第三部 未知への挑戦(5) 安全のカルテ 基盤整備 選択肢の一つ

土壌中のカリウムがイネの放射性セシウム吸収を抑制することは多くの専門家の研究で立証された。福島県と農林水産省は、土壌のカリウムを欠乏させないため、乾土100グラム当たり25ミリグラムを目標にカリ肥料を使うよう推奨している。
県内全域を対象とした平成24年産米の全袋検査では、ケイ酸カリや塩化カリなどを散布して作付けされたコメのうち、食品中の基準値(1キロ当たり100ベクレル)を超えたのは71袋(1袋30キロ)だけで、全1031万919袋の0.0007%だった。99.78%に当たる1028万8496袋が測定下限値(同25ベクレル)未満だ。県は「除染対策とセシウム吸収抑制対策の実効性が認められた結果」と胸を張る。
一方で、基準値超えの要因はカリウムの欠乏だけではなく、「さまざまな要因が複合的に関係しているため、超過地点の要因を解析する必要がある」としている。その一つの要因は、土壌に含まれる粘土粒子の放射性セシウムの吸着・固定力だ。
■ ■
岩石や岩盤の風化によってできる粘土。岩石の構成成分の一つである「雲母」に由来する粘土鉱物は、放射性セシウムの固定力がとりわけ強いとされる。
県と農水省は、23年産米から比較的高いセシウム濃度が検出された地域で、土壌に含まれる粘土を調査した。セシウム固定力が強い雲母由来の粘土鉱物が検出されない水田で、イネのセシウム吸収が高い傾向にあった。山林に囲まれた中山間地域の水田が多くを占めた。
一般に、中山間地域の水田は岩盤の上にある。川に運ばれた土砂が積もってできた福島盆地や郡山盆地と比べ、粘土鉱物の種類も割合も大きく異なる。中通りと浜通りにまたがる阿武隈山地には水はけの悪い湿田が数多くある。水田の排水不良は土壌のカリウム濃度の低下を助長する-と専門家は指摘する。
土壌のカリウム濃度が比較的高いにもかかわらず、玄米のセシウム濃度が高い「はずれ値」の水田は主に山あいで確認された。中山間地域の水田環境には、放射性セシウムの吸収を抑制する上で少なからずリスクがある。
■ ■
「抜本的な基盤整備を導入するしかないのではないか」
24年産米の作付けが制限され試験栽培が行われた伊達市霊山町の小国地区。上小国の農業、佐藤吉雄(70)は基盤整備によるセシウム低減対策の必要性を感じている。
中山間地域の小国地区には、基盤整備が行き届かない水田が多い。昨年に続き試験栽培に取り組む東京大大学院教授、根本圭介(52)も、水田ごとのセシウム吸収要因を解析し、個別に対策を講じていく「局所治療」を基本としながらも、吉雄の言う基盤整備もまた選択肢の一つだと考えている。
だが、今年作付けを再開した農家は23年の約4分の1。基盤整備に向けた地域の合意形成は難しいのが現状だ。「中山間地は自給農家が多い。セシウムの吸収を抑制できても生産コストがコメの価格を上回ってしまえば、稲作をやめる農家が増えるかもしれない」。根本は懸念する。
安全な米作りの仕組みを確立するのは当然だが、原子力災害で疲弊した農山村の負荷をどう軽減していくか-。福島大の研究者も科学的知見を現場に還元しようとしていた。(文中敬称略)
2013/05/18 11:18 福島民報

土壌中のカリウムがイネの放射性セシウム吸収を抑制することは多くの専門家の研究で立証された。福島県と農林水産省は、土壌のカリウムを欠乏させないため、乾土100グラム当たり25ミリグラムを目標にカリ肥料を使うよう推奨している。
県内全域を対象とした平成24年産米の全袋検査では、ケイ酸カリや塩化カリなどを散布して作付けされたコメのうち、食品中の基準値(1キロ当たり100ベクレル)を超えたのは71袋(1袋30キロ)だけで、全1031万919袋の0.0007%だった。99.78%に当たる1028万8496袋が測定下限値(同25ベクレル)未満だ。県は「除染対策とセシウム吸収抑制対策の実効性が認められた結果」と胸を張る。
一方で、基準値超えの要因はカリウムの欠乏だけではなく、「さまざまな要因が複合的に関係しているため、超過地点の要因を解析する必要がある」としている。その一つの要因は、土壌に含まれる粘土粒子の放射性セシウムの吸着・固定力だ。
■ ■
岩石や岩盤の風化によってできる粘土。岩石の構成成分の一つである「雲母」に由来する粘土鉱物は、放射性セシウムの固定力がとりわけ強いとされる。
県と農水省は、23年産米から比較的高いセシウム濃度が検出された地域で、土壌に含まれる粘土を調査した。セシウム固定力が強い雲母由来の粘土鉱物が検出されない水田で、イネのセシウム吸収が高い傾向にあった。山林に囲まれた中山間地域の水田が多くを占めた。
一般に、中山間地域の水田は岩盤の上にある。川に運ばれた土砂が積もってできた福島盆地や郡山盆地と比べ、粘土鉱物の種類も割合も大きく異なる。中通りと浜通りにまたがる阿武隈山地には水はけの悪い湿田が数多くある。水田の排水不良は土壌のカリウム濃度の低下を助長する-と専門家は指摘する。
土壌のカリウム濃度が比較的高いにもかかわらず、玄米のセシウム濃度が高い「はずれ値」の水田は主に山あいで確認された。中山間地域の水田環境には、放射性セシウムの吸収を抑制する上で少なからずリスクがある。
■ ■
「抜本的な基盤整備を導入するしかないのではないか」
24年産米の作付けが制限され試験栽培が行われた伊達市霊山町の小国地区。上小国の農業、佐藤吉雄(70)は基盤整備によるセシウム低減対策の必要性を感じている。
中山間地域の小国地区には、基盤整備が行き届かない水田が多い。昨年に続き試験栽培に取り組む東京大大学院教授、根本圭介(52)も、水田ごとのセシウム吸収要因を解析し、個別に対策を講じていく「局所治療」を基本としながらも、吉雄の言う基盤整備もまた選択肢の一つだと考えている。
だが、今年作付けを再開した農家は23年の約4分の1。基盤整備に向けた地域の合意形成は難しいのが現状だ。「中山間地は自給農家が多い。セシウムの吸収を抑制できても生産コストがコメの価格を上回ってしまえば、稲作をやめる農家が増えるかもしれない」。根本は懸念する。
安全な米作りの仕組みを確立するのは当然だが、原子力災害で疲弊した農山村の負荷をどう軽減していくか-。福島大の研究者も科学的知見を現場に還元しようとしていた。(文中敬称略)
2013/05/18 11:18 福島民報