前回の「桜色の風が咲く」に続いて、いずみホールの5月の映画会は、
「土を喰らう十二カ月」(中江裕司が監督・脚本 沢田研二、松たか子主演 2022年)
でした。とてもいい映画です。
これ、水上勉のエッセイを基にオリジナルストーリーで映画化したもの、だそうですが、
以前ここにも書いた土井善晴氏の料理がたくさん登場します。
(「一汁一菜でよいという提案」土井善晴著 2022年10月29日の記事参照)
この料理がどれも美味しそうなのですよ!!
日本人は古来、自然のものを手間暇かけて調理して、自給自足の生活をしてきたんだなあとよくわかります。
何しろ、畑から採ってきて、丁寧に泥を洗い流し、灰汁を取り、かなりの時間をかけて調理をするのですから。
その一部始終、あるいは断片を丁寧に描いています。
たとえば春先のタケノコ。
山でタケノコを採取するところから始まります。先っぽが土から出ているものは成長しすぎているのでダメ。土が割れているところを探して掘ってみよ、と師匠にいわれ、9歳のツトムさんは大きな鍬でタケノコを掘り出していきます。しかも、皮は肥料になるのですぐに剝いてその場に置いていく。
ゆがいて灰汁を取り、更にゆでて、木の芽と共にいただく。
本当に美味しそうです。
映画の中では、主人公のツトムさん(沢田研二)は9歳で禅寺に預けられ修行していたけれど、途中で逃げ出したのでお坊さんにはならずに、作家になったという設定。
これ、水上勉の実生活なんじゃないかと思いました。
出てくる料理がどれも素朴で土の匂いがして、とにかく美味しそう。
都会では絶対味わえない豊かさがありますが、
でも、こんな風に田舎のかやぶき屋根の下で暮らしたいとは私は全く思いません。子どもの頃田舎で育ったので、田舎はあまり好きじゃないし。
「生きることは動くこと」
とツトムさんがいう台詞があり、彼は本当によく動きます。
よく働き、よく食べ、そして執筆活動をするという、晴耕雨読の生活をしている作家です。
それにしても、なんで若くて美人の女性編集者(松たか子)が恋人なんだ? 歳の差たるや30歳くらいか⁇
しかも、先立たれた妻の写真と遺骨が飾られている家の中で。
妻の弟夫婦と母親の関係もぎくしゃくしてるみたいだし。
つまり、自然は豊かでふんだんに美味しいものを提供してくれるけれど、
人間界は平穏無事というわけでもない、
そんな対比も描かれていました。
そして、やっぱり男目線だよね、という感じもあった。
また、ツトムさんが死に瀕したとき、救急車の中で「死にたくない」と何度も言っていたというシーンもあり、死生観も描かれています。
先日、私はこのブログに、
「最期を迎えるとき、自分が何者でこれからどこにいくのかをはっきり自覚していたい。そして、できれば、なぜ私はこの地球に生まれてきたのか、世界はどうなっているのかを理解してから行きたい」
などと生意気なことを書いたのですが、いざその時が来たら必死で「死にたくない、まだ死にたくない!」と叫ぶのかもしれません。
その時にならないとわからない。
まあ、それはともかく、自然が豊かで美しく、見ているだけで清澄な空気をこの胸いっぱい吸い込んでいるような気がしてくる映画です。
機会があれば観てみてください。
帰りがけに会場の隅で「ジュリーもずいぶん変わったわねえ。声は昔のままだけど」という声が聞かれました。
昔、ザ・タイガースに夢中になった少女たちで会場はほぼ満席でした。
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます