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旦敬介『ライティング・マシーン──ウィリアム・S・バロウズ』(インスクリプト)

2011年04月20日 | 小説
旦敬介『ライティング・マシーン──ウィリアム・S・バロウズ』
 
 これはただの作家論ではない。

 小説のように簡潔で読みやすい文体、奇人の評伝のようにぶっ飛んだエピソードの数々、文学研究としての精緻な分析が相まって、酒で言えば超レアな吟醸酒の味わいと言えばいいのだろうか。

 一見淡々と語られているようだが、実は完成までに十年以上の時を要したという熟成された文章は、僕の知的好奇心をくすぐらずにはおかなかった。

 バロウズの「逃亡」の旅(ニューヨーク、米南部、メキシコ、ペルー、タンジール、コペンハーゲンなど)が「ジャンキー」で「クィア」な異形の「作家」を誕生させる。

 その誕生のプロセスを丹念にたどりながら、旦敬介自身の個人的な世界放浪が差し挟まれる「一種同時進行的な私小説」(「あとがき」より)である。

 面白くないはずがない。
 
 とりわけ、同じようにドラッグと旅を肯定したケルアックとバロウズの創作観の違いに対する鮮やかな分析が光る。
 
 なぜ僕がバロウズに比べて、ケルアックにあまり魅力を感じないのかが分かった。

 後期バロウズに関する執筆が予告されている。

 楽しみだ。

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