第3部 未知への挑戦(8) 低減への模索 樹木内部を徹底検証
「あんぽ柿」の加工自粛が決まった後の平成23年11月。福島市飯坂町の県農業総合センター果樹研究所は伊達市保原町のほ場で放射性物質を除去する研究を始めた。まずは柿の樹木表面に降り注いだ放射性物質を取り除く対策が急務だった。
土壌表面を調べた結果、放射性物質は3センチまでの浅い層に集中していた。柿の根は地中に深く伸びているため、根から土壌中の放射性物質を吸収することはほとんどないことが分かった。樹木に生えたコケが放射性物質を吸着しているとみて、高圧洗浄でコケを落とせば、大部分は除去できると考えた。試験では、洗浄で樹木表面の放射線量を88.3%低減できた。予想通りの効果に、各農家も24年の加工再開に向け、樹木の高圧洗浄に取り組んだ。
しかし、果樹研究所が24年10月に洗浄済みの樹木から収穫した柿1キロ当たりの放射性セシウム濃度は低い値で34・5ベクレルが検出された。あんぽ柿に加工すれば、3倍から5倍に濃縮され、食品衛生法の基準値(1キロ当たり100ベクレル)を上回る値だった。同じ対策を講じ、ほとんどが検出下限値未満だったモモやナシよりも、さらに踏み込んだ対策が必要だった。
■ ■
「セシウムが表面から内部に入り込んでいるのではないか」
果樹研究所主任研究員の阿部和博(50)ら研究員は考えた。セシウムがどのように柿に蓄積されるのか、メカニズムを解明する必要があった。阿部らは柿の木を解体し、幹や枝などの放射性物質を調べた。樹木内部の全体からセシウムが確認され、主幹が比較的濃度が高かった。「柿の樹木の表面にある細かな穴が、侵入経路になっているのかもしれない」と推察した。
研究員らが注目したのは、原発事故後に新たに伸びた枝からも検出された点だった。セシウムが樹木内を移動していることをつかんでいた。
栄養分を木の隅々まで運ぶ樹液には、セシウムと性質の似たカリウムが含まれている。セシウムがカリウムと共に樹液に乗って移動していると仮定すれば、果実や新たに成長した枝に蓄積されたことに説明が付く。
■ ■
果樹研究所は24年6月から同年7月まで、セシウムと性質の似ているカリウムを柿の葉から吸収させる試験を行った。カリウムを果実により多く蓄積させ、果実に移行するセシウムの量を減らすのが狙いだった。水稲の試験で、カリウムにイネのセシウム吸収を抑える働きがあることが分かっていたからだ。
だが、10月22日に伊達市で収獲した柿1キロを検査したところ、カリウムを散布した柿のセシウム濃度は38・0ベクレル、散布しなかった柿は31・0ベクレルだった。カリウムの効果はなかったと結論付けられた。
「栄養分であるカリウムを過剰に注入したとしても、内部に入る量は少なく、樹木が栄養不足になっていなければ果実などに取り込まれない」。果樹研究所の見解だった。
加工自粛が続く窮状を打開できる栽培法と期待しただけに、携わった研究員らは落胆した。セシウムの移行を防ぐ手だてはないのか-。阿部は主幹を伐採して柿を栽培する和歌山県の栽培法に目を付けた。(文中敬称略)
2013/05/21 11:31 福島民報
「あんぽ柿」の加工自粛が決まった後の平成23年11月。福島市飯坂町の県農業総合センター果樹研究所は伊達市保原町のほ場で放射性物質を除去する研究を始めた。まずは柿の樹木表面に降り注いだ放射性物質を取り除く対策が急務だった。
土壌表面を調べた結果、放射性物質は3センチまでの浅い層に集中していた。柿の根は地中に深く伸びているため、根から土壌中の放射性物質を吸収することはほとんどないことが分かった。樹木に生えたコケが放射性物質を吸着しているとみて、高圧洗浄でコケを落とせば、大部分は除去できると考えた。試験では、洗浄で樹木表面の放射線量を88.3%低減できた。予想通りの効果に、各農家も24年の加工再開に向け、樹木の高圧洗浄に取り組んだ。
しかし、果樹研究所が24年10月に洗浄済みの樹木から収穫した柿1キロ当たりの放射性セシウム濃度は低い値で34・5ベクレルが検出された。あんぽ柿に加工すれば、3倍から5倍に濃縮され、食品衛生法の基準値(1キロ当たり100ベクレル)を上回る値だった。同じ対策を講じ、ほとんどが検出下限値未満だったモモやナシよりも、さらに踏み込んだ対策が必要だった。
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「セシウムが表面から内部に入り込んでいるのではないか」
果樹研究所主任研究員の阿部和博(50)ら研究員は考えた。セシウムがどのように柿に蓄積されるのか、メカニズムを解明する必要があった。阿部らは柿の木を解体し、幹や枝などの放射性物質を調べた。樹木内部の全体からセシウムが確認され、主幹が比較的濃度が高かった。「柿の樹木の表面にある細かな穴が、侵入経路になっているのかもしれない」と推察した。
研究員らが注目したのは、原発事故後に新たに伸びた枝からも検出された点だった。セシウムが樹木内を移動していることをつかんでいた。
栄養分を木の隅々まで運ぶ樹液には、セシウムと性質の似たカリウムが含まれている。セシウムがカリウムと共に樹液に乗って移動していると仮定すれば、果実や新たに成長した枝に蓄積されたことに説明が付く。
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果樹研究所は24年6月から同年7月まで、セシウムと性質の似ているカリウムを柿の葉から吸収させる試験を行った。カリウムを果実により多く蓄積させ、果実に移行するセシウムの量を減らすのが狙いだった。水稲の試験で、カリウムにイネのセシウム吸収を抑える働きがあることが分かっていたからだ。
だが、10月22日に伊達市で収獲した柿1キロを検査したところ、カリウムを散布した柿のセシウム濃度は38・0ベクレル、散布しなかった柿は31・0ベクレルだった。カリウムの効果はなかったと結論付けられた。
「栄養分であるカリウムを過剰に注入したとしても、内部に入る量は少なく、樹木が栄養不足になっていなければ果実などに取り込まれない」。果樹研究所の見解だった。
加工自粛が続く窮状を打開できる栽培法と期待しただけに、携わった研究員らは落胆した。セシウムの移行を防ぐ手だてはないのか-。阿部は主幹を伐採して柿を栽培する和歌山県の栽培法に目を付けた。(文中敬称略)
2013/05/21 11:31 福島民報