「また椅子」
夢の中でさえそう思っていた
無数の椅子がこちらに向いて
びっしりと並んでいる光景。
確かタイ滞在中の夢で最初の
光景を見た気がします。スト
ーリーは何ひとつ思い出せま
せんが、黒光りした重厚なチ
ーク材の硬そうな椅子がこち
らに向かって並んでいます。
暑い南国にありがちなまった
くクッションのない椅子。汗
ばむ場所には適していますが
如何せん硬くて座りにくい💦
2回目か3回目は、素朴な木製
の椅子が教室のような部屋の
真ん中に寄せ集められ、これ
もまた無造作に、こちらに向
いてぎっしり並んでいます。
「私」は夢の中でさえ
「クライストチャーチみたい」
と思っていました。
白く塗られた185脚の椅子
それはクライストチャーチ地
震の犠牲者1人1人に捧げられ
たメモリアルアートでした。
(※現在展示は終了しました)
しかし、夢の中の椅子は死者
を連想させるものではなく、
ただただこちらに向かって無
言で並んでいるばかりです。
=============
同じような光景を確か3回見
ました。どれも夢の内容は思
い出せません。ただ視界いっ
ぱいの椅子、座ることを迫っ
てくるような圧迫感、そして
どれにも座らなかった「私」
という点が共通しています。
何回も見て思うに「あの椅子
はタイの残像だった」という
こと。活気あふれるバンコク
はどこも人、クルマ、バイク
に広告、看板、さらにそれら
を取り巻いている高層ビル群
で視界が覆われていました。
思考を許さず、とっさの判断
が無限に求められる光景が無
数の椅子として登場し「私」
は座る場所が見つけられず、
居場所がなかったようです。
そこには焦燥感や疎外感とい
った感情は一切なく、夢の基
本形である傍観者として、眺
めて、消え去るだけでした。
旅行者もまた同様でしょう。
かつてはこよなく愛したタイ
でも今の私に居場所はなく、
「タイは若いうちに行け」
というタイ航空のコピーは格
言だった、と気づきました。