ないない島通信

「ポケットに愛と映画を!」改め。

ジェニーの記憶

2019-10-24 13:49:54 | 映画

 

前回「ベロニカとの記憶」について書き、記憶って何だろうと思っていたら、

「ジェニーの記憶」(ジェニファー・フォックス監督 2018年)

という映画を見つけました。

これ、秀逸な問題作ですが、日本では未公開。今、amazonプライムでフリーで見られるので今のうちにぜひ。これも実話を基にした映画です。

(以下ネタバレ)
ジェニー(ローラ・ダーン)はドキュメンタリーの映像作家ですが、ある日、母親から電話があり、ジェニーが中学生の時に書いた作文を見つけたといいます。その作文がとんでもないもので、母は「これは実際にあったことなの?」とジェニーを問い詰めます。

ジェニーはその部分の記憶が曖昧です。
作文を書いた記憶はあるけど、どんな作文だったか憶えていないのですね。

作文は「まずはこの美しい出来事から物語を始めよう」と始まり、
「私は特別な人に出会い、愛するようになった。この二人と愛を共有した。なんと素敵なことか・・」と続きます。
これは実際にあったことなのか、と先生に聞かれ、彼女はフィクションだと答えます。

ジェニーは自分の記憶をたぐりよせていきます。少しずつ、行きつ戻りつしながら。

あの時私は13歳だったけど、普通の13歳よりは大人びていたわ、とジェニーは母に言うのですが、実家にあった写真のジェニーはまぎれもなく13歳の幼い少女でした。

13歳の夏、ジェニーは友人たちと乗馬の訓練を受けます。
乗馬の先生ミセスGが素敵な人で、ジェニーは憧れます。ミセスGは夫と子どもがいながら、ランニングの指導をしているビルという男と不倫関係にあります。ミセスGはジェニーに秘かにそれをうちあけます。

そこから奇妙な連帯感が生まれます。ジェニーは大人の秘密を共有しており、特別扱いされていると感じます。

夏休みが終わっても、ジェニーは乗馬教室に通い続けます。
ある日、ジェニーは宿舎にビルと二人だけで泊まることになり、ビルは優しくジェニーに接します。

ジェニーはビルを信頼しており、ビルに言われるがまま。ビルはジェニーを言葉巧みに誘導します。

「これは愛だよ」「君は特別な子だ、だから愛するんだ」

つまり、13歳の少女をレイプするわけ。でも、ジェニーにその自覚はない。自分はビルに愛されていると思いこみ、これは自らが選んだ恋愛だと自分に言い聞かせます。

ビルとミセスGは奇妙な価値観をジェニーに植え付けます。結婚というのはバカげたシステムで、僕らは新しい家族の形をつくるんだ、ぼくとミセスGとジェニーとで・・

ジェニーには何が正しいのか判断できない。まだ13歳の幼い少女なのですから。そして、ジェニーは記憶を封印します。

それから35年の時間が過ぎ、母親からの電話を受けて、最初は拒否していたジェニーもようやく自分の記憶を掘り起こす作業にとりかかります。乗馬クラブで一緒だった友人たちを訪ね、ミセスGを訪ね、何があったのか、事実の解明に乗り出すのです。

子どもは時に、煩わしい両親や兄弟たちから逃れたくて現実逃避を試みますが、運悪くそこに悪い大人がいたら、ジェニーのように利用されかねない。

ミセスGまでもがその罪に加担していたのだから、救いようがない。
ミセスGはビルに少女たちを提供することで、ビルを惹き付けておこうとした。なぜなら彼女もまた同じ経験をしていたから・・
(誰が私を救ってくれた? とミセスGは言います)
これはまさにカルトが信者を集める手法です。

非常に恐ろしい話ですが、それをこの映画は淡々と時にユーモラスに語っていきます。

昔の友人たちを訪ね、事実を探っていくうちに見えてきた事実は、ジェニーの想像を超えたものでした。なんとジェニーだけではなく多くの少女たちがビルによってレイプされていたのでした。

最後に、社会的に成功したビルの祝賀パーティに乗り込んで、ジェニーはビルに真実を突き付ける、というところで終わります。

でも、ジェニーのトラウマはそう簡単には消えない。どれほど大きなトラウマを少女たちに与えたことか、それでも知らぬふりをして成功者になったビルを決して許してはいけないと思います。

ジェニファー・フォックス監督が自らの体験を基に作った映画で、映画としても見応えがあり秀逸です。
全体にゆったとした調子で進むので深刻さはあまり感じられないものの(特に作文の部分はおとぎ話風)、見終えた後に事態の深刻さがじわじわと迫ってきます。

すべての女性、特に若い女性に見てほしい映画です。
よくぞ作ってくれた、と思います。

 

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