「月の王」との邂逅 中村文則『王国』(河出書房新社)
越川芳明
澁澤龍彦がいみじくも「奇抜な短篇」と呼んだ、アポリネールによる「月の王」という作品がある。
アポリネールらしき人物がドイツの山岳地帯を放浪し、樅の森をさまよい、
ある洞窟の中につくられた地下宮殿で、ルートヴィヒ二世と邂逅する、
不思議な一夜の出来事が語られている。
澁澤はエッセイの中で、
アポリネールがバイエルンの狂王ルートヴィヒ二世を「月の王」と呼んだのはルイ太陽王を意識したからにちがいない、と述べる。
そして、「一方が現世の絶対権力者、他方が夢の世界、夜の世界に生きる王であることは、わざわざ説明するまでもないだろう」と付け加える。
(つづく)
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