第三部 未知への挑戦(13) 低減への模索 「水研磨」原木に効果
大量の水を使わずに効率的に原木を除染する方法を模索していた県林業研究センター林産資源部長の熊田淳(53)が、水を循環させて工業製品を研磨する「ウェットブラスト」の技術を知ったのは偶然だった。
平成24年夏、郡山市の林業研究センター敷地内で首都大学東京(東京都)がウェットブラストを活用してコンクリートを除染する実験に取り組んだ。
円盤状の容器が設置された機械の中でコンクリートに水を吹き付け、表面を磨く。水は循環し、放射性セシウムは遠心分離機とフィルターで取り除かれる。放射線量は大幅に低下し、何より水処理に悩む必要がなかった。
シイタケを安定的に栽培するには原木の樹皮が必要と考えられている。皮を削り過ぎると生産量が低下する。「コンクリートの表面を磨く技術は、シイタケ栽培用原木の除染に応用できるのではないか。ごくわずかに皮を削るだけで済む」。見学していた熊田はひらめいた。その場で、原木の除染も試してもらった。短時間でセシウムを8割程度取り除くことができた。
実験で使われたのはバイクの部品を磨くための機械だった。「原木用に改良すれば、さらに効果が高まる」。原木シイタケの栽培を復活させる可能性を感じ取った。
■ ■
25年4月26日。郡山市にある、あぶくま地域広葉樹利用組合の会員の事務所に原木シイタケの生産者ら約30人が顔をそろえた。林業研究センターと同組合、首都大学東京、産業機械メーカーのマコー(本社・新潟県長岡市)主催のウェットブラストによる原木除染の研究成果説明会だった。
「シイタケ栽培を再開したいんだ。行動を起こしたい。原木を除染する技術をぜひ見たい」。原木シイタケ農家で県きのこ生産組合連合会長の北野徹(60)=西郷村=は声を上げた。一緒にいた生産者仲間も思いは同じだった。
シイタケ栽培用の原木に研磨剤を混ぜた水を循環させながら吹き付けて極薄に削り取る。原木1キロ当たりのセシウム濃度が200ベクレル程度であれば、シイタケを栽培できる五50ベクレル以下に1分ほどで低減できた。
説明資料に食い入るように見入っていた北野らに期待感が込み上げた。
■ ■
ウェットブラスト方式の除染を実用化するには、原木専用の機械に改良する必要がある。長さ約90センチの原木が収まる容器付きの機械を開発しなければならない。
マコーの開発課主任の村山一成(42)は「これまでのノウハウを生かせば、原木に対応した機械に改良することは十分できる」とみている。原木用ウェットブラスト機械を量産することも可能だ。
林業研究センターは早急に原木用ウェットブラスト機械の試作機を作り、生産者と協力して来年春には試験栽培を始めたい考えだ。現在、試作機の開発方法を検討している。
「現段階のウェットブラストの効果であれば、阿武隈高地の一部でシイタケ栽培用の原木を使えるようになるかもしれない」。熊田は手応えを感じている。「ウェットブラスト方式を確立し、原木シイタケ栽培復活の大きな一歩にしたい」(文中敬称略)
2013/05/26 11:18 福島民報
大量の水を使わずに効率的に原木を除染する方法を模索していた県林業研究センター林産資源部長の熊田淳(53)が、水を循環させて工業製品を研磨する「ウェットブラスト」の技術を知ったのは偶然だった。
平成24年夏、郡山市の林業研究センター敷地内で首都大学東京(東京都)がウェットブラストを活用してコンクリートを除染する実験に取り組んだ。
円盤状の容器が設置された機械の中でコンクリートに水を吹き付け、表面を磨く。水は循環し、放射性セシウムは遠心分離機とフィルターで取り除かれる。放射線量は大幅に低下し、何より水処理に悩む必要がなかった。
シイタケを安定的に栽培するには原木の樹皮が必要と考えられている。皮を削り過ぎると生産量が低下する。「コンクリートの表面を磨く技術は、シイタケ栽培用原木の除染に応用できるのではないか。ごくわずかに皮を削るだけで済む」。見学していた熊田はひらめいた。その場で、原木の除染も試してもらった。短時間でセシウムを8割程度取り除くことができた。
実験で使われたのはバイクの部品を磨くための機械だった。「原木用に改良すれば、さらに効果が高まる」。原木シイタケの栽培を復活させる可能性を感じ取った。
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25年4月26日。郡山市にある、あぶくま地域広葉樹利用組合の会員の事務所に原木シイタケの生産者ら約30人が顔をそろえた。林業研究センターと同組合、首都大学東京、産業機械メーカーのマコー(本社・新潟県長岡市)主催のウェットブラストによる原木除染の研究成果説明会だった。
「シイタケ栽培を再開したいんだ。行動を起こしたい。原木を除染する技術をぜひ見たい」。原木シイタケ農家で県きのこ生産組合連合会長の北野徹(60)=西郷村=は声を上げた。一緒にいた生産者仲間も思いは同じだった。
シイタケ栽培用の原木に研磨剤を混ぜた水を循環させながら吹き付けて極薄に削り取る。原木1キロ当たりのセシウム濃度が200ベクレル程度であれば、シイタケを栽培できる五50ベクレル以下に1分ほどで低減できた。
説明資料に食い入るように見入っていた北野らに期待感が込み上げた。
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ウェットブラスト方式の除染を実用化するには、原木専用の機械に改良する必要がある。長さ約90センチの原木が収まる容器付きの機械を開発しなければならない。
マコーの開発課主任の村山一成(42)は「これまでのノウハウを生かせば、原木に対応した機械に改良することは十分できる」とみている。原木用ウェットブラスト機械を量産することも可能だ。
林業研究センターは早急に原木用ウェットブラスト機械の試作機を作り、生産者と協力して来年春には試験栽培を始めたい考えだ。現在、試作機の開発方法を検討している。
「現段階のウェットブラストの効果であれば、阿武隈高地の一部でシイタケ栽培用の原木を使えるようになるかもしれない」。熊田は手応えを感じている。「ウェットブラスト方式を確立し、原木シイタケ栽培復活の大きな一歩にしたい」(文中敬称略)
2013/05/26 11:18 福島民報