第三部 未知への挑戦(4) 安全のカルテ ごく一部に水の影響か

伊達市霊山町の小国地区(旧小国村)で昨年試験栽培した玄米のごく一部から見つかった「はずれ値」を調べていた東京大大学院教授、根本圭介(52)は、「はずれ値」水田のイネが土壌からだけでなく用水からも放射性セシウムを吸収した可能性があるとにらんだ。しかし、放射性セシウムの形状から考察すると、ふに落ちなかった。
水に含まれる放射性セシウムの形状には、水中にイオンとして溶けている「溶存(ようぞん)態」と、浮遊する土壌粒子や有機物などに吸着・固定されている「懸濁(けんだく)態」とがある。一般的に、溶存態セシウムはイネの茎や根から吸収されやすく、一方の懸濁態セシウムは吸収されにくいとされる。県と農林水産省はその立場だ。
土壌のカリウム濃度が比較的高いにもかかわらず、玄米のセシウム濃度が高かった「はずれ値」水田に引き込まれたため池の用水には、懸濁態セシウムが多く含まれていた。「本当に懸濁態セシウムはイネに吸収されないのだろうか」。根本は、その用水でイネを水耕栽培して検証してみることにした。
■ ■
夏場の渇水期だけ水田に引かれた、ため池の水を採取した。この水をフィルターでろ過すれば、懸濁態セシウムは除去されるが、溶存態セシウムの濃度は変わらない。
県と農水省が言うように、懸濁態セシウムがイネに吸収されないのであれば、ろ過しない水(懸濁態と溶存態)でも、ろ過した水(溶存態のみ)でもイネのセシウム吸収量に違いはないはずだ-。根本は考えた。
だが、ろ過した水で栽培したイネのセシウム吸収量は、無ろ過に比べ数分の1に激減した。つまり、イネは懸濁態セシウムをよく吸収していたのだ。
さらに、ため池の水は夏場に限って懸濁態セシウム濃度が高かったが、秋から冬にかけて顕著に下がっていたことも分かった。2月の懸濁態セシウム濃度は夏場の30分の1程度しかなかった。根本らは用水の放射性セシウムは季節変動する可能性を突き止めた。
■ ■
県と農水省によると、県内のため池や水路などの水質調査では、ほとんどが検出下限値(1リットル当たり1ベクレル)未満。今年1月にまとめた「放射性セシウム濃度の高い米が発生する要因とその対策について」の中で、水源が原因でまとまって基準値を超過する事例はこれまでのところないと前置きした上で、「玄米中の放射性セシウム濃度が土壌からの移行だけで説明することが難しい事例も一部にある」としている。「水からの影響は限定的」としながらも、引き続き用水を調べることにしている。近く、小国地区のため池などでも調査が行われる予定だ。
「県や国は懸濁態セシウムの吸収はほとんどないとしているが、条件によっては吸い上げるのではないか」。根本らの試験栽培に協力している上小国の農業、佐藤吉雄(70)は、用水の影響の有無が明らかにされることを期待している。
だが、セシウム吸収の技術的解明とは別に、中山間地域の農業が抱える課題もあった。(文中敬称略)

2013/05/17 11:23 福島民報

伊達市霊山町の小国地区(旧小国村)で昨年試験栽培した玄米のごく一部から見つかった「はずれ値」を調べていた東京大大学院教授、根本圭介(52)は、「はずれ値」水田のイネが土壌からだけでなく用水からも放射性セシウムを吸収した可能性があるとにらんだ。しかし、放射性セシウムの形状から考察すると、ふに落ちなかった。
水に含まれる放射性セシウムの形状には、水中にイオンとして溶けている「溶存(ようぞん)態」と、浮遊する土壌粒子や有機物などに吸着・固定されている「懸濁(けんだく)態」とがある。一般的に、溶存態セシウムはイネの茎や根から吸収されやすく、一方の懸濁態セシウムは吸収されにくいとされる。県と農林水産省はその立場だ。
土壌のカリウム濃度が比較的高いにもかかわらず、玄米のセシウム濃度が高かった「はずれ値」水田に引き込まれたため池の用水には、懸濁態セシウムが多く含まれていた。「本当に懸濁態セシウムはイネに吸収されないのだろうか」。根本は、その用水でイネを水耕栽培して検証してみることにした。
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夏場の渇水期だけ水田に引かれた、ため池の水を採取した。この水をフィルターでろ過すれば、懸濁態セシウムは除去されるが、溶存態セシウムの濃度は変わらない。
県と農水省が言うように、懸濁態セシウムがイネに吸収されないのであれば、ろ過しない水(懸濁態と溶存態)でも、ろ過した水(溶存態のみ)でもイネのセシウム吸収量に違いはないはずだ-。根本は考えた。
だが、ろ過した水で栽培したイネのセシウム吸収量は、無ろ過に比べ数分の1に激減した。つまり、イネは懸濁態セシウムをよく吸収していたのだ。
さらに、ため池の水は夏場に限って懸濁態セシウム濃度が高かったが、秋から冬にかけて顕著に下がっていたことも分かった。2月の懸濁態セシウム濃度は夏場の30分の1程度しかなかった。根本らは用水の放射性セシウムは季節変動する可能性を突き止めた。
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県と農水省によると、県内のため池や水路などの水質調査では、ほとんどが検出下限値(1リットル当たり1ベクレル)未満。今年1月にまとめた「放射性セシウム濃度の高い米が発生する要因とその対策について」の中で、水源が原因でまとまって基準値を超過する事例はこれまでのところないと前置きした上で、「玄米中の放射性セシウム濃度が土壌からの移行だけで説明することが難しい事例も一部にある」としている。「水からの影響は限定的」としながらも、引き続き用水を調べることにしている。近く、小国地区のため池などでも調査が行われる予定だ。
「県や国は懸濁態セシウムの吸収はほとんどないとしているが、条件によっては吸い上げるのではないか」。根本らの試験栽培に協力している上小国の農業、佐藤吉雄(70)は、用水の影響の有無が明らかにされることを期待している。
だが、セシウム吸収の技術的解明とは別に、中山間地域の農業が抱える課題もあった。(文中敬称略)

2013/05/17 11:23 福島民報