1 アルミサッシか木製建具か
建具は最近ではアルミサッシが全盛だ。
木製建具は、枠が反ったりあばれたりして開け閉めが重たくなり、
すき間ができて冷たい風が入り込んだり
黒ずんで汚くなったりと、今では古い家でも見かけなくなった。
木製建具に比べて、アルミサッシは気密性も高く、
単価も安く施工性も楽でスピーディーだ。
しかし、家具作りを目指す木工屋としては、
木製建具を作らないわけにはいかない。
水廻りの風呂場だけはアルミサッシを使うことにして、
その他はすべて木製建具を作ることにした。
戸の形式は、スペースの有効利用から、
許す限り、開き戸ではなく引戸にした。
外壁や床張りが済んだので、
今回は入口を除く外回りの建具を先に作ることにした。
設計は夜にした。昼間は、戸外で肉体労働に慣れてしまったためか、
明るい時に机の前に座って、図面を描くことに気が引けた。
外回りは、ガラス引戸とした。
引戸は、鴨居と敷居に容易にはめることができて、
はめればガタつきなくはずれずにスムーズに動かねばならない。
そのためには、寸法が非常に微妙で、かなりの精度が必要だ。
また、材が細いため、強度を必要とする部分の組手が難しくなってくる。
小さい引戸や軽い障子等には、戸車がついてないものだが、
開け閉めをスムーズにするためにすべての引戸に戸車をつけることにした。
錠は、いろいろ調べたが、昔ながらのねじ締り錠が良いようだ。
というより、
木製建具の錠と言えば、ねじ締り錠ぐらいしかなく、これが最上なのだろう。
高さは90㎝以上の戸は、重くなるのでステンレスレールを取り付けて、
戸車もステンレス製とした。
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南側窓はめ込み完成 2007年3月
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東側妻窓はめ込み完成 2007年3月
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真ちゅう製ねじ締り錠 北側窓 押え縁は黒で玄冬
2 引戸の加工
a:木取り
建具材と言えば、反りや狂いのない無節の柾目や糸柾を使う。
国産の針葉樹で揃えようとすれば、とても高価なものになる。
今回使用する材木は、ヒノキの1等材。
節はあるし、柾目の部分は少ない。
ぜいたくな木取りをしていては、使える部分がなくなってしまう。
いくらかの反りは覚悟して、一枚一枚考えながら、木取っていく。
目の通った柾目がでてきたら、長尺の縦框へ利用するようにする。
背の低い戸なら反りは少ないので、板目材も使うが、
背の高い戸は、反りが大きくて、
戸が開かなくなることもあるので、目の通ったものを使う。
柾目の面を見付け(見え掛かり側)に持ってくれば、
左右の反りは横框で止められる。
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木取り 30㎜厚のヒノキ板
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ルーターでの溝彫り
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ノミの溝さらえ
b:取手
取手は最初から縦框への切り欠きを考えていた。
機械彫りをした穴へプラスティックや金物でできた取手材をはめ込むのが
近頃の方法のようだが、
切り欠く方が、触感がいい。
ただ切り欠きの方法が分からなかった。
丸ノコ盤、溝切りカンナ、ルーター、角ノミ等の機械を考えていたが、
どれもうまくいきそうにないので、手加工で試してみた。
畦引きノコとノミでやってみたら、案ずるより産むが易し。
とてもうまくいった。
時間もかからない。
機械よりも手作業が早くて、キレイに仕上ることもある。
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組立て中 取手の切り欠きが見えている
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東側腰高窓の取っ手の切り欠き 押え縁は、緑で青春
c:2枚枘の威力
縦框と横框は枘組とするのだが、
一枚枘でするのか2枚枘とするのか大いに迷った。
建具は材の幅が狭いため、
堅固な組み方として2枚枘とするのが本来の方法だが、
建具の枘や枘穴作り専用の工具なしでは、とてもうまく作る自信がない。
そこで、強度が少し落ちるものの、
慣れた一枚枘でスピーディにつくることにして、
1組を試作。まあまあの出来で、心配した一枚枘の組み手強度は充分だった。
しかし、2枚枘に未練があった。
やはり一度は挑戦しておきたかった。
2組目は、2枚枘で作ることに。
枘穴は小型角ノミ盤で少しずつ開ければ、時間はかかるがなんとかなる。
枘の方は、丸ノコ盤に手製のフェンスを立てて、
微調整を繰り返しながら作ってみた。
それなりのものは出来たが、
果たして2つの枘穴に2枚枘がうまく入ってくれるのか。
おそるおそる仮組みをしてみる。
この時の緊張感がたまらない。
少し堅めだが、ピッタリと入った。
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1枚枘に比べて、断然しっかりと組めている。
手間はかかるが、慎重に丁寧に作ればうまく作れることが分かったので、
3枚目以降はすべて2枚枘で作ることにした。
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カンナの仕上げ削り 2枚枘が見えている
d:仕上カンナでツルツル
建具も塗料を塗らないので、材の表面仕上げを手ガンナですることにした。
ヒノキ材は、仕上げカンナをかけるととてもいいツヤが出る。
今持っているカンナ盤ではここまでは無理だ。
久々のカンナ削りなので、カンナをチェックすると、刃が不合格。
丸刃を直し、裏押しをする。裏刃も耳を直して砥ぎ直す。
台の方は、OK。カンナはいつでも取り扱いが難しい。
カンナが思うように扱えたら、木工屋も一人前だろう。
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カンナの仕上げ削り
e:組み立て
木組み方法は、縦框と横框を枘組してクランプで締めつけるだけなので、
わずかだがどうしても直角に狂いが出る。
本来なら建具組立て用の大きな直角決めの出来る締め具があるだろう。
この狂いは、建具を敷鴨居に収めた時に柱とのすき間として現れる。
柱そのものも完全に垂直には立っていないので、
大きい時には7~8㎜ものすき間ができることもある。
小さなすき間ならば、縦框をカンナで削る。
大きなすき間は、戸車の片一方の高さを少しだけ低くする。
こうして微調整を加えた戸も、框材が乾燥してくれば、
またすき間ができてくる。
1年程経ってから最後の調整をすれば、もうほぼ安定している。
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組立て
f:押え縁に色を付ける
ガラスを取り付けるには、いくつかの方法があるようだが、
素人向きでありながら、しっかりと固定できるのが
押え縁を木ネジで止める方法だ。
近所の元船乗りのAさんが、この戸を見て、
「この押え縁の戸は、船のガラス戸と同じで、この方法だと、水が入らないのだ」
と誉めてくれた。
ただ、ネジ止めの押え縁は、
他の方法に比べて押え縁が目立ってあまりスッキリとはしないのが、欠点だ。
そこで思い付いた。
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どうせ目立つなら、色を付けて、もっと目立たせてアクセントにすれば良い。
また、色は方角ごとに変えればおもしろい。
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東は、青と春、南は朱と夏、西は白と秋、北は玄(黒)と冬。
青春、朱夏、白秋、玄冬は馴染みのある言葉。
そこで、東側の引戸の押え縁は、緑(青)色に、
南側は、赤(朱)色に、西側は白に、北側は黒に。
出来上がった引戸は、押え縁に色が着くと、とても豪華で引き締まって見える。
自分でも、惚れ惚れする出来だ。
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だが、木製建具を自作したことに感心する人はあっても、
この押え縁に気付いてくれる人は、まだ誰も居ない。
主は、「東は青春、南は朱夏、、、」と、
得意気に説明したくてウズウズしているのだが。
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押え縁の胡粉塗料を溶いている
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押え縁の塗装乾燥中 食物性油脂塗料
g:ガラスは薄い方が良い?
ガラスはインターネットで購入することにした。
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種類もあり、指定した寸法に切ってもらえるし、値段も手頃だった。
トイレと洗面所は型板ガラスにして、その他は透明ガラスにした。
厚みは強度を考えて、5㎜とした。
3㎜と値段はそれ程違わないので、より丈夫な5㎜だと判断した。
送られてきた5㎜ガラスは、ずっしりと重く、とても丈夫そうで、
割れ易いガラスという印象はなかった。
実際、厚みが5㎜あれば、
普通の透明ガラスでも、陳列棚ぐらいにも使える程丈夫らしい。
しかし、ガラスをはめ込んだ引戸は、とても重かった。
計算すると15㎏ほどはある。
これを持ち運んで、敷鴨居に収めるには、相当の力がいる。
しっかり腰を据えて持たないと、倒れてしまう。
一旦レールに収まると、重厚にスムーズに戸車が回ってくれるのだが、
調整のために何度も出し入れをすると、重さが こたえる。
必要な強度を考えれば、3㎜厚のガラスでも良かったのかどうか?
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ガラスのはめ込み 押え縁ネジ止め
h:完全なる戸
30枚程の外廻りの大小のガラス引戸をはめ込むと、ずい分と家らしくなった。
これで、やっと風雨や埃からしっかりとガードできる。
が、
1か月程掛って作り、ようやくはめ終わった木製建具を見ての
妻からの感想は、相変わらず手厳しい。
「この戸で、大丈夫やろかねぇ~?」
ガク然とする夫ではあるが、
アルミサッシを見慣れた妻の目には、
木製建具は、いくばくかの不安を与えるようだ。
「木製建具って、反ったり、汚れたりするよね。
やっぱり、アルミサッシがいいよね」
虫やすき間風の入らない完全なる戸を求める妻には
不完全な木製戸は、やはり不満が残るようだ。
この外廻りの建具は、1年半経った今でも、大きな狂いは生じていない。
居間の東窓の引戸の1枚だけが、反って動きにくくなったので、
カンナで削ったら、 スムーズに動くようになった。
木製戸というのは使っていく中で、色々ちょっとした不具合が生じるが、
その対処方法さえわかってくれば、そんなに毛嫌いするほどの物でも
ないのだが。。。
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妻窓のはめ込み
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夫が、外回りのガラス戸などの建具を、総て木で作ると言い出した時、
「ひぃゃあ~! そんなんしてたら、何時まで経っても家はできひん」
と、何とか、木製建具案を阻止しようと努力した。
築50年近い古家の縁側にはまっている木製ガラス戸は、
テレビのCM撮影現場に使用の申し出があった程
珍しく、古くても、とても趣のあるものであるが、
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撮影中
現実には、すき間だらけで、
冬は、寒風が吹きぬけて、カーテンがはためき
夏は、カニ、フナムシ、ムカデなど出入り自由
強風が吹くと、ぎぃーぎぃーと、
不気味な音を立てて不安このうえなかった。
特に、台風時には、高波や強風が当る、海辺の我家である。
なんとしても、家を守ってくれる、ガラス戸はサッシにして欲しかった。
アルミサッシは、
気密性など機能性も優れていて、工期も早く、その上安価である。
しかし、夫は、
さっさと、手際よく、次々とガラス戸を作り始めていた。
気密性は、アルミサッシよりも劣るが、
家本体に比べれば、建具などお手のもの、すぐ出来るし、
手間賃がない分、材料費だけなら、安い
と言うのである。
確かに、お抱え大工の夫は、
製作途中にも関わらず、3㎜から5㎜厚へのガラス変更にも対応し、
押え縁にも、色を付けて、お洒落にデザインし、
妻に、夢と期待を与えてくれた。
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「北欧の輸入住宅のような、豪華なガラス戸になるかもしれない
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今、「一人で建てる木組みの家」に、転居して1か月。
ムカデは3匹来訪したが、カニ、フナムシは、現れていない。
蟻1匹通さない防犯体制は、不可能なようで、
アリ、羽虫の類は、多く出没するが、
夫が、コマメに、戸枠などをカンナ掛けしたり、手直していて、
防虫対策は、かなり良さそうである。
台風と冬の寒風から、どれ位守ってくれるかは、これからである。
それにしても
近くのホームセンターで購入した真ちゅうの、ねじ締り錠は、
「なんか ちゃっちぃーの」
クルクル回しての開け閉めが、昭和時代初期である。
北欧の輸入住宅の窓には、程遠い。
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南側窓 ねじ締り錠を締めた所 押え縁は赤で朱夏
せっかくの木製建具なんだから、錠も
お洒落なデザインの、“洋風アンティーク風”にしてほしかったなぁ~。
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「一人で建てる木組みの家」の 家作りの様子の これまでは、こちらをごらんください。