The Game is Afoot

ミステリ関連を中心に 海外ドラマ、映画、小説等々思いつくまま書いています。

『ロウソクのために一シリングを』ジョセフィン・テイ著

2022-01-09 | ブックレヴュー&情報
『ロウソクのために一シリングを』ハヤカワ・ポケット・ミステリー2001/7/10

ジョセフィン・テイ(著)、佐良和美(翻訳)
”A Shilling for Candles”

1936年に発表されたジョセフィン・テイによる、ロンドン警視庁の警部アラン・グラントを主人公と
した長編推理小説。

テイの作品では、第5作目の『時の娘』が歴史ミステリ、ベッド・ディテクティブの分野における嚆矢
的存在として著者の代表作となっており、英米だけでなく、日本のミステリー作家にも影響を与えて
いると言われています。

しかし、『時の娘』を発表した翌年55歳の若さで亡くなり、惜しまれています。

『時の娘』は大好きな作品で、かなり昔に読んで以来、何度か読み直しをしていますが、大雑把では
ありますが概略はコチラをご参照下さい。

今作は少々古い作品ですが、偶然見つけたので飛びつきました。

内容(「BOOK」データベースより)
英国南部の海岸に、女の溺死体が打ち上げられた。すぐに身元は映画女優のクリスティーン・クレイ
と判明。現場の状況から事故死とも考えられたが、ロンドン警視庁のグラント警部は背後に殺人の臭
いを嗅ぎとった。容疑者としてクリスティーンの別荘に滞在していた青年ティズダルが浮上するが、
警察の動きを察知して行方をくらましてしまった。そんな折り、クリスティーンの遺言が開示され兄
ハーバートへの奇妙な遺言が明らかになった!名作『時の娘』のグラント警部初登場。ヒッチコックの
「第3逃亡者」の原作としても知られる黄金期の傑作。

ヒッチコックの作品は古い作品を含め随分多く観たつもりでしたが、『第3逃亡者』は観た事があり
ません。
原作とは大分異なる描き方をされている様ですが、観る機会があれば・・・と感じます。

『時の娘』では、ベッド・ディテクティブとしてリチャード3世の真実を追及したグラント警部ですが、
この作品はそれより前の出来事です。
グラント警部、愛すべき部下のウィリアムズ、又女優のマータはこの作品がデビューとなるのです。

冒頭で 浜辺で死亡しているハリウッドの映画女優のクリスティーン・クレイが見つかり、当初事故
かと思われたものの、溺死体に残されていたコートのボタンから殺人事件ではないかと捜査が始まり
ます。
財産を食いつぶし 放蕩の果てに一文無しとなり、クリスティーンに拾われ いそうろうとして別荘
に滞在していたティズダル青年が容疑者とみなされ、警察が動き出し、ロンドン警視庁からグラント
警部も捜査に係わる様になる。

明かにティズダルが不利であるが、他にも容疑者として映画関係者、女優仲間、占い師、夫であるエ
ドワード卿など曰くありげな人物が登場します。

そんな折、クリスティーンの遺言書が発表され、その最後に実の兄あてには”ロウソクのために一シリ
ングを”
と書かれており、誰にも知られていなかった実兄の存在と、その意味不明とも言える奇妙な
遺言に含まれた兄との確執、特別な関係を感じさせられた警察は兄の行方も追い始めます。

そして、遺言書の最後に追加された条項には、ティズダルの為にカリフォルニアに所有する牧場と
現金が贈与されていた為、ますますティズダルの容疑は深まり、逮捕もやむ無しとなったものの、
それでもどうしてもティズダルを犯人と思えないグラントは葛藤します。
しかし、ティズダルを訪ねたグラント達は目の前で彼に逃げられるという失態を犯してしまいます。
思い悩み夜も眠れなくなるグラントは、弱さも見せる人間味を感じさせられます。

ティズダルの無実の証明となるコートを探す捜査が続くなか、地元の警察署長の娘であるエリカは
1人無断でティズダルの行方を探す為奔走します。

犯人捜しのミステリではありますが、次第に明かにされるクリスティーンの生い立ちが彼女の実像を
鮮やかに描き出し、又、周囲の人物達の人物描写も丁寧で鮮やかで、人間ドラマとしての魅力が大き
いと感じさせられます。
グラントの部下であるウィリアムズ巡査部長の敬愛するグラントに対する思いやり等ほのぼのさせ
られます。

中でも、はねっかえりで行動力のあるエリカが非常に魅力的に描かれています。
ハンサムなティズダルの為に奔走しているのかと思ったら、実はグラントがお目当てだった?

殺人事件の捜査ではありますが、殺伐間感はなく、登場人物が生き生きとし、古き良きミステリを感
じさせられます。

巻末解説は宮部みゆきさんという贅沢さ。
曰く、
「上質なミステリ」「愛すべきキャラクター」
「展開は地味だけど、細部まで神経がいきわたっている」。
そして「上質なミステリはこうでなくちゃ!」

時にはこんなミステリも良いものです。




10 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
>Yam yamさん、 (Yam Yam)
2022-07-17 16:10:29
Luntaさん、こんにちは。
テイの作品感想読ませて頂きました。 以前他の作品を見つけて購入されたとの事は伺っていて、どんな
感想を持たれたのか聞かせて頂きたいと思っていました。 翻訳されていないのが残念です(何度も云い
ますが、最近原書を読むのがおっくうで・・・歳のせいです)
リンクしていた頂き、ご丁寧にお知らせ頂き有難うございます。嬉しいです。
最近無断でコピペ(ご丁寧にタイトルまでそのまま使用)でされていて驚く事もあり、以前はそんな事はな
かったのに・・・・と残念な思いをもっていましたので、今回は有難い思いで読ませて頂きました。
又お薦め作品が見つかったら教えて下さいね。
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Yam yamさん、 (Lunta)
2022-07-17 12:35:52
テイの全著作集の感想を書き、こちらの記事に勝手にリンクを貼らせていただきました。
ご迷惑でしたら削りますので、ご遠慮なくお申し付けください。
後申告ですみません。
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>Unknown (Yam Yam)
2022-01-26 14:35:54
Luntaさん、
そうなんですかぁ。 ジョセフィン・テイの翻訳出版は少ない様で残念なのですが、Kindleで全著作集が
あるなんて! しかもそのお値段とは、何と有難い事でしょうね。 ただ、私は古い人間なので、どうしても
紙媒体が好みでして Kindle試したことがないんです。
原語版となると・・・この頃原書を読むのが億劫になってきています。
お読みになったら感想聞かせて下さいな。
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Unknown (Lunta)
2022-01-26 09:06:30
こちらの記事から久しぶりに「時の娘」を再読しようとアマゾンを物色していて原語版のKindleですがジョセフィン・テイの全著作集と言うのを発見してしまいました。しかもたったの294円!
全著作と言っても12作しかないのですが、グラント警部を楽しもうと思います。
Kindle様様です。
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>Unknown (Yam Yam)
2022-01-09 19:01:42
Luntaさん、こんばんは。
以前「時の娘」について書いた時 Luntaさんからコメント頂き、この作品がお好きだとうかがった事を良く
覚えていますよ。なので、この作品も多分ご存知なのでは?と思っておりました。 
私も他作品は探した事も無かったので、今回偶然見つけて 今更ですが読みました。
私もリチャード3世については以前色々ににわか勉強をしましたので、「時の娘」の解釈はとても共感でき
ました。”リカーディアン”ではありませんが(笑)リチャード3世ご贔屓(?)ですし、今更ながら歴史の改ざ
んやシェイクスピア作品の影響の大きさを感じさせられましたね。
プランタジネット朝の歴史、面白そうですね。是非感想を教えて下さいマセ。
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>YamYamさんは (Yam Yam)
2022-01-09 18:51:29
Abiさん、
以前書きましたが、マーティン・ショウのダルグリッシュは全く記憶にないんですよ。
最近とみに記憶喪失なので自信がないのですが、多分観ていないと思います。
マーティン・ショウはジェントリーのイメージが強いし、ダルグリッシュのキャラクターから考えると今度の
カーヴェルさんの方が近いのではないかと思いますが、どうでしょうね。そう言えば、ジェントリーの最後は
胸が痛くなりました。モースの最後も悲しかったけど、ジェントリーの方が衝撃的だった(泣)←又話が脱線
しました。兎に角2月を楽しみに待ちましょう。
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Unknown (Lunta)
2022-01-09 17:57:40
「時の娘」、学生時代に読みましたがすごく面白かった!
悪者扱いされることの多いリチャード3世が実は悪くなかったって話でしたよね。
他にもこの作者の翻訳があるとは思ってもいませんでした。
ヒッチコックの「第三逃亡者」も学生時代に見たはずですが、残念ながら何も覚えていない。40年も経てば仕方ないでしょうかね。
今は1950年代にカナダで書かれたプランタジネット朝の歴史を読んでいるのですがこれがまた面白い。リチャード3世は最後の登場なので、どう書かれているか楽しみです。
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YamYamさんは (Abi)
2022-01-09 16:51:47
マーティン・ショウのダルグリッシュさんご覧になってなかったですよね?どっちのイメージに近いのかな?早く観たいです。ジェントリーさんとはちょっと雰囲気違ったから、そりゃそうですよね、同じイメージじゃ名が廃りますもの、、、、早く2月来て~
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>また面白そうな (Yam Yam)
2022-01-09 16:31:14
Abiさん、
お好みのタイプかどうか分りませんが、私的には好きな内容でした。 脳みそを振り絞らなくても良い、まっ
たり感のある 正に古き良きミステリです。 
ところで、「ヨルガオ」もう回って来たんですか? 羨ましいな~。私の方は、予約17番目、「木曜殺人俱楽
部」は7番目。未だ大分かかりそうです。
これから P.D.ジェイムズの”ダルグリシュ”に取り掛かります。
コロナ第6波の余波で図書館が閉鎖にならない様祈るばかりですわ。
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また面白そうな (Abi)
2022-01-09 15:49:31
本のご紹介有難うございます、去年から待っていましたヨルガオ殺人事件、やっと順番が回ってきまして読みだしたところです。木曜殺人倶楽部だったか本のタイトルもうろ覚えの本も後何人かの次に回ってきます。予約あまり早く入れるとダブってしまうと心配。次予約します。
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