはじまり、現在では「地震電磁気学」とよばれる新しい活発な研究分野となっている。

 モノが壊れるときに電気が起き、光も出ることはよく知られたことだが、壊れる直前にも似た現象が起きるということである。
写真・サハリン 物理学者 地震研究 ワーシン氏

 Ⅳに続く
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Ⅱ「どうする! 日本の地震予知」中央公論4月号 著者 上田誠也氏

2011-03-11 20:37:23 | ロシア・地震予知情報
地震予知をめぐる迷走の歴史

 地震直前の異常現象は古代ギリシャや日本書紀などの昔から言い伝えられてきた。観測装置によらないで人間が感知できるこれらの現象は、宏観異常というが、それは今日でも多く報告されている。

 すべてが有意とは思えないが、中には否定し難いものもある。それらを認めるか認めないか。地震予知の歴史とはこの二つの立場の相克史ともいえるのだ。
 日本では世界最初の地震学会が一八八〇年に創設された。
九一年には濃尾地震(M8・0)が起き、翌年には「震災予防調査会」が設立された。

 このあと関東地震をめぐる大森房吉(東京帝国大学地震学教授)と今村明恒(同助教授)の有名な「予知論争」が繰り広げられた。

 今村は一九〇五年に、今後五〇年間に関東に大地震が発生するおそれありと論文に書いたが、煽動的マスコミによって社会的不安がひろがった。上司だった大森は今村説を「世を惑わす浮説」として執拗に攻撃した。

 しかし、二三年、関東大地震が発生した日、大森はオーストラリアでの国際会議に出席中で、現地での地震計の揺れを見て愕然とし急遽帰国、今村に詫びた。
 予知派の勝利に見えたが、実は今村は少数派だった。
 関東大地震の後、「震災予防調査会」は廃止され、二五年、東京帝国大学地震研究所が設立された。これにあたっては、地震学の基礎的研究と災害軽減が特に重視された。
 
 地震予知研究の機運が高まったのは六二年ごろである。
坪井忠二、和達清夫、萩原尊礼など地震学の先達たちの主導で作られたいわゆるブループリントを基に、六五年に国家計画としての「地震予知研究計画」が予算化(初年度として、約二億一〇〇〇万円)されたのだ。それには六四年の新潟地震(M7・5)が後押しした。

 計画の内容は、有望そうな観測はなんでもやろうというものだった。測地、地震、活断層調査、地磁気・地電流観測などを画期的に増強しようというものだ。
 国立大学では微小地震、極微小地震観測網整備などに資金・人員が集中された。
 計画発足直後、六五年から六七年にかけての松代群発地震や六八年の十勝沖地震(M7・9)の大被害が積極論を鼓舞し、予知実用化への機運が盛り上がり、第二次計画からは「地震予知研究計画」の中の「研究」の二字が消え「地震予知計画」となった。

 当時の世界的な楽観論に乗り遅れるなという意気込みもあった。
しかし、ここに大きな落とし穴があったのだ。
 実用的な予知とは短期予知であり、それには短期的前兆現象を捉えねばならない。
 そのためには地震観測は不向きである。
 地震計では起きてしまった地震の情報しか得られないからだ。
地殻変動観測のみならず、地下水、ラドンなどのガス放出、地磁気・地電流の異常変化など非地震観測を行わなければならない。

 地震学者たちはこれを百も承知だったにもかかわらず、心機一転することができず、地震観測重視の既定路線を改めなかった。
 さあ実用化ということで、地震観測を一層増強せよとなる。
 短期予知には不向きだとは知りつつも、観測点はもっと増やしたいし、機器の進歩も止まることはないので新しいものを求める。
次々と地震は起こる。

 かくて多くの地震研究者たちは観測業務に追われ、本来の研究目的を見失っていった。私はこの状況を実際に目撃した。これでは成果は上がらない。
そこで以後の五ヵ年計画では、毎度必ずしも実質を伴わない進歩・発展があったと牽強附会的に謳わざるを得ないことになった。 

 一方海外では、種々の前兆現象に注目した旧ソ連の研究、中国での海城地震(一九七五、M7・4)の中期・短期予知の劇的成功、前兆現象を統一的に説明すると見えたアメリカでのショルツ(Scholz)理論の出現などで、七〇年代には短期地震予知成功近しとの楽観論が支配した。

 わが国での第二次、三次計画のころである。
しかし、それは長続きはしなかった。
中国では唐山地震(一九七六、M7・8)の短期予知に失敗し、死者二〇万人以上を出した。
 そもそも海城地震以外には予知に成功した地震は皆無だったのだ。

 その後、ショルツ理論も失墜し、アメリカなどでは七〇年代後期には悲観論が圧倒的に巻き返し、支配するようになってしまった。
 
 アメリカではカリフォルニアのサン・アンドレアスという大断層で地震が起きる。そこには観測が始まって以来、ほぼ二二年ごとにM6クラスの地震が起きてきた場所があり、地震学者たちはここに大観測網を敷いた。

 八五年にM6クラスの地震が五年以内に起こるという予報を出し、七年ほどたったころには、いよいよ七二時間以内にM6クラスが起こると予報を出した。しかし何も起きなかった。実際にはM6クラスの地震は一二年後の二〇〇四年に起こった。

 ほぼ二二年ごとに起きていたのだから、長期・中期・短期ともに予知は失敗だった。
 アメリカとは対照的にロシアをはじめ旧ソ連邦諸国、中国、ギリシャ、イタリア、フランス、メキシコ、トルコ、インドなどでは一般的悲観論にもかかわらず、現在も短期予知のための研究が進められてきている。

予知をしない「予知計画」

 本題に戻る。
 いったいなぜわが国の国家規模の地震予知計画が「地震予知については研究もしない」という驚くべき計画となってしまったのか?
 
 結論を急ごう。わが国の地震予知計画は終始、短期予知には不向きな地震観測一辺倒だったため、一九九五年の阪神・淡路大震災も予知できなかった。

 高まる批判に対して、各種のレベルで予知計画の見直しが行われた。
従来の指導層ではない次世代研究者たちを主体とする見直しも初めて行われた。
 そして熱心な討論の末「前兆現象の探索よりは、地震現象の全過程の基礎研究に重点を移す」とする結論に到達したのである。楽観論から悲観論、あるいは積極論から消極論への典型的回帰現象だ。
 
 その結果として短期予知は当分先延ばしとする「地震予知のための新たな観測研究計画」と題する新計画が一九九九年度より発足、現在はその第三次計画の実施中である。「地震予知は誰にもできないのだから、その研究もしない」ということだ。
         Ⅲに続く
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Ⅰ 「どうする日本の地震予知」 著者 上田誠也氏 中央公論4月号

2011-03-11 20:37:00 | ロシア・地震予知情報
 本日も午後に東北地方を中心に大きな地震・大津波が発生しました。
これによる被害は、死者・行方不明者も大勢に達しています。
何故、地震予知が出来なかったのか、何故現在までその対策を講じてこなかったのか?
近代的な学術と人材が揃っている我国が・・・コレハ人災とも思えます。

 「どうする日本の地震予知」
 これだけ毎年・毎月全国で発生している地震被害。
数年前に気象庁へ出向いて「地震予知に関しての」見解を尋ねに伺いました。
対応した総務課長は、 「地震は、毎日・毎日 全国で発生している。いちいち発生を予知できる訳が無い」と地震予知に関しての前向きな研究・開発等に関しての見解を聞き出せなかった。

 この時点で、我々日本人は地震大国の上で生活していて地震予知を行政・研究機関が、全く関知していない状況に不幸な国民であると考えた。
そこで、今回 上田誠也氏の地震予知に関しての見解に関しての文献を紹介しましょう。 中央公論 4月号 

 どうする! 日本の地震予知

上田誠也=日本学士院会員・東京大学名誉教授
~「中央公論」2011年4月号掲載

 読者諸氏は、日本では当然のことながら地震予知のための研究が行われている、と思っておられるであろう。しかし、実はそうではないのである。地震予知が重要課題であることは多言を要しまい。ひとたび大地震に見舞われれば、多大の損害が生じ多くの人命が失われる。構造物やインフラの耐震強化と地震予知は、地震災害軽減の二本柱だ。
 わが国では前者はかなり進歩しているが、それでも大地震の被害はしばしば甚大であり、一日でも、あるいは一時間前にでも予知されていたら、多くの人命は救われるであろう。だからこそ、どんなレベルでの世論調査でも地震予知は最緊急課題とされるのである。
 ところが、世界最高の地震観測網を誇るわが国では、地震の予知には一度も成功したことがない。いや、予知を行ったことすらない。しかも、一方で国家的規模での地震予知計画が数十年にわたって行われてきたのである。このことはまともな予知研究が行われてこなかったことを意味する。
 これはどうしたことなのか? どこに問題があるのか? そして、それを解決してゆくにはどうすればいいか?それが本稿のテーマである。
 私事にわたるが、筆者は東大地震研究所にほぼ三〇年勤務したが、もっぱら地震予知とは直接関わりのないプレートテクトニクスなどの研究をしていた。しかし、定年間近になってある偶然から地震予知はせねばならぬと思うに至った。したがって国家規模の地震予知研究計画などにおいて指導的立場にあったことはない。以下に述べることは少数意見だが、おそらく誤ってはいないだろう。途中しばしば、話が脱線するがご寛容ねがいたい。

本命は短期予知

 地震は大地の振動だが、それは地下の岩盤の破壊に伴って発生した振動─地震波─だ。破壊といっても、それは岩盤の弱線、すなわち断層が岩盤に加わる力によって急激にずれることだ。阪神・淡路大震災(公式名、兵庫県南部地震)のときの、淡路島の野島断層のずれは一ないし二メートルだった。岩盤にかかる力とは、年速何センチというゆっくりした運動をするプレート間の押し合いやずれによって生ずるストレスだというのが、プレートテクトニクス理論の主張だ。
 二十世紀後半に地球科学に革命をもたらしたプレートテクトニクスは、地球の表層部一〇〇キロメートル前後の厚さの層が一〇個あまりのプレートに分かれていて、それらが相互に運動をしていることを明らかにした。世界の地震は主にプレートとプレートとの境界部で発生している。日本には太平洋プレートやフィリピン海プレートが押し寄せてきて、日本列島を押しながらその下に潜り込んでいるので、世界の地震の約一〇%が起こっている(図1)。
 このように見ると、大雑把ながら、地震が起きるからくりの説明がつくが、事象の意味やからくりを理解しても予知ができないということは、株式相場にも人の生死についても当てはまる一般的事実だ。地震予知は問題にする時間スケールの長さによって、長期(一〇年以上)、中期(数年)、短期(一年以下)と大別される。長期や中期予知は過去例に基づく確率予測で、今後X年間にA地域にマグニチュードMの地震が起きる確率は何%といった予報であり、都市計画とか、地震保険料の設定などにとっての意義はあろうが、あくまで確率であり、それ以上でも以下でもない。本稿ではもっぱら「短期予知」を問題とする。それこそが、市民の生死に直接関わる予知であり、科学的にも最高のチャレンジだからだ。
 最近では、「緊急地震速報」が話題になっている。しかし、長い警告時間がとれるような遠方の地震では大きな被害は起きないし、近くでの大地震では警告時間は限りなくゼロに近くなってしまう。大工場や精密機械の操業停止、新幹線や高速走行車の減速、外科手術中の応急処置などには役に立つ可能性はあるが、これは地震予知とはいえない。
 地震予知は、1「いつ」、2「どこで」、3「どの大きさ」の地震が起きるか、の三項目を有意な精度で明示しなければ意味がない。「そのうちに日本で大地震が起きるだろう」では話にならないし、三項目のうちどれか一つが欠けても同断。目的や社会状況によって有意な精度には相当の幅があろうが、現在の先端的予知技術では、1は数日以内、2は半径一〇〇キロメートル以内、3はマグニチュード1以内の精度は達成しうるだろう。
 ここで地震の大きさ、震度とマグニチュードについて一言説明したい。震度とは特定の場所での揺れの強さであり、マグニチュード(M)とは地震のエネルギー規模である。電灯の下でのある場所での明るさ(ルクス)と電球そのもののワット数との関係と同様だ。
 ちなみにMの小さい地震のほうが数は圧倒的に多いが、放出エネルギーは圧倒的に少数の大地震が担っている。Mが一つ大きい地震の頻度は約一〇分の一だが、エネルギーの方は約三〇倍だからだ。一つのM7地震のエネルギーは、一〇〇〇個のM5地震のエネルギーに匹敵するのだ。
 さて前記の地震予知三項目のうち、もっとも難しいのは1「いつ」である。しかも、それが地震予知の本命なのだ。2や3については、地震観測やプレートテクトニクス的理解からほぼ予想することができるが、「いつ」を短期予知するには過去例は役に立たない。前兆現象を検知せねばならないのだ。

 続く

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ピーターラビット 日本に渡航して40年間 

2011-03-11 10:40:05 | 芸術
 おとぎ話の「ピーターラビット」の絵本が、日本で発行されて今年で40年になるとの事です。

 日本でも、たくさんの絵本があります。


 しかし、両国の童話に共通する話題を無視するわけにはいきません。
「ピーターラビット」の著作権は、すでに無ですが、権益を優先する会社組織も存在しています。

 今年は、ウサギ年ともあり特別に話題として取り上げました。

 サハリンマン
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